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営業目線のWeb小説売り込み研究 第0回「Web小説はバズらない」

 「Web小説」

 この単語を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。

 Web小説に関わる前の筆者であれば、おそらくこの単語を聞いても、なにも想像できなかっただろう。せいぜい「青空文庫」くらいなものだ。

 それほどまでに、Web小説という存在は目立たない。世間では、小説というものはプロが書いて書店に売り出されているもの、というイメージが根強く、無料で無数の作品が読める、素人が書いたWeb小説というものの存在は、あまり広く知られていない。

 ところが、こう言えばどうだろう。

 「異世界転生」

 この単語は、あらゆる場所で目にするのではないだろうか。アニメや漫画、Webにあふれる〝ネタ〟まで、様々なものに使われる単語である。

 その「異世界転生」の発信源こそが、近年のWeb小説なのである。Web小説が書籍化してライトノベルになって売り出され、それがコミカライズし、アニメ化する。漫画やアニメに触れた人々が原作を求めて行き着く先が、Web小説だ。そこでようやく、Web小説というものの存在に触れる事になる。

 良くも悪くもWeb小説はそれそのものよりも、その中の要素の方が有名になってしまっている。

 Web小説はそうした、特異なポジションにある。大ヒットした無料Web小説が満を持してアニメ化するのではなく、出版社が目を付けたWeb小説作品が書籍となってヒットし、漫画になり、アニメになって、大衆の目に触れるという構造だ。

 ヒットメーカーたる出版社の人手も限られている。彼らがすべての作品に目を通して、その中の面白い作品を書籍化させている事などあり得ない。何をしているかというと、定期的にコンテストを開催して質の高い作品を選別したり、Web小説投稿サイトの人気作を選んで声をかけているのだ。

 最近では漫画などはイラスト投稿サイトのトップになくとも、公募で賞を取らなくても書籍化する事があるのに、小説についてだけ、いささか古臭いやり方の様に思える。それには理由がある。

 Web小説はバズらないのだ。漫画はパッと目を引くイラストがSNSで目立てばバズる事があり、イラスト投稿サイトで日の目を見ていなくとも書籍化する事が増えた。一方、小説はSNSと相性が悪く、出来る事と言えば自作掲載サイトのURLを載せる事くらい。これではバズるわけがない。

 そして、バズらなければ出版社も面白い作品を見つける事が出来ない。なぜなら文章というものは、絵と違ってパッと見て上手いか下手か、面白いかつまらないかが分かりにくいのだ。そのため、公募や小説投稿サイト内のランキングに頼らざるを得ない。そのランキングさえ、作家同士の徒党による読み合いや閲覧数水増し、ジャンル虚偽申告などの不正が横行し、頼りにならない。

 更にいうならば、Web小説は文字を書く事が出来れば誰でも始められるため、作品数が多すぎる。

 2020年2月時点で、小説投稿サイト最大手「小説家になろう」に投稿された小説作品数は約78万作品990万話。イラスト・漫画投稿サイト最大手のPixivの漫画投稿数は213万なので、約五倍の話数が投稿されている。Pixivの200万ある漫画は、サムネイルをスクロールで流していけば数日で「良さそうな作品」をいくつか見つけられるかもしれないが、小説はそうはいかない。それに加えて漫画の五倍の投稿数があるのだ。小説は、良作を見つけるのが最も困難なコンテンツと言える。

 そんな認知度も低く、バズることもなく、作品数も多すぎて埋もれてしまうWeb小説作品の中にも、日の目を見ない良作が山ほどある。小説投稿サイトのランキングにも乗らない様なものであっても、だ。

 SNS時代になり、漫画は「面白いものを書けば誰かの目にとまる」時代になった。だが小説はこの先何十年待ってもそんな時代は来ない。

 ならば、面白いものを書けた作家は……自作を売り込まねばならない。

 本コラムではそんな、面白い作品を書けた作家と共に、自作を「売り込む」方法を、ビジネス的な目線で模索していく。

 この研究によって成果が出た暁には、あとに続くWeb小説家諸氏にも私の実践した方法を真似て、自分の創作した世界を、世に売り出していって欲しいと願う。

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