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謙虚な人、って褒め言葉だと思っていたけれど

(SNSに投稿した長文を、転載させていただきます。有料ゾーンは特に何もありません🙏🏻)


子どもの頃、存在感の薄かった私が珍しく褒められることと言えば、誰かに大切なものを譲ったときのこと。友人が遊びに来て、自分の椅子を譲るとか、ずっと待ってたけど順番を譲るとか……。

そんな時に「えらい!」と褒められるもんだから、えらいと思って、そうしていたのです。我慢すること。それが美徳だというのはきっとどこの家庭でも似たようなもので、「謙虚な人」と言われて、悪い気持ちになる人はいないんじゃなかろうか。

けれども英国の教育省が発行している保育のガイドラインには、”3歳4ヶ月から5歳まで”に子どもに身につけさせたい到達点の一つに、「自分の権利のために立上がる自信と能力を示す」という目標があるのだそう。

「わ、今どきな考え方!」とビックリするけれど、この目標を紹介してくれたブレイディみかこさんは、10年以上前に発行されたガイドブックを参照しておられるという……。文化の違いはあれど、少なくとも私にとってはとても欠けていて、そして必要だった考え方だと思いました。


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先日、ブレイディみかこさんの新刊『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』を読みながら、深い感心のため息を付いたり、血眼になったり、熱を出したり、なかなか濃厚でエキサイティングな読書時間を過ごしました。

立体的な思考が苦手な私にとって、イデオロギーが頻出する同書はノートに関係性をメモりながらじゃないと頭に落とし込めないのだけれど(受験生か!)、まさに立体的な思考を導く地図のような1冊。

私はかなりの直感人間で、いつでも「嗅覚に忠実であればそうそう間違えない」と思って衝動と情動で生きて参りました。人付き合いにおいても、邪気が出ているか否か……というややサイキックな判断基準を通して惹かれ合うことが多いし、そうした判断は不思議なことに間違わない。五感の拡張をさせていくことが、自分を導いていくことだなぁ、とも思ったりしています。

そうすると、他人の感情や痛みが時には自分のように感じられることもあり、悲惨なニュースやアクション映画までも痛ましくてたまらない。日本では最近「エンパス」「HSP」あたりの「共感力ガバガバ、感性ドバドバで、現代社会を生きるのがしんどい人」みたいな概念がものすごい勢いで普及しているけれど、まぁ、自分もそうした属性だなぁ、と思ったりしてました。

ただそうした瞬発的な共感力は、生きていく上では「愛想が良い」と捉えられる部分もあるので、対人関係は(表層的には)うまく出来てしまう。けれどもそこそこうまく出来るからこそ、問題が深刻化したときは、深く踏み込むのが逆に苦手というか……。「先天的に器用だからこそ訓練をサボってダメになるスポーツ選手」みたいな感じで、立体的な、深い思考を育むのをサボって生きてきたようにも思います。

本の中で書かれている、「共感性の塊だと、どんどん主体性がなくなり、強い誰かに支配されてしまう」みたいな話も、自分の32年を思い返せば、心当たりがありすぎて。

そうした「やわらかで主体性のない私たち」が集まった結果、社会や会社や国がフニャフニャで操縦不可能なものに成り果ててしまう……というのは、この1年半で誰もが目覚めたところかもしれない。これはヤバくね?と。そんな中でブレイディさんが提唱する「アナーキック・エンパシー」というのは、私の解釈では、「確たる自我を持った上での、他者への想像力」というところでしょうか。

私の『ここじゃない世界に行きたかった』では「まずは自我を取り戻さなきゃ」ということを書いているのですが、自我初心者な自分にとって、その後の世界を生きる地図を読ませてもらったような感じです。

ベストセラーになったブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で「このままじゃいられないぞ」と思った人にとっても、とても力強い副読本となってくれます。しかも今、ぼくイエ(って略すのであってます?)は文庫本化されてるので、個人的にはあっちを読んでから(するする読めます)、より思考を立体的に深めるために、こっちを読むのをおすすめします。

「どうしてこんなに深い対話が出来るのだろう…」と、ブレイディさんと息子さんのお話をうっとり読んでいたけれど、その背景にこうした深い知識や、社会を変えようと闘っている人たちがいるからこそ、というのがよくわかります。根がなきゃ花は咲かないですよね。

素敵な親子関係にうっとりする前に、近所の政治は、職場の人間関係は、家族の中の力関係はどうなってしまってる?と足元をみなきゃいけないですね。そして足元を正しく見るには、他国や過去の成功や失敗を学び、そこに直感もあわさったら最強なんじゃないかな。強くなりたい、でも優しくありたい、そんな今の自分に、知識と勇気をもらえる本でした。

そしてなんと!(どどん!)本日7月2日(金)の日本時間20時から、ブレイディさんと対談させていただくという役得が……(私の本と、編集さんが一緒という嬉しさ!山本さんありがとうございます!)。アーカイブも2週間視聴出来るので、明日は無理!という方もおっかけて観れます。是非!

B&Bさんが主催ですが、場所はオンライン、NYから英国ブライトンに繋いでお届けしますので、ぜひ夕食のお供にご覧くださいませ。NYの方は早起きして観てネ、私も早起きがんばるぞい……!
http://bookandbeer.com/event/20210702_swnh/

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ



ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー


🥾👟👠

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