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ドラマの片隅で

今から何処にもない話をする

よく音が消える部屋
私はそこに住んでいる
空港が近い、あの街の
アパートの4階
左角の部屋
西向きのベランダ持ちの贅沢な奴に
住み着くコンパクトな私

昼下がり、テレビを見る
途中窓が揺れるほどの振動が走る
十八番の口読術で見えたのは
『明日も晴れ』
いい気分、明日もありがとう

時計を見る、あと15分で恋人が来る

跳ねた前髪とつま先をそっとさせて
見せられる、いや、小粋に
魅せられるパジャマに着替える
(おうちデートとは努力だ)

カラッカラの音が鳴り響く
ピンポンというより、キンコンの方が
しっくり来る音の種類
待ってないよ、別に
という顔ぶりしたつもりだけれど
お待たせと言われると、先を越されたようで
ちょっと、ムッとする

来てすぐに靴下を脱ぐ
私の部屋にも気を配るなんて律儀な恋人
悍ましい、程、美しい
西日が出てきそうな時間
ほんの少しお腹が減ってしまう
どうしようもない時間

『コーヒー、飲む?』

来ました、恋人があたかも此処に住んでいるかのような振る舞いになるあのなんとも言えない心地よさ
家にいるのに、家にいない
パラレルワールドの私になる、あの、瞬間

『お願いします』

基本、私と恋人は敬語で話す
どおってことない、歯ブラシの色を分けるくらいの
その程度のルールでもない、なんだろうか
なんとなくそうしている
保たれた丁寧がずっと青い気分

手慣れた手順、レンジの上に置いてあるミルに
2杯分の地球の裏側をよそって
回り出した変身の音

耳を支配するギコギコというミルの取手と
豆が小さい豆になる音達
鼻を支配する芳しいあれ

ベランダの影が爪先まで届く
横顔、いつまでも綺麗だな
珈琲屋開いたらこりゃ、
つまみにされちまう、、、
なんてまたないような話を想像して
私が一番話のつまみにしている

恋人とのなんてことない夕方

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