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営業目線のWeb小説売り込み研究 第7回「あらすじと宣伝文を変えて、〝好き〟を正確に伝える」

 これまで本コラムでは、何度かあらすじについて語って来た。そして、今回もあらすじの話だ。それだけ、あらすじを書くのは難しく、かつ重要なものなのである。

 誰かに何かを伝えるというのは、非常に難しい。ましてや、物語を通じて伝えるならばなおさらだ。それを営業手法をつかって、ある程度解消していく。まずはよくあるお悩みを見てほしい。

 「途中で切られた……つらい」

 Twitterでよく見かける言葉だ。それが続きすぎて、「つまらない話を書いている」と言い出す作家までいる。
 Web小説作家は、自身の作品に自信を持てない方も少なくない。これは個人的意見だが、今や100万作品に届こうかというWeb小説作品群の中にあって、数万文字まで読まれた作品がつまらないということはないと思っている。ならばなぜ、途中で切られるのだろうか。

 そもそもあなたは、自分の好きな物語を書いているはず。ならばあなたの〝好き〟と読者の〝好き〟が合致すれば、あなたの物語は最後まで読んでもらえるはずなのだ。

 では、あなたの〝好き〟が読者の〝好き〟と合わなかったのだろうか。

 今回はそれを、営業目線で紐解いていこう。

・掴みは良かった

 とあるWeb小説がある。プロローグもうまくかけたので第一話の閲覧数も上々だ。しかし、物語が進むにつれ閲覧数は落ち、読者が離れていった。なぜだろうか。面白くなかったのだろうか。

 先にお伝えしておくが、読者が途中で離れていってしまったからといって、自分の物語を嫌ったり、つまらないと断じるのはまだ早い。また、多少のテコ入れは必要かもしれないが、自分の〝好き〟を捨ててまで読者の〝好き〟に作品を無理やり寄せる必要も無い。なぜなら、読者が離れていった理由は、自分の作品の〝好き〟なところが、正確に伝わっていない可能性があるからだ。

 ではなぜ、そんな事が起きたのか。今回はマーケティング手法に当てはめて考えていく。

・ニーズ、ウォンツ、デマンド

 マーケティングにおいて必ず出てくる言葉、それが「ニーズ」と「ウォンツ」である。

 「マーケティング原理」の著者でマーケティングの神様とまで呼ばれるフィリップ・コトラーによると、「マーケティングとは、個人や集団が製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである」という。

 ニーズとウォンツ、と言われてもなんとなくしか分からないはずだ。実際、Webでニーズとウォンツを調べると、様々な定義が乱立している事が分かるだろう。プロでもこのあたりの言葉の定義は曖昧だ。そのため、今回はコトラー自身が定義付けた内容を採用する。

 ニーズは「欠乏を感じている状態」

 ウォンツは「人間のニーズが文化や個人の人格を通して具体化されたもの」

 分からなくなってきた。ここで、かんたんな例をあげよう。

 ニーズ:お腹がすいた
 ウォンツ:ハンバーグが食べたい

 これで分かったことだろう。似た言葉ではあるが、全くの別物である。これを筆者の言葉にすると再び認知が歪むため、これ以上は言及しない事とする。

 コトラーはこれらに加え、デマンド(デマンズ)という言葉も使っている。

 デマンドは「欲求の対象となる様々な製品の中から選択されて実際に購入されるもの」

 再びわからなくなった。これもかんたんな例をあげてみよう。

 デマンド:びっくりドンキーのチーズバーグ

 これでおわかりいただけたかと思う。これがニーズ、ウォンツ、デマンドだ。

 ではいよいよ、これをWeb小説に当てはめていこう。

・ニーズは合致したが……

 Web小説作家のA氏は「主役になる様なキャラクターではなく、脇役にしかなれない様なキャラクターが輝く姿」が好きで、自身もそんな作品を書いてみたくなった。
 そこで思いついたのが、「主人公は最初は弱く、冒険の果てに強くなり、やがて魔法使いの上位職である賢者へと成長するが、彼の参加したパーティーは魔王には敵わず、敗走する。しかし最後は異世界から勇者を召喚し、その勇者が世界を救う」という物語だ。
 最初から強い主人公ではなく、しかも最後まで自分では魔王には勝てない。そして主人公は世界を救う勇者ではなく、勇者に付き従う脇役だ。
 主人公は冒険の途中、具体的には10万文字のうち約4万文字のあたりで出会った女性と苦難の末結ばれ、やがて彼らの子どもが、世界の希望となる勇者を召喚する鍵となる。A氏は他の物語ではサブキャラクターになる様なキャラクターが努力する姿と愛の素晴らしさを描き、感動を与える作品を描きたかった。

