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パーツやステッチを極限まで減らした服/ディテールマニアがつくるインディペンデント・レーベル X-MINIMAL

POESIES(ポエジー)にて、7月から急遽お取り扱いをスタートしたブランドX-MINIMAL(エクス・ミニマル)。まだスタートしたばかりの謎多きブランドだと思いますが、店頭にてとてもポジティブなリアクションをいただいています。デザイナーを務めるのは国内の某デザイナーズブランドでパタンナーとして活躍する奥野優氏だ。

奥野氏との出会いはPOESIESをスタートして間もない頃でした。彼はデザイナーズブランドでパタンナーを務めるほか、DESSIN DE MODEのパターンも一部手掛けており、その繋がりからお会いする機会がありました。
6月下旬に久しぶりにふらっと奥野氏がPOESIESに立ち寄りました。自身のブランドを始めたことを伺い(その場でサンプルも拝見し)、「なにか面白いことができたら良いですね」と、まずは週末に参加していただく方向で一気に話が進みました。

結果「店頭で販売してみたい」「お客様にスペシャリティなドリンク(主に珈琲)を提供したい」という思いがけない彼のリクエストもあり、「洋服と珈琲」と題して不定期で土日POESIES の店頭に立ち、商品の細かいこだわりを実際にお客様へご紹介。また、趣味でもあるこだわりの珈琲(お茶もあります)も振る舞っていただいている、という経緯であります。
ご希望があればサイズオーダーも承っています。

アイテムはシャツ、パンツ、Tシャツの3型のみ、ブランド名のとおり「ミニマル」でインディペンデントなユニセックスウエアです。自称「ディテールマニア」と言う彼のつくる服は、パーツやステッチを極限まで減らし、不気味な印象を受けるくらい簡素な仕様になっています。しかしその裏には、驚くほどとてつもないこだわりが詰まっています。

今回は特別にインタビュー形式にて、奥野氏にお話しを伺うことができました。彼の創作や哲学の深い部分を、ロングインタビューにて探ってまいりたいと思います。

INTERVIEW


ーまずは奥野さんのこれまでのキャリアを教えてください。

両親とも公務員の共働き家庭で、特に服飾に縁がある家庭ではありませんでしたが、服は大好きでした。高校卒業後、大学に進学しましたが、明確にやりたいことがない状態で進学したため、その先の就職に進むことはできませんでした。
周りから見て変わった服・目立つ服を選ぶことが多かったのですが、自意識が過剰なためか好きなことをはっきり好きとは言えない性格で、大学4年になって初めて、ずっと好きだった服の道に進みたいと口に出すことができました。
そこから現在までの体感は秒です。笑
その後、文化服装学院の大学卒業者・社会人向けの1年制コース、文化ファッション大学院大学テクノロジーコース2年制を卒業しました。

服の道に進むという決断をした後は生活も性格もガラッと変わり、それまで毎日の優先順位の1番は「夜7時に自宅で夕飯を食べること」だったのですが、専門学校に入ってからは寝る間を惜しんで手を動かし続け、それが楽しくて仕方ありませんでした。高校・大学で新たに得た交友関係は0でしたが、専門学校以降にできた交友関係は10年たって偶然再会してもすぐに話が弾むような得難いものばかりです。
その後就職・転職を繰り返しても服作りへの意欲は全く変わらず今に至ります。

designer 奥野優
大学卒業後、文化服装学院の大学卒業者・社会人向けコースに進学。文化ファッション大学院卒業。新潟の縫製工場で勤務し服作りの実践を経験。
現在は大学院の同級生が立ち上げた某デザイナーズブランドでパタンナーとして活躍。その傍ら24年6月に自身のブランド「X-MINIMAL」をスタートした。DESSIN DE MODE、pas deux pareilsのパターンも一部手がけている。

ーなるほど、私たちが知り得る奥野さんらしい型破りなエピソードです。
その後、お仕事はどうされていたのですか。

既製服を作れるようになりたかったのと、人の服を考えるが嫌だったので、工場に勤めようと思いました。最初の会社は新潟県にある三陽商会のボトム専門の自社工場で、三陽商会出身の先生の紹介してもらいました。
決め手になったのは、工場見学に行った際に製品不良ラック(縫製や仕上げプレスの直しを入れないとAにならないものがかかったラック)を見て、どこが悪いのかわからなかったので、この会社にいれば既製品が作れるようになると思ったことです。
縫製工場には1度会社を代わって合計8年ほどいましたが、既製服に必要な知識・技術・目線・またかかわる人々のモチベーション、優秀さの程度など多くのことを学びました。
今後の人生において、再び工場に勤務する可能性も大いにあると思っています。

その後、同じ新潟県内の縫製工場で、自社ブランドを展開してそれが売り上げの半分を占めている会社からのお誘いがあり転職しました。
3、4年ほど勤務したところで、大学院の同級生から自身のブランドを手伝ってほしいという申し出があり、2度目の転職を決意しました。3年ほど前です。
人の服を考えるのが嫌という理由でアパレルやデザイナーズブランドに勤務することは考えてなかったのですが、誘ってくれた友人のセンスは卓越していると在学中から感じていたので、彼の発想を形にする手伝いには魅力を感じていました。今の会社には現在も継続して業務に携わっています。

