新型コロナによる在宅勤務対応で忙殺された四月を終えてようやく一息、「働き方改革」「教育の情報化」の今を思う。

※本記事は、「小説家になろう」に転載しています。

 三月末から新型コロナの感染が拡大して、色々なことがありました。やはり大きいのは緊急事態宣言からくる「出勤率(7~)8割減」と、それに伴う「テレワーク推進の流れ」でしょうか。

 実は私は、営業拠点の中にある IT部門に、しがない外注さんとして勤めていまして。主にモバイル関係、業務用のスマホやノートパソコンを使ってインターネット経由で社内のネットワークにつなぐシステムを担当しているのですが。

――これが、今回のコロナウイルス対策による「テレワーク推進」に直撃した結果、途方もなく忙しくなったと、そんな感じですね。

 うん、私が住んでるのは愛知県なんですけどね。なぜか4月7日の(対象外のはずの)緊急事態宣言で、途方もない量の仕事が発生し始めてですね。「名古屋飛ばし」だなんだと騒ぐツイッターの人たちや、一日あたり20人位しか感染者が出ていないのになぜか大騒ぎする愛知県知事さんを横目に、ひたすらテレワーク環境のセットアップをしていたと、そんな感じです。

……対象者があまりに多くなったので、可能であれば自力でセットアップしてもらって、それが困難な人は会議室に集まってもらって、適時アドバイスをしながら手順通りに操作してもらうと、そんな感じで作業していたのですが。一度に大勢を集めてはいけないと言われて、少人数に小分けしてセットアップする羽目になりまして。しかも、「こんな状況だから早くしろ」とかわがままを言う人も続出したと。
 いやあ、人間、忙しくなると色々と短気になりますね。そのことをこの一ヵ月間で、この上なく実感しました(笑)

 で、結果として、四月の大半を多忙に過ごすことになりまして。ええ、私は「出勤率8割減」なんてどこ吹く風とばかりにほぼ毎日会社に出勤して、今までにないほど多数の人と短期間に接するはめになりました。百人位かな?

――もうね、この一ヵ月、私は絶対にコロナにかかってはいけない人になってたと思います。3密を避けてマスクをして手洗いをこまめにして早寝早起きを心がけてと、健康には本当に気を使いました(笑)

 それでもね、ウチは営業拠点で、結構な人は既にテレワーク(というよりはモバイルワーク)が可能になってた筈なんですよね。――この数年間、ウチは「働き方改革」の一環として、かなり積極的にモバイル端末やIT機器を導入していましたから。

――そういった意味では、私が行っていたのは、実は「コロナによるテレワーク対応」ではなく、「働き方改革によるテレワーク推進」だったのかも知れませんが。

  ◇

 働き方改革のモデルケースとして挙げられる企業の一つに「日本マイクロソフト」という会社があります。まあ、誰でも知ってると言っても過言でないほど有名な、超巨大IT企業の日本法人ですね。……もっとも、今の時代、「世界的なIT企業」という言葉で名前が挙がるのは Google、Apple、Facebook、Amazon の4社かなという気もしますが。

 このマイクロソフトという会社ですが。世界中にある現地法人の全てにおいて、同じやり方で仕事をして同じやり方で評価をする、そんな企業なのだそうです。

……そして、過去の「日本マイクロソフト」は、数あるマイクロソフトの現地法人の中でも圧倒的なまでの「ビリ」、「病気の支社(Sick StaffSub)」というあだ名までついていた会社だったみたいです。

 その「病気の支社」は、さまざまな方策を打ち立てて、「ビリ」から脱却しようとします。他支社と同じやり方、同じ環境ですからね。脱却する方法だってわかり切っています。他の支社と同じように、その環境を上手く使えばいいだけです。

 そのために、思い切って立地の良い場所に引っ越しをする。良い機会だから紙を捨てろと指示をして、必要なら電子化する、そのための業者と契約もする。
 そうして引っ越しした先では、他の支社と同じように、場所に縛られないやり方を推し進める。「自分の席」はいらない、自由な席に座って自由に仕事をする。