 A氏はこの作品をネタバレしないように、このように宣伝した。

 「主人公は駆け出しの平凡な魔法使い。彼の成長と挫折、そして愛を描いたファンタジー作品です」

 そして、あらすじをこのように書いた。

 「農村で生まれた主人公の○○は、念願かなって魔術学校へ進学。その後魔法使いとして、勇者とともに旅に出る。旅の途中で、小さな街の魔法使い△△と運命的な出会いを果たした○○。やがて二人は、魔王を倒し世界を救う術を見つける。成長と挫折、そして愛を描いた本格ファンタジー!」

 一見、まとまった宣伝文とあらすじに見える。しかし、これはうまくまとめる事を考えすぎた上、ネタバレを避けるあまり〝好き〟を伝える……つまり自作のセールスポイントをぼかしてしまった典型例である。

 さて、これを見た3人の読者。一人は一万文字ほどで読むのをやめた。二人目は、五万文字ほど読みすすめたが、途中で読むのをやめた。最後の一人は、あらすじの時点でブラウザバックしてしまった。
 では、3人のニーズを見てみよう。

◆ニーズ
 ①ハーレム展開は飽きた。違うものを読みたい。
 ②成長物語が読みたい。
 ③脇役系キャラの話が読みたい。

 どれもA氏の物語にぴったりだ。何がいけなかったのだろうか。

・ウォンツに生じたズレ

 A氏の「好き」は、「主役になれないキャラクターが輝く姿」だった。では、ここで離れた読者のウォンツを見てみよう。

◆ウォンツ
 ①ファンタジーな世界の中でやきもきする様な恋愛の果てに、一人の女性と愛し合う、ロマンス作品を読んでみたい。
 ②平凡な主人公が努力して最強になり、世界を救う作品が読みたい
 ③脇役系キャラが主役キャラの陰で努力して、最後に輝く作品が読みたい

 読者①はA氏の宣伝文の「愛を描いた」という部分やあらすじを見て、恋愛作品と勘違いした。そして、ヒロインがなかなか出て来ないこの作品に見切りをつけた。
 一方、読者②は主人公がいつまでも最強にならない事にストレスを感じていた。そして、主人公が魔王に絶対に勝てないことがわかった時点で読むのをやめた。
 ウォンツも合致しているはずの読者③は、あらすじを読んで主人公が脇役系キャラなのか主役系キャラなのかが分からず、読む前に引き返してしまった。

・〝好き〟を正確に伝えて読者のウォンツを自作に寄せる

 A氏の作品は読者のニーズには合致した。だが、ウォンツが満たされなかった。
 これはハンバーグの例に戻すと、空腹の消費者に対し、びっくりドンキーのチーズバーグのチーズだけや付け合せだけを見せてしまった様なものだ。売り込みたいものが、正確に伝わらなかったのだ。

 つまり、Web小説においても、継続して読んでもらうにはあなたの〝好き〟であるセールスポイントを正確に伝える事が必要となる。では、A氏の宣伝文とあらすじを変えてみよう。

「脇役にしかなれない魔法使いの成長と挫折、そして冒険の果てに愛と希望を見出す本格ファンタジー作品です」

「世界を救うのは、主人公ではない──農村で生まれた平凡な少年○○は努力の末、魔法使いとして勇者とともに魔王討伐の旅に出るが、勇者は魔王に敗北してしまう。しかし旅の途中、○○と出会った女性△△……彼女と○○の愛が、世界を救う鍵となる! 平凡魔法使いの成長と挫折、そして愛を描いた本格ファンタジー!」

 A氏の伝えたかった「好き」は「脇役系キャラが輝く姿」である。それを伝えるためならば、「勇者が魔王に敗北する」というネタバレは書いてしまっても良いだろう。
 これを見た読者①は、世界を救う鍵が二人の愛ならば、ヒロインとの恋愛に障害が生まれてやきもきする展開になると期待し、ヒロインが登場するまで読みすすめてくれるかもしれない。
 読者②は、主人公は最強にはならないが、どうにかして世界を救う展開になると考えるかもしれない。
 ここで読者のウォンツが変わる、もしくは元々持っていたウォンツが引き出され、A氏の〝好き〟と読者のウォンツが近付く。
 そして読者③も「脇役キャラが輝く作品に違いない」と考え、ウォンツが満たされる作品と理解する。

 こうして、3人の読者のデマンドが、A氏の作品となるのだ。

・〝好き〟が認められるということ

 こうして満たされた読者のウォンツにより、晴れてあなたの〝好き〟は読者の〝好き〟につながり、あなたはその物語の内容を変えることなく、あなたの物語は読者の期待する展開へと変貌する。

 「読者を裏切る展開のほうがウケる」と言う言葉もあるが、それは読者の〝好き〟を裏切るということではなく、読者の〝予想〟を裏切る事である。読者の〝好き〟を裏切ることは、避けるべきだ。

 読者のニーズやウォンツを満たすために作品を書くのではなく、あなたの〝好き〟を正確に伝え、ウォンツが満たされた状態で作品を読み進めてもらうことで、読者は数ある作品の中からあなたの作品を〝好き〟になり、最後までついてきてくれることになるだろう。

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