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富久長 秋櫻 が飾った門出  #お酒のひととき

今日は、広島県の今田酒造さんが醸す「富久長(ふくちょう) 純米吟醸 秋櫻(こすもす)」への想いを綴ります。今の時期のお酒ではないのだけど、何かと思い出深い。今日の二日酔いは浅い。

近所の居酒屋で初めて飲んだときに撮った写真

穏やかな吟醸香(華やかでフルーティな香り)に魅せられ、落ち着きあるほっそりとした旨味と、やわらかい酸の見事な調和に心安らぐ。あまりに芸術的なその味わいは、色付いた木々が秋風に揺れる夕暮れの景色を一足先に覗かせてくれるかのよう。

灯がふっと消え入るかのごとく儚く潔いキレは、辛口の一言で片づけるにはあまりにもったいない。そんな後口にやさしさも感じつつ、次の盃を誘われる。秋には欠かせない1本です。

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秋櫻は、夏過ぎに出回る「ひやおろし」というジャンルのお酒。いわゆる「秋のお酒」で、最近は、赤、黄、橙のオータムカラーで彩られたラベルの瓶が酒屋の店頭を賑わせてるのをよく見かけます。気温が下がり秋の入口を感じる頃、ひと夏寝かせたお酒を「ひや」(常温)で「おろし」(卸し=出荷し)て飲むから「ひやおろし」と呼ばれるそう(諸説あり)。

風情あるこのやさしい5文字の響きだけで飲む前から酔えます。秋に美味しくなるから「秋上がり」とも。やはり飲む前から酔える。天才だ。

今の時期、日本酒は若々しい「新酒」(しぼりたて)のものが出回りますが、ひやおろしは、そんな瑞々しい青春時代を終えて一人前になった大人。新春の前後から大切に貯蔵され、一夏を越す辛抱をしたお酒です。

味わいは、角が取れて口当たりが丸くなり、全体的にまろやかで落ち着きの出ているものが多い。中にはやんちゃな感じを残しているお酒もあるのですが、それはそれで「ああ、きみはまだモラトリアムなんだね」と思いながら飲むと楽しい。そんなお酒との対話も楽しい。

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ここで、魚の肴のお話。このお酒を最初に飲んだときに合わせた料理が、本シシャモの塩焼きだった。

淡い黄金色に光輝くシシャモとスダチがまぶしい。

革命的なおいしさでした。シシャモ革命だよ。淡い黄金色に輝くその身は綿のように柔らかく、まるで鱚そのもの。お酒のやさしい旨味とお互いを抱きしめ合うかのように、幸せなマリアージュのひとときを過ごしました。

この日、普段スーパーで買えるのは「カラフトシシャモ」という別の魚だと知りました。「シシャモ(柳葉魚)」は北海道でしか採れない希少な魚で、ずっと本人だと思っていたあやつの正式名称は「カペリン」。誰だよ。同じツッコミをした方は、ぜひ下記のサイトを覗いてみてください。

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閑話休題。お酒の話に戻ります。

「富久長」を主要銘柄とする今田酒造さんは、広島県安芸津市にある蔵元。「八反草」(はったんそう)という古き良き酒米を使って日本酒を醸す唯一の蔵で、郷土愛に満ちた上品なお酒を多く揃えられています。蔵元の理念である「百試千改」いう言葉も、カッコよくてほれぼれする。

広島といえば牡蠣。秋櫻のほか、「海風土」と書いて「シーフード」と読ませる白ワインのようなくっきりした酸味の夏酒も醸されており、どれもお酒は地場の食材との相性が抜群です。クエン酸の利いたお酒は、夏の乾いた身体に沁みること間違いなし。

富久長の杜氏(お酒造りの責任者)の今田美穂さんは、英BBCの世界に影響を与えた「100人の女性」にも選出されたすごい方。今田さんのお酒造りを描いたこんなドキュメンタリー映画もあります。ぼくは映画館で心震わせながら観たのですが、妻が横で大あくびをしていたのが一生の思い出です。


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そんな富久長の秋櫻。数年前に開いた結婚式の披露宴で参列者に振る舞いました。行きつけの居酒屋の大将から結婚記念にもらった一升瓶。「これ」というぶっきらぼうな一言に込められた長年の付き合いが嬉しかった。

食事はイタリアンだったのに、式場に無理を言って持ち込ませてもらいました。ほんのり香ばしいソースの魚料理と合うかもと思っての試みは、(酩酊してたため詳細は不明であるものの)大成功だったと思ってます。

秋櫻は、持ち込んだ3本の一つ。残る2本は「醸し人九平次 Le K voyage 純米吟醸 」(愛知)と「浦霞 禅 純米吟醸」(宮城)でした。「Voyage」(航海)は門出に相応しく、浦霞は日本酒を愛するきっかけだったから。良き日に良き仲間と良きお酒を飲めた思い出。そういや前にこんなnoteも書いたな。思い出がいっぱいだ。生憎、まだ大人の階段上ってます。

広島の酒蔵には足を運んだことがないのですが、いつか訪れることを夢見つつ、今年のひやおろしの季節を待とうと思います。


披露宴の一角を飾ったお酒のワンショット




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