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アンドレ・デジール 最後の作品 感想

2023年9月 ミュオタ忙しすぎ問題。
スクールオブロック、生きる、スリルミー、ラグタイム、ファントム、アナスタシア、クンツェ&リーヴァイの世界などなど、期待の新作、良作の再演、豪華なコンサートが乱立。ファンも多く実力のある俳優が各作品に散らばり、会場も散らばり、ダブルキャストやトリプルキャストでスケジュールも思うように組めず、金が足りない、時間もない、そんな悲鳴であふれていた。
もうさすがにないだろうーーそう思っていた6月、突如解禁された新作のオリジナルミュージカル『アンドレ・デジール 最後の作品』

9月……まだあったの……隙間ないよ……

急いで手帳を確認し、マチソワ間の時間を確認し、会場間の移動時間を確認し、むりやりねじ込みました。
(おかげで西川デューイが見れずじまいでした。無念…)

そんな感じでキャストを選ぶ余裕はなく行ける日だけでチケットを取ったので、メインの二役がダブルキャストのペア固定の作品でしたが、片ペアだけ観劇しました。一回しか観れてないんで記憶は不確かです。悪しからず…。

20世紀初頭に不慮の死を遂げた大画家アンドレ・デジール。
共にデジールを信奉していたエミールとジャンは、運命に導かれるように出会い、二人で一緒に絵を描くようになる。二人の魂は共鳴し合い、一人では到達できない芸術の高みへ登っていくことができた。
だがその絵の素晴らしさゆえに二人は巧妙な贋作ビジネスに巻き込まれる。アンドレ・デジールが不慮の事故死の直前に描いたであろう「最後の作品」。それは事故で燃えてしまっており、絵画ファンの間で永遠の幻とされていた。その「最後の作品」を描くように依頼されたのだ。
アンドレ・デジールの「最後の作品」を巡り、別の時代に生きるデジールとエミールの人生が交差した時、思いも寄らない愛と真実が浮かび上がる。そしてエミールとジャンの関係は大きく変わっていくーー。

https://www.andredesir.art



以下、ネタバレ満載で感想をつらつらと。

上川さん×小柳さんペアで観ました。観劇中、上川さんのお芝居を観ながらなんか既視感があるな?と思ったら、ムーランルージュのロートレックでした。あの本番をこなしつつこちらのお稽古もしていたんですね…すっごいスタミナ。上川さんのエミールは可愛らしくて絵に対してまっすぐで、絵を愛するからこそ絵が描けないことに苦しんでいて、そこに差し込んだジャンという光は、デジールの描く船のような存在だったんだろうなあと思う。絵が好きでデジールが好きでジャンが好きで、揺れ動く感情の表現が見事でした。歌声は抜群の安定感。低めなのにエミールらしい可愛らしさが滲み出ていて役歌唱として素晴らしかったです。あと、冒頭のおじいちゃん演技がすごく迫真。ラストシーンにも繋がる重要な美術館のシーン。額縁が裏向きに吊られたセットで、上川さんは客席を向いて芝居をしているんだけど確実に額の中の絵だけを観ていて。目の芝居が見事だなあと思いました。
小柳さんは初ミュージカルということでしたが、上川さんの歌声とよく合っていてハーモニーが素敵でした。身長も高く、エミールとジャンの凸凹バディ感が作品の雰囲気に似合っていました。最初のエミール美術館のシーンで華麗に踊っていたのでダンスが得意な方?と思ってたんですけど、アフタートークで「父のブラザートム氏から『小柳家にダンスの才能はない!』と言われた」と話していました笑。ダンス素敵でしたよ!
上川さん×小柳さんの素敵なハーモニー 『俺たちのデジール

物語について。
人は愚かで不器用で、だからこそ愛おしいのだなと思いました。
これはエミールの懺悔の物語だし、ジャンの美しい思い出の物語だし、父と母とエミールの不器用な家族愛の話でもあるし、デジールと妻と娘の真実の話でもある。
二人が安易に受け入れてしまった贋作ビジネスは決して許されるものではないし、人を傷つけてしまったし、結果的に二人は決別してしまい、そのまま永遠に会えなくなってしまった。悲しい物語だけど、それぞれの、あらゆる場面での選択や決断は、相手のためを思って、相手を愛するが故の選択であり決断であったわけで。だからこの物語がただ悲しいだけの物語じゃなく、温かさを感じるものなんだなと思いました。