現在、パタンナーという立場でお仕事をさせていただいていますが、なろうと思ったことは一度もありませんでした。ありがたいことに仕事としてパターン作成の依頼をいただき、それにお応えしてきたという経緯があります。

パンツの型紙。通常は20パーツほどのパターンをわずか3パーツで表現。奥野氏の美学が垣間見れる。

ー某ブランドのデザイナーさんとは学生時代の同級生だったんですね。
そしていよいよX-MINIMALの誕生になります。10年以上前からご自身の洋服をつくっていたと聞いています。奥野さんがいつも着ている服ですよね。
それをブランドとしてスタートしたきっかけ、またコンセプトなどを教えてください。


製品の発表のきっかけは知人からの合同展へのお誘いです。つい先日の6月に参加しました。そこでの発表に際して、ブランド名を考えました。
ブランドのコンセプトは「普通の形の服のパーツと縫い目を極端に減らすこと」です。
専門学校1年目の終わり頃にこのコンセプトと出会い、それから10年以上たった今もこれを緩やかに追求し続けています。

ーずっと一貫したコンセプトで、洋服つくりを続けていたのですね。
そのようなコンセプトに辿り着くうえで、影響を受けたファッションデザイナーやブランドはありますか。


直接的に影響を受けているのはブランドやデザイナー自体ではなく、イタリアのブランド・MA+(デザイナー:マウリツィオアマディ氏)のコンセプトの一つ:1 pieceと、同じくイタリアのブランド・CAROL CHRSTIAN POELL(デザイナー:キャロルクリスチャンポエル氏)のコンセプトの一つ:dead endです。

ーどちらもいわゆる「一枚生地で仕上げる」というコンセプト(ワンピースパターン)ですね。まさにX-MINIMALの根底にあるものだと思います。
それを踏まえ、シャツ、パンツ、Tシャツ3型それぞれの誕生した経緯やこだわりを教えてください。

パンツが最初に出来ました。10年以上前、専門学校でジーンズの作図を見た時に、脇縫い目が前後とも真っ直ぐなのを見て脇縫い目をなくしたものを作りたくなり、そののち後ろ縫い目をなくすことを試しているうちに今の形の原型ができ、マイナーチェンジを繰り返して完成度を上げ続けています。
ストレートのジーンズをベースとし、通常は20パーツほどのパターンを、シルエット、ポケットやループ、前あきなどの機能はそのままにわずか3パーツに減らし、表から見えるステッチも全てなくしています。

3 Parts Denim
わずか3パーツで構成されたブランドを象徴するデニムパンツ。ハンギングされた状態の、立体的なフォルムも目を引く。細身だがスキニーではなく、独特の流動感が素晴らしい。ノンストレッチのガチっとした生地感も雰囲気が良い。

さらにパーツを減らしたことで新たな機能性が生まれています。一つ目は生地巾に入りきらない膝下部分のパターンを生地巾に入るように曲げたことで生じる寸法差をタックに変換することで膝の可動域を生み出しました。ジーンズの宿命である膝が抜けるということがこのパンツには存在しません。二つ目は前後のポケット口をつなげることで脇にも収納部分が生まれました。人体のこの部分は体が動いても変化しないためペンを安全に差しておくことが可能です。さらに、前後をつなげることでポケット口が下がり、加えて袋布が身頃から生えているためポケットへの手入れはしやすく、また境目がないので肌当たりが非常に良くなっています。
また、フロントはジップフライですが一番上にはホックも釦もつけずに通常よりも太い金属ファスナーだけにしており、開閉を容易にしています。ファスナーが太いため、ホックがなくても勝手に開くことはありません。

また、後ろウエストは臀部上部の傾斜に乗るように設計しているため、ベルトなしでも脱げづらく、合わせて前側にはゆとりを持たせ、食後に腹部が張っても苦しくないよう配慮しています。
これらの工夫は、元々自分のライフスタイルに合わせて考えられており、数々のプロトタイプを実際の生活で数年にわたって使い続けているため、説得力を持ってお勧めできます。

Shirt Ultra-Plain
ボタンを全部閉めたスタイルがやはりとても美しい。首回りに余裕があり、着用感もストレスを感じない。

シャツは生地を端から端まで切らずに使ってシャツを作ろうと思い立ったことが誕生のきっかけです。それを第一要件にして尚且つパーツと縫い目を減らして行き、パターンと素材の兼ね合いを見極めつつこの形と素材に行き着きました。
特にこだわったのは前端の仕様で、比翼仕立てで前端の比翼ステッチをなくし、さらに第一釦も見えなくしています。
ベースはいわゆるYシャツだったのですが、あまりにも見た目がすっきりしてしまったため、綿素材よりもドレープの美しいスーツ用のウール素材の方がその美しさが際立つのではないかと思い試したところ、見事にはまったため、ウールシャツにすることにしました。

