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一流グルメは名前もカッコいい

一流は何だって一流。
それは疑いようのない世界の真理である。


【風格部門1位】

パルミジャーノ・レッジャーノ(伊:Parmigiano Reggiano)

「イタリアチーズの王様」の異名を持つハードチーズの代表格。そのハードさ(硬質)ゆえのハードボイルドな雰囲気は、名前にも漂っている。

まず目につくのは、「ジャーノ(giano)」が渋い韻を踏んでいるところ。脚韻の世界最高峰「セブン・イレブン」を凌駕する心地良さだ。"Giano" がイタリア語で古代ヤヌス神(前後反対2つの顔で門を守る守護神)を意味するのは、2つ重なった韻と無関係ではない。熟成されたチーズの深い旨味が、古代ローマの深遠な歴史と華麗にリンクしている。

「じゃあの」が広島近辺の別れを告げる方言であるとお気付きだろうか。別れといえばグッバイ。ロング・グッドバイ。小説家レイモンド・チャンドラーが生み出した伝説のハードボイルド、探偵フィリップ・マーロウ。つまりそういうことである。彼の名台詞のとおり「さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ」としたら2回言ったから多分もうちゃんと死んだ。

前後半で見てみよう。パルミジャーノは「パルマの」、レッジャーノは「レッジョの」を意味する。字義的にはイタリアの都市パルマとレッジョで作られるチーズだが、日本人ならこの地名を聞いて思い出さずにはいられない。元サッカー日本代表の司令塔・中田英寿がプレーしたパルマと、ファンタジスタ・中村俊輔がプレーしたレッジーナを。

黄金世代とともに日本サッカーを世界の舞台に引き上げた立役者たちは、チーズにも縁が深かったのだ。中田がドイツW杯を機に引退し日本酒の世界に入り込んだのは、イタリア在住中、同じ発酵食品であるチーズに魅せられたからに違いない。中村は知らない。


【優雅部門1位】

ジャン=ポール・エヴァン(仏:Jean-Paul Hévin)

続くのは世界トップクラスのショコラティエ。チョコの種類ではなくブランド名というか人名だが、カッコよさが秀ですぎていてハゲる。

ジャン、ポール、エヴァン。どれも欧米で一般的な男性の名前だが、3つ連なった瞬間に起こる優雅なケミストリーにはもう息を呑むしかない。日本語なら「ジュン・トオル・エダノ」といったところか。ただのつるんだ男3人組である。エダノだけ名前で呼んでもらえない理由は知らない。

濁音・半濁音・濁音のシンメトリーの組み合わせによる絶妙なバランス。ジャン(Jean)がカジュアルな雰囲気のスタートを切り、"P" と "L" の音が醸し出す高級感を"V" の落ち着いたクールさが締めくくる。3人の巧みな連携プレーを見せられては、比肩するチョコブランド「ピエール・エルメ」も「ピエール・マルコリーニ」もピエーと泣き叫ぶことしかできない。

各々が持つ世界もまた深い。ジャンといえば、フランスの哲学者「ジャン=ジャック・ルソー」、ハリウッドを代表するアクションスター「ジャン=クロード・ヴァンダム」と文武両道。ポールといえば、ビートルズの「ポール・マッカートニー」、デザイナーの「ポール・スミス」と芸術専心。あらゆる分野の一流たちを内に秘めた名前であることがわかる。

エヴァンはもはや説明不要だろう。今年も世間を賑わせた新世紀エヴァンゲリオン然り、神の領域に踏み込む名前だ。"Evangel" は福音書、"Eva"は聖書の創世記に登場する初の女性の名である。とPCで色々調べてたら「エヴァン下痢音」と世界最低クラスの変換が出てきたので神は死んだ。


【お前の強さには勝てない部門1位】

ビーフ・ストロガノフ(露:бефстроганов)

ああ最後はやっぱきた。真正面からきた。サワークリームの効いたロシア伝統の肉料理が。

世界屈指にイカつい料理名。ビーフだからこそ実現できる冒頭の濁音「ビ」が、後半の「ガノフ」と呼応して全体の力強さを生み出す。ポークやチキンなんかでは絶対に務まらないポジションだ。と思ったらWikipediaに「本場ロシアでも鶏肉や豚肉を使用したアレンジ家庭料理は散見される」と破竹の勢いで自説を否定されたが一切信じない。

迫力なら、フランスが誇るリンゴの蒸留酒「カルヴァドス」も負けていない。どちらもRPGのラスボス級の威厳を放っている。だが、ゼルダの伝説の屈強な悪役「ガノンドロフ」を彷彿とさせる点で、魔神の牛肉料理に軍配を上げざるを得ない。カルヴァドスの正体は所詮ポム(Pomme:リンゴ)。ポムポムしてプリンに迎合するようなやつに用はない。

帝政ロシアの貴族「ストロガノフ家」に由来し、高貴なニュアンスを含んでいるのも見逃せない。さらに紐解くと「夜中に小腹を空かせた主人があり合わせで作った」「コックが誤ってソースを焦がしたらたまたまできた」など破滅的にカッコ悪い俗説が出てきたが一切信じない。

名前の難しさは時に人を欺く。区切りを誤解して「ビーフストロ」だと思っていた頃は、映画『カリオストロの城』の美しい世界観すらあった。それがどうだ。魔神の牛肉料理である。稀代の詐欺師「カリオストロ」ばりの巧みな欺き方を前に放心して立ち尽くすしかない。

奴はとんでもないものを盗んでいきました。 あなたの心です。

やかましいわ。





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