登場人物の関係性はそこまで複雑じゃないから混乱することはなかったかな。主演二人以外は各シーンでいろいろな役を演じてます。私が観た日はアフタートークがあって、日曜日のソワレだったので、Wキャストである上川さん小柳さん以外は全員4公演を終えた後でみんなヘロヘロでした笑。「ずっと着替えてました!」と。舞台を支える存在は逞しいです。

一瞬ん?となったのは母の存在かな。突然出てきて誰!?となるけど、話が進めば彼女がエミールの母で、エミールが絵を描くのに大切な存在であったことがわかる。そしてエミールが絵が描けなくなったということは……というところまで観客は想像ができる。
そんな母との別れについては、二幕の冒頭に父が語るけれど、え?と思った。なんかもっと悲劇的なというか運命的な?不治の病とか不慮の事故とか?そういうもうちょっと自分では抗えない運命なものを想像していたんだけど、思ったより母が人間らしく愚かでした。明るく素敵な人と描かれているからこそ、彼女の最期はショッキングでもあり、怒りを覚えもしました。
このシーンの戸井パパの歌がとても切なくていい。一切妻を責めていなくて、ただ自分が悪かったと、「俺は根暗で卑屈でなんの取り柄もなくて…」とポツポツと歌う姿がとても小さく見えた。

デジールの死の少し前、過去のシーン。エミール役である上川さんがデジールになることで、二つの魂が共鳴して過去の記憶を呼び起こしていることがわかる。湖のほとりで絵を描くデジールと、洗濯をする娘マルセリーナ。二人の初々しさが眩しくて枯れたオタクは目が潰れそうでした。彩春ちゃんはこういう役が文句なしに可愛いのは知っていたけど、上川さんもすっごい幼く見えて、若い二人のピュアな恋心にむずむずした。とっても可愛いシーンでした。
マルセリーナは指は赤切れだらけで、足を引きずっていて、彼女の境遇が想像できる。歩くときも座るときもちゃんと足が悪い動きをしてた。彩春ちゃん、こういう動きすごく研究したんだろうなあ。保育士設定の役をやるときに保育体験しちゃうような熱心な役者さんだものね。
彩春ちゃんメイン役のマルセリーナの出番は少なかったけど、冒頭の美術館のしごできお姉さんやバレリーナ、エミールのファンの女の子などなどいろんなキャラクターでくるくるお衣装が変わってとっても可愛らしかったです。

最後は、冒頭の美術館の場面に戻る。
このおじいちゃんがなぜ美術館に通い続けるのか、その秘密が明かされる。介護士役の藤浦さんがいい味出してた。最後に船に気づかせてくれたのは彼だしね。彼のピュアな心がエミールに船を気づかせてくれた。どことなくジャンに似ているというエミールのセリフも心に沁みる。
ジャンの死を知ってなおエミールが「描きたい! 何か描くものはないか」と思えたこと、また描けたこと、描いて誰かに喜びを与えられたこと。それはジャンの望んだエミールの姿だったんだよね。だから最後、ジャンは2人で絵を描いていたあの頃の姿で、またエミールに会いに来た(ように私には見えた)。
迷ったときは船を出して迎えに行くよと歌ったあの日の姿のままに。
二人なら』のメロディはいろんなシーンでいろんな感情として歌われるのですごく耳に残っているし、この動画も何回観ても美しくて感動する。(そして観れなかったウエンツ×上山ペアをめちゃくちゃ観たくなる…)

現実→過去→現実という構造や、会ってすぐ惹かれ合う2人、亡くなった人がそばにいる描写なんかがマリー・キュリーを思い起こさせて、そりゃ泣かされるはずだわと思いました。
絵のお話だけど実際の絵画は少ししか出てこない。エミールが描いた作品は観客にはわからない。でも音楽が、舞台という真っ白なキャンバスを鮮やかに彩っていて、すごく想像力を掻き立てられました。音楽が、歌詞が、歌声があるミュージカルだからこそ、この作品が一層美しいのだな、と思いました。

本当に、一回しか、片ペアしか観れなかったことがこんなに悔しいと思う作品もなかなかないです。大阪公演があるので時間がある人はぜひ観てほしい!
大阪公演の情報は こちら から。

素敵な作品に出逢わせていただきました。

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