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シニアに学ぶ『退職後の輝き方』第9回 齋藤 源氏『「長い現役」という考えで働く』

この記事は、2012年~2017年にかけて当委員会で連載されたインタビュー企画である「シニアに学ぶ『退職後の輝き方』」を再掲載するものです。インタビュー対象者のご所属等については、掲載当時の肩書のままになっていますので、ご留意ください。

一般財団法人 水源地環境センター 技術参与
1941年生まれ。茨城県出身。1960年建設省に入省。この間、勤務を続けながら中央大学理工学部土木工学科に進学し、1966年卒業。前半の約 26 年間は、ダムに関係する仕事、後半10年は、河川管理、災害復旧、技術管理関係の仕事に従事。1998年退職。財団法人ダム水源地環境整備センター・主席研究員・企画部長を経て、現在は、一般財団法人水源地環境センター・技術参与
インタビュー日: 2014 年 2 月 17 日
聞 き 手: 山﨑廉予,山田拓也,菊地良範

再掲載に当たって(委員会より)
「『定年退職後』と考えるよりも『現役時代をより長く』と考えることが大事。」というお考えが退職後も輝くことができる秘訣だと思いました。高年齢者雇用安定法が改正され、まさにそのように考えなくてはならない時代になってきているのだと思います。また、「仕事は教えてもらうのではなく、自ら見ながら覚え、伝承されていくもの」、「どんな仕事も、前向きに取り組んでいると、深く長くやっていくうちに面白くなる」は、10年経っても色褪せない、印象的な言葉だと感じました。斎藤さんの能動的な行動を見習い、次世代に受け継いでいけたらと思っています。 
                          (2023.4.29 H)

ダムのその後を見守る仕事へ

現在の仕事内容を教えてください
 ダム建設の環境、管理ダムの水質、堆砂、ダム操作運用、水源地域振興等の問題の研究、これに関する基準や手引きの作成や、国土交通省、都道府県、電力会社等からのダムに関わる受託業務を行っているのが当センターです。
 私は、新たな事業を手掛けることをテーマに活動し、その時々のニーズに合わせて、ダム環境整備の環境経済評価手法、貯水池に浮かべる人工浮き島の設計手法、大規模堰やダムの魚道の設計手法、ダムの広報(リザバー発行、水源地ネット編集)、ダムの洪水調節手法などに従事してきました。
 現在は、既設ダム容量を有効に活用するための新たなダム操作手法に焦点をあてています。これまで携わってきた多くのダムが管理に入っている時です。これらのダムが今後計画時よりも活用されればいいと思っています。

今の職場を選んだ理由は?
 長年ダムに関係した仕事をしてきたため、役所とコンサルタントの懸け橋になるような財団で、新しい基準、指針、手引きなどをつくれる現在の職場を選びました。
 現役時代はダムの建設に関わってきました。周辺地域の住民のために、道路や公園なども同時に建設してきましたが、過疎化は免れません。現在は、ダム建設後の地域振興対策を考えています。

現在の職場で必要な経験は?
 現在の仕事は、手引きや方策、手法を作ることが多いため、ダムの調査計画から管理まで、網羅的な知識が必要です。設計や計算はできなくても、その概念を知っておくことが必要です。若い時代に流量観測や水計算をやっていたので、その感覚が役に立っています。また、さまざまな手引きの作成検討には、関係する多くの学識者と研究会等を開催しています。多方面の専門的なご意見に触れることが勉強になりますし、様々な先生と顔見知りになることが、その後の仕事にも役に立っています。

どんな仕事も追及すれば面白い

若いころに考えていたことは?
 若いころは、与えられた部署で、受け身で仕事をしていました。しかし、どんな仕事も、前向きに取り組んでいると、深く長くやっていくうちに面白くなります。あれがやりたい、これがやりたいと、ただ言うだけではよくないと思います。