Tee-1
ネックはカットオフで、一見、ヴィンテージのアンダーウエアのようだが、その凝ったディテールに驚く。後肩の切り替えが特徴的な1パーツTシャツ。

Tシャツはシャツの派生として生まれました。昔から丸胴の生地(筒状に編まれた編地)を使って、MA+とは異なったアプローチの1パーツのTシャツを作りたかったのですが、シャツのパターン修正の最中に閃いて試したところ、形にすることができました。
前面の何の変哲もない見た目と後ろ側の縫い目の違和感のギャップを面白がってもらえれば幸いです。

ー細かいご説明ありがとうございます。あとは実際の商品を見て着てもらい、そのアイデアや驚きを手に取ってもらいたいですね。
ところで、私たちとも繋がりの深いDESSIN DE MODEともお仕事をされていますが、始まりの経緯を教えてください。またデザイナー水野氏との印象的なエピソードもあれば伺いたいです。

最初に勤めていた工場の取引先でした。コートの量産をご依頼いただき、その取り回しを自分が担当したのでそこでのやり取りが水野様との出会いです。服好きの趣味や価値観の目線が近かったためか「奥野さんはこれまで会った縫製工場の方とは違う空気を感じます」、との嬉しいお言葉をいただき、退職後にも個人としてグレーディング(サイズ展開)やパターン修正のお仕事をいただくようになりました。
現在は1stパターンの依頼も頂くようになり、デザインについて相談しながら一緒にものづくりをさせていただいております。

基本的にメールや電話での仕事でのやり取りがほとんどですが、展示会などで近くに寄った際には長く話し込むことも多く、そのたびに水野様のファッションへの造詣の深さや先見の明、またご自分で生産背景を開拓し、ものづくり通して新潟や生産者を盛り上げようとする水野様の熱量に感銘を受け続けています。

ー不思議な巡り合わせですね。新潟の工場に勤めていなければ、水野氏ともPOESIESとも出会うことはなかったかもしれませんね。
さて、POESIESにて週末店頭に立ち、珈琲のサービスも提供して頂いておりますが、とてもお客様に好評です。なぜこのようなサービスを行おうと思ったのですか。
また珈琲へのこだわり、食へのこだわりなどもあれば教えてください。


自分の服が売れると思っていなかった(笑)ので、また多くの皆様に服屋に入るモチベーションがないと思っているので、通りすがりの方の興味を惹きつつ自分の好みや価値観を表現できる仕掛けとしてこのサービスを考えました。
自分であれば、服屋に行く気がなくてもこのラインナップには必ず反応します。そこの価値観が同じであれば、自分の服にも興味を持つ可能性が高いと考えています。

コーヒーについては古くないこと、焦げてないことが第一に望むことです。蘊蓄や情報が先に来るのではなく、まず「面白い」や「美味しい」が先に来て、そのあとなぜそうなのかが知りたくなるようなコーヒーが好きです。
ただ、正直なところコーヒーについてはそもそもあまり好きではなく、油脂の効いた重いスイーツやデザートとのマリアージュ要員としては最高ですが、お茶の方が圧倒的に好きです。
食については値段や形式へのこだわりはありませんが、字面では味のわからないもの、食べたことのないものなど刺激を与えてくれるものを選ぶことが多いです。また、多くの人や著名な方が良いといっても、自分でそう思わなければ二度と行くことも人に勧めることもありません。

ーぜひこちらも店頭で味わって頂きたいです。
さて、今後の新作はどのようなものを予定していますか。またブランドのヴィジョンを含め、どのような活動をしていく予定ですか。

パーツと縫い目とステッチが少ない普通の形の服、という点は変わりません。具体的には順不同ですが、
・アームホールが行き止まってる立体的なシャツ
・肩と背中に縫い目のない一枚袖のシャツ
・見頃と袖が一続きの半袖開襟シャツ
・狭幅の生地を使用したワイドパンツ
・内股縫い目のないカーゴパンツ型
・テーパードのイージーパンツ
・主要部分2パーツのフードコート
・パーカー
までは雛形があります。
現状では上記を発表できるレベルで形にすること以上の見通しは特にありません。
ただ、今後の活動としては、別のコンセプトのものづくりのアイディアがあり、そちらも形にしつつさらに両方のコンセプトを組み合わせた製品も作成したいと考えています。

ー最後にPOESIESのお客様へひとことお願いします。

「目的は買っていただくことではなく次の来店」という店主の信条のもとに、純粋に服が好きな素晴らしい顧客様が集まり、とても素敵な場が形成されていると感じております。
週末のみかつ不定期ですが、店頭に立って商品の説明やサイズオーダーを承っております。
最高品質のフリードリンクも是非ご賞味下さい。

ー奥野さんが10年以上追い続けているブレない美学が素晴らしいです。インタビューありがとうございました!

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