 今は便利な世の中ですよね。パソコンさえ持ち歩けば、どこでも仕事ができる。電子化さえしてしまえば、あとはインターネットと暗号化技術が距離をゼロにしてくれます。だから、しっかりと環境さえ整えれば、職場というのは単に、「仕事仲間と直接対面するための場所」でしかない訳です。
 自由な場所で仕事をするための道具は全て整えられている。それをどう使えば良いのか、どの位の効果があるのかも、他の支社を見ればわかる。これほど恵まれた条件で業務改善に取り組めるなんてことは、あまりないと思います。

 それでも、気が付けば自由な筈の席に、決まった人が座り始める。そうですね、例えば、同じ部署の人間が同じ場所に集まって座るようになる。それが当たり前になると、次は「集まらないと仕事ができない」やり方で仕事をするようになる。やがて自由な筈の席に個人の書類が置かれていって、紙ベースの、昔の仕事の仕方になっていく。

――そうやって、気が付けば「ビリ」のやり方に戻ってしまう訳です。そりゃあ、そんなのを見れば他の支社だって「あそこは病気だ」と言うようになると思います。

 それでも、日本マイクロソフトは、なんとか新しいやりかたを定着させようと悪戦苦闘を続ける訳ですが。

――そんなある日、東日本大震災という大災害が発生します。

 この大災害で、東京でも一時的に交通機関が麻痺して、帰宅困難者が大量に発生します。このとき、日本マイクロソフトは一週間の間、全社的に在宅勤務に切り替えるという一つの決断をします。

 そして、強制的に在宅勤務となって、ようやく従業員たちは気付きます。――在宅勤務でも仕事ができる。それだけの環境が既に構築されていることに。

――東日本大震災という大災害による半ば強制的な「在宅勤務」によって、ようやく「日本マイクロソフト」という会社の「働き方改革」は軌道に乗り始めることになったのです。

  ◇

 日本政府は、この先訪れるであろう近未来の世界の姿を予測し、その近未来の世界に、一つの名前を付けました。――「Society 5.0」、現実世界とインターネットが融合して一つの社会を形成する。そんな世界です。

 AI や IT技術は、新しい時代を創り出す。その社会は、人類がこれまで歩んできた狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)の次にくる、未知の社会になるのではないか。近い将来、新石器革命や産業革命、IT革命に匹敵するような、大きな変革が起きると、そう日本政府は予測している訳です。

 全ての人がインターネットと繋がり、まるで自分の身体の一部のように活用する。全てのモノがインターネットと繋がり、当たり前のように使いこなす。誰もが、そんな高度なサービスを利用し、恩恵に預かることができる。
 その社会はきっと、今よりも時間や場所を超越した社会の在り方になると思います。だから、働き方も今とは違うものになっているのかなと。「仕事をするために会社に行く」という現在の常識が覆った社会になっていてもおかしくありません。

――そうですね、もしかすると「会社に行かないとできない仕事があるから、交通費や移動時間という『経費を払って』会社に行く」、そんな考え方が当たり前になっている、そんな世界かも知れません。

 会社に行くのをコストだと考える。エライ人が眉をひそめて「無駄な会議ばかりするから出社日数が多くなって交通費や時間がかかるんです。無駄な出社は控えて、真面目に仕事をしてください」と小言を言う、そんな時代が、すぐそこに来ているのかも知れません。

  ◇

 日本政府は、そんな時代がこれから訪れると考えています。だからこそ、政府はやがて到来するその時代に備え、今の内に色々と準備をしています。

 経済産業省は「2025年の崖」という言葉を使って、旧来のブラックボックス化したシステムから脱却しようと呼びかけています。「先の時代を見据えて」新しい技術を取り入れたシステムの刷新を行わないと、これまで資産だったものが「過去の遺物」となって、足かせになりますよと。だから、システムに業務を合わせるのではなく、業務に適したシステムをしっかりと創りあげましょうと。