各年代を振り返って下さい
 入省後に大学に通い始めました。20 歳代は、大学に通いながら、主に水計算をしていました。
 30 歳代で、滝沢ダムで初の現場を経験しました。
 40 歳代には、宮ケ瀬ダムで、現場主任監督を長くしましたが、旧河川局開発課の毎週の課内検討会で叩き込まれたダムの知識が役立ちました。また、渡良瀬遊水池の広大な草原湿地を、教育環境・レクリエーション場とするために、財団法人アクリメーション振興財団の設立に奔走しました。
 50 歳代は、一転して様々な方面の仕事をしました。鬼怒川周囲の 38 市町長から成る「鬼怒川小貝川サミット会議」を主催したり、川の一里塚や桜堤の工事も行いました。その後、新たな入札制度への移行の検討、阪神淡路大震災の翌年の復旧工事最盛期には、各地の災害現場の工法指導に行きました。一方で、環境を目的に入れた河川法の改正に備え、災害復旧工事も環境に配慮した工法の検討も行っていました。

仕事に必要なスキルは?
 ダム現場で、水没地域や周辺関係地域の人との意思疎通を円滑にはかることが、ダム地域の振興策や環境問題を考えるのに役に立ちました。土木施設の計画や工事は、住民の生活の場に立ち入ります。如何に意思疎通が出来るかは、豊富な経験が重要だと考えています。
 ダム建設の最盛期に、計画から管理、水源地域問題、水利権など幅広い仕事をしてきたため、特化したスキルというよりは、ダムに関する、ものの考えを幅広く身につけることができ、よかったと思います。

仕事は見て覚える

次世代への技術伝承は?
 次世代に技術伝承するような仕事はしていないと思います。スキルを持った即戦力のある人が個々に動いている職場ですので。
 仕事は教えてもらうのではなく、自ら見ながら覚え、伝承されていくもの、という考えを持っています。心ある人は、自ら動き、どんどん入っていくと思います。漠然と指示する方法もあると思いますが、私にはそれはできません。自分でつい動いてしまいます。

次世代の働き方で望むことは?
 役所で豊富な経験・スキルがあるのに、退職後に適材適所で活躍する人が少ないと感じます。
 現在は、若いころに急激に出世します。役職の順番待ちのような状態だと思います。出世のスピードをもっと遅くし、長い期間にわたり、技術力の向上意識を継続させるようにしたほうがいいのではないでしょうか。

『定年退職後』ではなく、『長い現役』という考え

次世代のシビルエンジニアへ一言
 新たな職場に再就職して、得意分野や経験を生かして活躍することは、若くないと難しいと思います。定年後の年齢以上の人が新しい職場に受け入れられ、活躍することは難しいでしょう。
 一方、若い土木技術者の減少に反して、震災復興、社会資本の老朽化対策、五輪等で土木技術者のニーズが高まっています。これからは、『定年退職後』と考えるよりも、現役時代をより長く考えることが大事だと思います。「60歳の会社の定年で終わり」という考え方を変えた方がいいのではないでしょうか。
                         (文責:山﨑廉予)

COLUMN
後進に伝えていきたい齋藤さんの技術力
  私は、齋藤さんを役所の現役時代からよく存じあげていました。技術力があると同時に、人間力のある人という印象を強く持っていました。水源地センターで一緒に仕事をするようになり、その源泉が様々な経験に裏付けられた技術力と、飽くなき好奇心、探求心にあることがよくわかりました。
 齋藤さんのすごいところは、いつまでも老け込まない若々しさと、バイタ
リティーにあると思います。逆に言えばこれらの点は、今の若手にもっとも
欠けている部分です。そういう意味で、齋藤さんがこれまでに培ってきた技
術力、またその磨き方を、是非後進に伝えていって頂きたいと思います。

渡邉和足(一般財団法人水源地環境センター 理事長)

インタビューを終えて(聞き手から)
 いまではやられていない水の手計算 に始まり、ダムの建設、維持管理、その後の活用まで、長期に渡り、ダムの全てを見続けている、他に並ぶ者がいない経歴をお持ちの方でした。ダムが大好きなことが、終始伝わってきまし た。若い頃に身につけた知識を最大限に活かし、現在の新しい仕事にもどんどん取り組んでいく姿、今もなお勉強が楽しいと、どん欲に物事を吸収していく姿、これはシビルエンジニアの理想形なのではないかと思いました。

委員会からのメッセージ
 齋藤源さんは、現役時代は主に旧建設省関東地方建設局において技官として、ダム事業を主体に経歴を積まれました。退職後は財団法人でダム等に係わりを続けられ、70 歳を過ぎた現在も同財団において活躍されています。現役時代及び退職後ともにダム一筋のご経歴に興味を抱き、お話をお聞きしました。

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