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営業目線のWeb小説売り込み研究 第9回「読み専さんに届け! 作家からの〝お願い〟の仕方」

 Web小説業界には妙な単語が存在する。

 「読み専」

 Web小説作家ならば聞いたことがあるだろう。読んで字の如く、読む専門のユーザーを指す言葉だ。書店で販売されている書籍は当然、書き手ではなく読み手を意識して営業・販売を行うため、この様な概念は無い。アマチュアが多数存在する、Web小説ならではの文化と言えるだろう。

 読み専ユーザーは、世にあふれるWeb小説を楽しみつつも「じゃあ自分で書いてみようかな」とは思わない、あるいはかつて執筆していたが、今は創作を辞めたり休んだりしているユーザーである。Web小説最大手「小説家になろう」では「小説を読もう」というページを用意し、読み専と書き手を区別する様にしているが、後発サイトにはそういったページは無い。「小説家になろう」に作品数で追随するためには、当然の措置とも言えるだろう。
 なお、書き手は大抵が読むところから始めている上、書き手となった後に小説を読まなくなるということはほとんど無いため、「書き専」という言葉は普及していない。

 Web小説というものは、乱暴に言えば文章さえ書けたなら誰でも気軽にスタートできる活動であるため、Web小説に触れたユーザーの多くが書き手となる。そのため書き手過多、つまり供給過多の業界である。
 書き手は書き手同士で互いの作品を読むが、やはりどうしても「書き手」の目線になる。つまり、読み専ユーザーからは「書かない」者の目線で感想を貰う事ができるということだ。書き手にとって、読み専ユーザーからの感想は、喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

 そんな読み専ユーザーに対し、最近一部の書き手から様々な声が聞こえる様になった。

 「読み専から△△がおかしいとか○○は変だと言われた。書かないやつは読解力が無い」

 はっきり言って、最低の発言だ。読み手に読解力が無い根拠を「書かないから」と断じている。書き手でなくとも読解力は身に付くものだ。むしろ、これは作家自身の、感想に対する読解力の無さを露呈している様なものだ。
 批判的内容の感想が付けばいい気がしないのは確かで、改善しようと考える前に怒りがこみ上げて来るのは、人間なので仕方ない。中には作家の人間性すら否定する、信じられない感想が付く場合もある。しかし、それらに対していちいち敵意を持って反応するのは、自身を貶める事にも繋がるのでオススメしかねる。
 あからさまに筋違いで幼稚な批判が来たら黙っておくか、感想を削除するなどの措置を取り、おおっぴらに発信しないのが吉だ。
 なにより、こんな言い方をされては読み専ユーザーからの感想が付かなくなるのも当然である。

 では、こんなツイートならどうだろう?

 「読み専さんへお願いです。感想が付かないと、作家は自作に自信も持てないし、改善しようにもどこを直せばいいか分かりません。読んだらネガティブな内容でもいいのでぜひ感想をください!」

 一見、成長を望む作家からの切実なお願いに見える。自作を客観的に見るのは難しい。どんな内容でも良いから感想が欲しいというのは、書き手としては頷ける言葉だ。しかし、これも良い発言とは言えない。

 では、今回は企業が「お願い」に失敗してしまった例を取り上げてみよう。

・あのカリスマ経営者でも間違う

 いきなりステーキという店がある。知らない方はいないだろう。カリスマ性に溢れ、独特の哲学を持って経営している一瀬邦夫氏率いるステーキ店だ。彼は2019年12月、いきなりステーキ各店の店頭に、顧客に対する「お願い」の張り紙を掲示した。全文は様々なビジネスコラムで取り上げられているため割愛するが、そこにはネット上で批判の嵐を巻き起こした一文があった。

『お客様のご来店が減少しております。このままではお近くの店を閉めることになります』

 この一文が、どんな批判を受けたかは想像に難くないだろう。要するに、来店してくれなきゃお前らの近所のステーキ屋が無くなるぞ、という上から目線の脅しだと捉えられてしまったのだ。

 さらに翌1月、こんな張り紙が出された。

 『この「いきなりステーキ」で一番人気は、ワイルドステーキですが、時々硬いとお叱りを受けておりました。御新規のお客様が硬いステーキを食べられた時、もう二度と来られないばかりか、悪い口こみが店を台無しにします。誠に申し訳なく思います』

 第一弾の張り紙を見た顧客からの批判に対して謝罪した直後の文章がこれだ。ステーキの固さで悪い口コミを書かれてしまうと、店が窮地に立たされると言っている。
 翌2月に出された張り紙は、原価率を語って他店との違いを強調した内容になっており、若干のテコ入れが見えたがこれもあまり良い内容ではなかった。しかし、今回の趣旨とは外れるので上記2つのメッセージについて語ろう。

