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折り紙というアート

折り紙が好きです。タイトル画像は今年の干支で、毎年行きつけの居酒屋に飾ってもらっているもの。来年には十二支の折り返しを迎えます。

今日は、そんな折り紙について思っていることを書いてみます。

折る楽しみ

小学生の頃、本をろくに読まなかったぼくが唯一図書室から借りていたのが折り紙の本でした。ずっと絵の教室に通っていたこともあって、絵を描いたり工作をすることは好きでした。折り紙もその一環だったのだと思います。もう絵を描くことは少なくなりましたが、折り紙だけは、時折思い出したように夢中で折ることがあります。

下記は、小学校の図書室に置いてあった桃谷好英さんという折り紙作家の本の1冊。作品を折る手順(折り図)がテーマごとにまとまっています。

桃谷さんは、ぼくが最初に好きになった折り紙作家でした。ここでいう作家とはピアノでいう作曲家と同じで、自分でオリジナルの作品を作れる人をいいます。

折り紙作家には、折り図を本にまとめて出版している人が多くいます。ぼくは折り図に従って折ること、頑張っても仕上げの直前にアレンジを加えることぐらいしかできないので作家には到底なれません。これまたピアノに喩えれば、楽譜を見れば弾けるぐらいでしょうか(音楽に疎くてよくわからない)。

タイトル画像にある干支のネズミは、下記のYoutubeでHenry Phamさんという外国の折り紙作家が紹介されている作品を観て折ったものです。できあがり姿は高さ4cmぐらいで、使った紙は市販の折り紙(15cm×15cm)1枚。後述しますが、折り紙用語的にはこれを「不切正方形一枚折り」と呼んだりします。

動画だと折り図にはない「折るプロセス」が見える反面、いわゆる「中割り折り」「被せ折り」といった折り図の指示を頼りにしている人にとっては、かえってわかりにくい場合もあります(作家の人の手に隠れて肝心なところが見えないことも…)。

折り紙(Origami)は海外でも評価されている日本文化の一つで、「origami diagram」とか「origami instruction」と検索すると結構な数の外国人作家さんの作品を観ることができます。外国人作家の方が積極的に折り図や動画を紹介しているイメージがあるのは、気のせいではないと思います。

紙1枚と手だけで折る

桃谷さんは、複数の紙を繋ぎ合わせて1つの作品を創るタイプの作家さんでした。1枚の紙でディティールを凝らそうとするとどうしても折り方が複雑になるので、複数の紙を使った方が一般的に難易度は下がります。もっとも、複数の紙を使って幾何学的な創作をする「ユニット折り紙」というジャンルもあり、1枚で折るのとはまた違う難しさがあったりします。

ぼくは、いつからそうなったかは忘れましたが、紙1枚と手だけを使って折る「不切正方形一枚折り」というジャンルが好きな人です。名称のとおり、ハサミで紙を切ったりはせず(不切)、テープや糊で複数の紙をくっつけたりはしません(一枚)。紙のサイズは作品によって変えますが、基本的には正方形を使うことが多いです。かれこれ20年以上、正方形の紙を見ると何か折りたくなってしまう病にかかっています。

下の写真は、8年ぐらい前に折ったドラゴンです。確かネットで紹介されていた外国人作家の方の作品だったと思います。できあがり姿は高さ8cmぐらい。使ったのは、近所のケーキ屋の包装紙(45cm×45cmぐらい。左後脚の上部に店名の漢字の一部がちょっと見えてる)。良い紙でした。

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「折り」紙というからには、紙を折ることだけで作品を仕上げたい。切り貼りしてしまうと、ペーパークラフトとの境目が無くなってしまう気がするのです。ぼくは折り紙業界に詳しいわけではないですが、桃谷さんの作品のように複数の紙を使った折り紙でその楽しさを覚えてから、不切正方形一枚折りの世界に入っていく人は多いのではないかと思います。

ちなみに、世界一難しい折り紙のギネス記録(20/3/8 19:22追記:ギネス登録はされてないようです。失礼しました。)は下の写真の作品です。日本が誇る折り紙作家、神谷哲史さんの代表作「龍神 3.5」。これが紙1枚からできているとは未だに信じられません。息をのむ美しさです。

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複雑な鱗や頭部のデザインは、折り始めの段階で細かい折り目を繊細に付けておくことで実現されています。複雑な形になればなるほど、序盤に付けておく折り目が重要になります。折り目をつける作業は折って元に戻しての繰り返しなので、傍から見ると全く工程が進んでいないように見えます。

神谷さんは、かつて放送されていたTVチャンピオンの折り紙選手権を連覇された超人です。小学生の頃リアルタイムで観ていて、VHSに録画して何度も観返したのをよく覚えています。上記リンク先で神谷さんの他の作品をたくさん見られるので、ご興味のある方は是非ご覧になってみてください。

紙に生命を吹き込む

神谷さんの影響を受けたこともあって、ぼくは生き物を折るのが好きです。紙1枚から生き物を創る。今にも動き出しそうな躍動感を生み出したい。そのためには、身体の丸みや筋肉の印影を付ける仕上げの工程が一番大切で、ぼくはこれを紙に生命を吹き込む瞬間だと思っています。

例えば、馬だと次のような感じです。この段階だとまだ「紙を折った感」がすごい(折り紙だから当たり前なのだけど)。

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これに仕上げのひと手間を加えると、次のようになります(使ったのは市販の15cm×15cmの折り紙で、できあがり姿は高さ4cmぐらい)。

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どのタイミングからが「生命を吹き込む作業」であるかは別に決まってませんが、上の2枚の写真は何となくそんな感じのビフォーアフターです。折るたびに「画竜点睛」「神は細部に宿る」という言葉の意味をこれでもかと思い知らされます。

アートとしての理解

美術系でも何でもないぼくに、軽々しくアートを語る資格はありません。これまでの人生で折り紙の話題をすると、大方は「え?折り紙?笑」という感じの反応をされることが多かったこともあって、もっと多くの人に折り紙の素晴らしさを知ってほしいと思っているだけです。神谷さんの作品を一度でも見たことある人なら、折り紙が芸術(アート)であることを誰一人疑わないのではないかと思います。

この歳で「週末に折り紙を折っていた」と言うと根暗なイメージを持たれるのは仕方がないとは思ってますが笑、例えばこれが「油絵を描いていた」だと印象も違うんだろうなと思うと、少し寂しい気持ちになります。

ただ、折り紙がこれまでの人生の色々な場面でコミュニケーションツールとして活躍してくれたのは事実です。大学時代の留学先だったシアトルは親日ということもあって、日本文化に興味を持ってくれる学生が多くいました。社会人になってからも、飲み会とかで「何か折ってみて」と言われ、興味を持ってくれる方は多いです。お酒を飲みながら、両手を下げずに空中で折っているその工程を面白がられている気もしますが、先輩のお子さんがちょうど折り紙を好きになる年頃だったりもして、何かと話は尽きなかったりします。

去年の暮れには、取引先の方に折り紙をお渡しするという機会に恵まれたので、憧れる神谷さんのペガサスを折りました。ぼくは生憎その場に居合わせなかったのですが、お相手が外国の方だったということもあって喜んでくださったそうです。

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覗き込んでみると、実はとても美しい世界がそこにはあった。

これはきっと折り紙だけではなく、他のあらゆる創作活動にも言えることだと思います。ぼくの知っている世界は狭く、見えている世界だってその解像度はまだまだ低い。

まずはちょっと隙間から覗いてみることから始めてみよう。そんな風に思えると、面白いことって実は手の届くところにあったりするんじゃないかなと思っています。


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