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ラグジュアリーストリートの現在地。キム・ジョーンズ、ヴァージル・アブロー、リカルド・ティッシ

僕がラグジュアリーブランドやランウェイが好きな理由として、もちろん個性あるデザイナーが表現する世界観や商品が好き、というのはあります。
その一方で何が大事かと言うと、これから何がトレンドになってどんな雰囲気が流行るのか、注目のアイテムは?などと言ったヒントや答えがここにあるからです。

もちろんストリートやユースカルチャーから流行るファッションもあるので、全てが全てというわけではないですが、半分、50%くらいのヒントはここに転がっていると思います。それを探し当てるのがファッションショーを見る醍醐味のひとつでもあります。
例えば、エディ・スリマンやデムナ・ヴァザリア、ヴァージル・アブローのように、一回のショーやプレゼンテーションがファッションの流れを一気に変えた、という事だってあり得ます。さらにそれがジワジワと浸透し、ファッション全体の大きな流行を作る事もあります。
いつどこで誰が凄いコレクションを発表するのか。それを見逃さないよう、毎回欠かさずチェックするのが大きな楽しみです。

さて今回は時代の象徴でもあるラグジュアリー×ストリートのデザイナーたちについて。キム・ジョーンズ、ヴァージル・アブロー、リカルド・ティッシ。
彼ら3人の2021-22年秋冬コレクションを見ていきたいと思います。

1.DIOR(ディオール)/キム・ジョーンズ

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まずはキム・ジョーンズ。今回のディオールの素晴らしさは、ファーストルックに集約されていました。クラシカルでありながら、釦が星になっているなど、どこか愛らしい表情があるナポレオンジャケット。その上に羽織ったピークドラペルのロングコート、これが凄い。
煌びやかな装飾と刺繍が施されたこのコートは、1960年代にディオールのデザイナーであったマルク・ボアンが作成したオートクチュールドレスの手法をそのまま使用したもの(動画👇)。キム・ジョーンズがディオールのアーカイブを掘り起こし辿り着いた、職人技術の極みを表現したまさに「芸術」だ。
スタイリングも軍服がベースだが、とてもラグジュアリーでロマンチックに見える。大きく流行るとは思えないですが、ナポレオンジャケットは要注目のアイテムです。

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そしてもう一つのトピックが、スコットランド出身の画家、ピーター・ドイグとのコラボレーション。
キム・ジョーンズはピータードイグの膨大なアーカイブから作品を選りすぐり、引用(動画👇)。
ニットやコートなどは立体的なキャンバスへと化し、色鮮やかにコレクションを彩ります。作品からインスピレーションを得た舞台会場は、巨大なアートホールのような雰囲気で、個々のルックがまるで美術作品のごとく美しい輝きを放っていました。

ドイグは自らモチーフを考えただけでなく、帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズが手がけたウールフェルトハットに、自らの手で自身の作品や記憶、ディオールとのつながりにインスピレーションを得たハンドペイントデザインを描画。また、アートとファッションの対話の一環として、ディオールのために2つの動物をモチーフとしたエンブレムを特別に制作。ひとつはクリスチャン・ディオールの愛犬、ボビーを思わせるもので、もうひとつのライオンは、ドイグの絵画のキャラクターと同時に、1949年にファッションデザイナーのピエール・カルダンがムッシュ ディオール(クリスチャン・ディオール創設者)のためにデザインした仮面舞踏会用コスチュームを彷彿とさせるものだ。

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キム・ジョーンズといえば、ルイ・ヴィトン時代に成し遂げた「カジュアルなスポーツウェアとハイエンドなファッションの融合」が印象深いですが、ディオールではストリート色は控えめ。
その代わりフォーマルなスタイルに説得力が増し、アーカイブ探究や現代美術への歩み寄りも顕著で、デザイナーとしてのスケールがさらにアップしているように思えます。こうしたキム・ジョーンズの動きが、ストリートウエアに頼り過ぎない、これからの時代のムードを顕著に表しているように感じます。

その一方で、カジュアルダウンしてストリートぽく着たらかっこいいんだろうな、というアイテムが多いのも事実。

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2.LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)/ヴァージル・アブロー

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続きましてヴァージル・アブローです。今回はブラックカルチャーをベースに、フォーマルスタイルから民族衣装的アプローチまで、旅をテーマにするルイ・ヴィトンの、文化を越えた世界観を見事に表現したエキサイティングなコレクションでした。
ポエトリーやコンテンポラリーダンスなどを掛け合わせたストーリー性あるムービーは、今ファッションウィーク中最も手の込んだ、見応えのあるものになっていたと思います。