 いきなりステーキが、なぜ批判を受けたのか。それは、この2つのメッセージが「顧客」に責任があるかの様に見えるからだ。

・自分か、相手か

 アメリカの心理学者トマス・ゴードン氏が「親としての役割を効果的に果たすための訓練」という活動の中で提唱した言葉に「ユウ・メッセージ(You message)」「アイ・メッセージ(I message)」というものがある。主語が「ユウ」だと批判的、上から目線になるのに対し、「アイ」だと受け入れられやすくなるというものだ。親が子に受け入れてもらうためのメッセージ法として、広く使われている考え方である。かんたんに言うと、「(あなたは)遅刻しないでよ!」よりも、「遅刻せず来てくれると(わたしは)嬉しい」と伝えたほうが、受け入れられやすくなる、というものだ。

 つまり、いきなりステーキは「ユウ・メッセージ」を打ち出して失敗してしまったのだ。

 では、いきなりステーキのメッセージを「アイ・メッセージ」に変えるとこうなる。

 「私共の店舗は、お客様のご来店があってこそ、維持できるものです」

「硬いお肉を提供してしまった事で、ご新規のお客様が残念なお気持ちになられた事、それによって店舗自体が失望されてしまった事については、誠に申し訳なく思います」

 もとの思想がかなり「ユウ」寄りなのでなかなか難しいところではあるが、この書き方にすると少しは受け入れられる内容になったのではないだろうか。

 では、冒頭に書いた読み専ユーザーに対する2つの発言を見直してみよう。

 「読み専から△△がおかしいとか○○は変だと言われた。書かないやつは読解力が無い」

 見事なユウ・メッセージである。読み専ユーザーへ強力に改善を求めている。これでは反感を買うのは当然だ。これを「アイ・メッセージ」に変えてみよう。

「読み専さんから△△はおかしい、○○は変だと言われてしまった。私ははおかしくないと思っていた。何がおかしいのだろう」

 やはり「ユウ」寄りの思想なので難しくはあるが、こう書けばこれを見た他のユーザーから、「おかしくないと思います」という同意や、「私も△△は□□だと思った。○○も同じなので、少し直してみてはどうでしょうか」などの建設的な意見が貰えるかもしれない。

 もう一つも確認してみよう。

「読み専さんへお願いです。(あなたの)感想が付かないと、作家は自作に自信も持てないし、改善しようにもどこを直せばいいか分かりません。読んだらネガティブな内容でもいいのでぜひ感想をください!」

 切実で下手にでている様に見えるお願いも、主語が「ユウ」だと反感を買う恐れがある。要するに、これは作品を改善できないのは感想がつかないせいだと言ってしまっているのだ。これも「アイ・メッセージ」へ変えていこう。

「読み専さんの感想によって、(私の)作品はどんどん改善できますし、自信もつきます。どんな感想でもありがたく思います。ぜひ感想をください!」

 この例では主語を変えた上でさらに、ネガティブな内容からポジティブな内容へ変換してみた。これなら、よほど裏読みする方でない限りは、応援したくなるのではないだろうか。

・前向きに

 少ない読み専ユーザーを呼び込み、感想をもらう。書き手としては切実な願いだ。しかし、その〝お願い〟方法を間違うと、余計に読み専ユーザーを遠ざけてしまう事になる。

 作家側からの前向きなお願いをする事で、書き手は読み専ユーザーの反感を避けて成長できると考える。また、書き手が前向きであれば、読み専ユーザーも気持ちよく改善点を書き手に伝えられる環境になるだろう。

 ただ、読み専ユーザー側にも一定数、何を言っても許されると考えてしまっている方もいるのは事実だ。冒頭お伝えした通り、感想と称し、作家を傷つけるだけの心無い言葉は「アイ」「ユウ」以前の話であり、聞き入れる必要は無い。


 しかしこれだけはお伝えしたい。読み専ユーザーの全てが批判を目的に作品を読んでいるわけではない。当然の事だ。筆者は書き手側の人間であり、読み専ユーザーの気持ちを全て理解しているわけではないと思うが、書き手もかつては「読み専」だった者が大半であり、ある程度は彼らの気持ちを分かるはずだ。そして今、読み専ユーザーの方も、いずれは書き手になるかもしれない。読み専の方は書き手のメッセージをぜひ前向きに捉えて頂きたい。読者と作者側に隔たりのある商業小説と違い、互いに歩み寄れる距離にあるということは、Web小説という世界の最大の利点とも言えるのだから。

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