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十旭日と太陽のトルティージャ #お酒のひととき

お日さまの料理を、お日さまのお酒で楽しむ。そんなマリアージュもあっていい。

最近、Twitterやnoteが黄色く眩しかった。そこらじゅうでトルティージャが焼かれていたのだ。HARCOさんのこちらの企画だった。

トルティージャって聞いたことはあるけどよく知らなかった。どうやらスペイン風オムレツのことらしい。うん、それならなんか食べた記憶あるぞ。じゃがいもや玉ねぎといったお好みの具材を入れて焼くだけ。なんだか見ているだけで元気の出てきそうな料理だ。

HARCOさんのnoteには、こう書いてあった。

まん丸い太陽のようなスペインの卵焼き『トルティージャ』。連載「食べて生きる人たち」の中でもご紹介しましたが、スペインの代表的なソウルフードでもあります。

太陽。そうか。もう太陽にしか見えなくなった。お日さまの料理なんだ。食べる前からエネルギーたっぷりで当然なのだ。

最近、愛する日本酒への熱(個人的通称:酒熱)が再び右肩上がりを続けている。かくなる上はトルティージャを作って日本酒と一緒に楽しみたい。伴侶になる良いお酒ないかなと思って5秒。すぐに思いついた。

島根の「十旭日 特別純米」。これしかない。

このお酒は、夏に書いたnoteことふりさんに喩えさせていただいたもの。ぼくの知っている中で、太陽というかお日さまに一番似ているお酒。

銘柄名は「じゅうじあさひ」。快晴のカラっとした冬空の下、ポカポカの陽だまりを思い起こさせる穏やかな味わいに一目惚れしたのを忘れない。主張の強すぎない旨味は終始やさしく、温めてお燗にすると、丸みを帯びて伸びやかに広がっていく。まるで全部包み込んでくれる温かいご飯のよう。ラベルの色は、そんなイメージに相応しい。

ぬる燗(40℃)よりは、しっかり温度を上げて若干乾いた感じが出るぐらいの方がキレの良さも際立つ。酒米の改良雄町は、山陰地方では栽培しにくい雄町を何とかして島根の地に適応させた品種だ。八百万の神が集う出雲の地でひたむきに醸されるお酒には、人を惹きつける物語がある。

実は先月、そんな大好きな蔵元を訪れてきたところだった。そんな偶然あるんだろうかというぐらい、今思えばぴったしのタイミングだった。

蔵元の旭日酒造さんは、出雲市の商店街に趣きある家屋で佇んでいた。平日なこともあってお客さんはぼくら夫婦のみ。現在は蔵元の娘さんとその旦那さんがご夫婦でお酒造りに勤しまれていて、この日の売店では娘さんのお母様が応対してくださった。大好きな特別純米を購入。いつも東京で美味しくいただいていますとちゃんと伝えられてよかった。

そこで通りかかった太陽のトルティージャ祭り。シンプルなレシピに忠実にじゃがいもと玉ねぎで作ろうかとも思ったが、ここは何とかして十旭日に合う味にしてみたい。お日さまに、お日さまを重ねるのだ。

果敢というか無謀な船旅には、水先案内人が必要になる。行きつけの居酒屋の大将が、毎年スペインを訪れるほどのスペイン料理通だと思い出すのに時間はかからなかった。十旭日に合いそうなトルティージャをつくるなら、どんな具材がいいかなと尋ねてみた。

帰ってきた答えは、ゴボウだった。

なるほどゴボウの土っぽさは、ジブラルタルの風にほのかな和のテイストを乗せてくれる気がする。キノコも合うんじゃないとのことで、舞茸も買ってきていざ調理。小さめのフライパンで焼くとちょうどよさそう。ひっくり返すのが、難しい。

まんまるのお日さまが、できあがった。

いや、お日さまにしては茶色すぎる。なんなら左下に映ってる十旭日のほうが黄色い(ちなみに山吹色は、旨味がしっかり乗ったお酒の証)。ゴボウと舞茸の色が出たのかなあ。ゴボウもじゃがいもも飛び出てるし、そもそも具材が多すぎた。きれいな円形なのだけがせめてもの救い。

でも、お日さまのオムレツは、お日さまのお酒と相性抜群だった。太陽の輪郭は、おぼろげながらも確かに重なっていた。ゴボウのおかげかな。ちょっと足した味噌も助太刀してくれた感じがする。身体の芯からじんわりと伝わってくる温かさが、日に日に寒さを増すこの時期にはぴったりだった。

元気をくれる料理とお酒に、大切な思い出を言葉で添えたらまた美味しくなった。HARCOさん、旭日酒造さん、素敵な時間をありがとうございました。

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