 厚生労働省の推進していた「働き方改革」。効率化とか時間外の削減ばかりが先行していた印象がありますが、目指していたものは「多様な働き方を認めることで、より多くの人が活躍できるようにする」そんな社会の実現です。それは、この先に待っている「インターネットによって距離や時間を超越した社会」に適した働き方でもあると思います。

 文部科学省は「教育の情報化」を推進すると同時に、できるだけ早い段階で子供たちに「コンピュータを用いた教育」を施そうとしています。これは、従来の教育課程をコンピュータを用いて行うことで、コンピュータという機械がどんなことができるのか、どう使えば良いのかを学ばせる、そんな取り組みですね。同時に、情報活用能力(インターネットを始めとした各種情報を適切に処理する力)を育むことも視野に入っていたと思います。

 とりあえず思いつくものを上げてみましたが。でも、政府はこれ以外にも医療、農業、研究開発と、様々な分野で様々な取り組みを行っています。「Society 5.0」という言葉は、近い将来を指し示す一つのキーワードです。この言葉で検索すれば、この先この国がどういう方向に進もうとしているか、いろんなことが出てくると思います。

 なので、そうですね。一度この言葉で色々と検索してみると面白いかな、なんて思います。

  ◇

 私は今回のコロナによる緊急事態宣言で、四月の半分以上を多忙に過ごすことになりました。多分百人以上の人のノートパソコンに、在宅勤務をするためのソフトをインストールして、使い方の説明をしました。
 でも、私はこの緊急事態宣言でコロナで在宅勤務をするため「だけ」のために、必死になって対応していたのではないと思っています。

――むしろ、緊急事態宣言が解除された後でもね、堂々と「在宅勤務」してくれれば良いなと、そう思うのです。

 私は仕事のやり方が「紙」主体になりがちな、ちょっとダメな人なので、どちらかというと会社に出勤したいタイプなのですが。でも、そうでない人ももちろんいるし、この先のことを考えるとね、しっかりとした環境があればむしろ在宅の方が効率が良いという人もたくさんいると思うのです。

 ある日突然「人との接触を8割減らせ」なんて言われて8割もの人間が在宅になれば混乱するのもしょうがないし、経済に負の効果が出てくるのも当たり前だと思います。

――だけど、「接触減=経済が失速」という図式は、少し違うと思います。

 少なくとも先に挙げた「日本マイクロソフト」なんかは、10割在宅になろうが、鼻歌まじりで業績を上げると思います。……まあ、あそこは Skype とか Teams とか、テレワークに関連する商品を持ってるからというのもありますが。
 でも、日本マイクロソフトが「テレワーク」という働き方をしっかりと組みこんだ会社で、その結果むしろ経営体質が強化されているというのも確かなのです。

 もちろん、業種によっても違いはあるのはわかります。テレワークのできない業種だってあります。営業停止を要求された業種は本当に大変だと思います。
 だけど、テレワークになっても負担にならない業種だってある。この先のことを考えると、むしろここでテレワークを推進した方が良い業種だってたくさんあると思うのです。

――コロナの騒動がいつまで続くか、私にはわかりません。緊急事態宣言が解除されても、完全に以前の状態に戻る訳じゃないとも思います。でも、それは必ずしも悪いことだけではないと思います。

 コロナの後に待っているのは、「コロナによって傷ついた世界」ではない可能性も十分にあります。ここで行われた施策が、コロナの後に待つ「新時代の幕開け」の、最初の一歩になる可能性だって、十分にあるのです。

 元に戻ることができないのなら、先に進むしかないと思います。今は、一人一人が社会に求められているものをしっかりと見据えて、前に進むべき時だと思います。

――そうやって前に進んだ人を応援するためにも、よりよい知性を持てるように心がけたいなと、そんな風に思います。

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