社会に古くから根付く規範によって、集団的精神として私たちの心に植え付けられた無意識の偏見を掘り下げた本コレクションは、1953年に発表されたジェイムズ・ボールドウィンの代表的エッセイ「村のよそ者(Stranger in the Village)」がテーマ。スイスの村を訪れたアフリカ系アメリカ人としての経験を通して語られるボールドウィンのエッセイは、文化的なアウトサイダー対インサイダーという社会の構造が確立されていることを反映し、現代におけるアブローの身近な体験を探求するための中心となる思想となっています。

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THE STYLE MATEより

作家、芸術家、放浪者、セールスマン、ホテルマン、ギャラリーのオーナー、建築家、学生などオーセンティックな「ユニフォーム」をテーマにしたコレクションですが、どのルックもデコラティブな装飾や異文化の組み合わせにより、視覚的インパクトのあるものになってなっています。
特に面白いなと思ったのが、ヴァージルならではのブラックカルチャーを経由したギャングスタイル。アンダーグラウンドで危険な薫りのする雰囲気とルイ・ヴィトンのラグジュアリー感のミックスは、キム・ジョーンズ時代にはなかった新しいバランスを確立したと言えます。

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ウエスタン、カウボーイ、民族衣装、ストリート、ルームウエアなど様々な要素をミックスさせた圧巻のスタイリングが続きます。シルエットやディテールも大ぶりなものが多く、これでもかというほど濃い雰囲気。でも不思議とエレガントです。
今コレクションは賛否あったようですが、個人的にはヴァージルの個性とルイ・ヴィトンのラグジュアリーなムードが上手く重なりあった素晴らしいものだったと思います。

凱旋門やサクレクール寺院、エッフェル塔をかたどったショーピース(ニューヨークのビルバージョンもあり)も、凄いのが出てきたなと驚きましたが、全体的にとても楽しめました。

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3.BURBERRY(バーバリー)/リカルド・ティッシ

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最後はリカルド・ティッシ。やはりラグジュアリー×ストリートのイノベーターはこの人だと思います。
プレゼンテーションの舞台となったのは、ロンドンの中心部にあるリージェント・ストリートの旗艦店。

今回、ティッシは20世紀初頭の戦後に、多くの若者がカントリーサイドに移住した「アウトドア・ムーブメント」を、アフター・コロナ時代に重ねたという。コレクションについて、「自由を求め、新しい表現の形を発見してきた、自然と人間との関係性へのオマージュ」とコメントしている。

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ジバンシィでメンズデビューした頃から、スタイルに大きな変化はないのですが、改めて気になったのがプリーツスカートの使い方。正面から見ると分からないのですが、コートのバックスタイルがブルゾンのようになっていて、プリーツスカートが見える仕掛け。これはやられたなー、って感じでとてもかっこいい。ジバンシィの頃からそうなのですが、あえて男らしいモデルがフェミニンなプリーツスカートを穿いてる感じが好き。

セリーヌ・オムもルイ・ヴィトンもメンズスカートは出していたので、ちょっとした話題になりそうな予感。

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ブリオンフリンジをシャツやコートに使ったアイテムも上品かつアヴァンギャルドでいいなと思いました。鹿の角をイメージしたというビーニーも可愛らしい。英国的解釈のロマンチックなスタイリングが続きます。

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得意のストリートミックスも、しっかりとエレガントな要素を加え、カジュアルになり過ぎないように。ティッシも着ていたボルドーのスタジャン、渋くてかっこいいです。

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いかがでしたでしょうか。3人ともそれぞれの個性や強みをクリエイションに反映し、新しい時代を切り開こうと奮闘しているように思えます。

最後にリカルド・ティッシの今コレクションに込めたメッセージをご紹介して終わりにします。素敵な内容です。

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「私たちの仕事は夢を見ることができ、そしてその夢を現実にすることができる。今季のコレクションも世界中でみんなが夢見ていることを描こうと制作した。人生には良いことと悪いことが繰り返し訪れる。どんなに暗い状況になっても、必ず太陽が顔を出し、雨の後の虹のように、悪いことが起こった後には必ず良いことが訪れる。このコレクションを“エスケープ(脱出)”と題したのは、今の状況が終わったら皆が自然と触れ合うことを求めて、人類が本来あるべき現実世界に戻ると感じたから。このショーで創造性とアイデンティティーを讃えたかった」


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