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2023年7月の読書記録

7月の読書まとめ

2023年7月の読書メーター
読んだ本の数:19冊
読んだページ数:6987ページ
ナイス数:433ナイス

https://bookmeter.com/users/1257218/summary/monthly/2023/7

19冊! 7月もなかなか読書がはかどっちゃいましたね。
晴耕雨読なんて言いますが、こう暑いと晴れてようが降ってようが冷房効かせた部屋で読書に耽溺するのが正解なんじゃないかって気がしてきます。
8月は盆休みもあるし20冊の大台に乗れるかな?



各作品の感想・評価

読書メーター投稿時の感想からネタバレ成分をなるべく省き、あらすじや255字で書ききれなかった感想を加筆しています。

評価基準

☆☆☆☆☆ 文句なし! 年間べスト級
☆☆☆☆★ 面白かった! 大満足
☆☆☆★★ それなりに楽しめた
☆☆★★★ 可もなく不可もなく
☆★★★★ イマイチ合わなかった……

📕☆☆☆☆★「ゲームの王国 下」小川哲

クメール・ルージュの迷走と暴虐を軸としていた上巻から打って変わって、ポル・ポト政権崩壊後の選挙の動向と、脳波を利用したゲーム「チャンドゥク」が主軸となる下巻。

チャンドゥクのSF的アイディアやカンボジアにおける貧困の根深さなど実に興味深く、間違いなく面白かったんだけど、土だけでなくチャーハンと会話できるようになった「泥」や、不正を察知すると勃起するジャーナリストのカン、やたらヘモグロビンの話題を推してくるモブの医師などサブキャラクターのエピソードが強烈すぎて、話の軸となるムイタックとソリヤの戦い、「ゲーム」を通じたボーイミーツガールという骨格が、個々のエピソードという肉を支えきれてない印象でした。

でもこの無軌道っぷりがカンボジアという舞台に合ってる気がするし、肉部分ぜんぶ美味しいからOKです! ラストも美しさと悲哀があって好きだ。

🎧☆☆☆☆☆「プロジェクト・ヘイル・メアリー 下」アンディ・ウィアー

※上巻のネタバレを含みます。

下巻はひたすら、アストロファージ禍の攻略に挑む試行錯誤の連続。

地球人・グレイスと異星人エリディアン・ロッキーのバディが直面する数々の課題やトラブルも、その解決法も、意外性とリアリティに満ちていてわくわくするし、その過程で友情を深めていく彼らの姿が愛おしい
生態も言葉も何もかも違っても、異なる進化を辿った文明を尊重し真摯に接する姿勢と科学的好奇心、問題解決を諦めないポジティブなスタンス、そして宇宙空間での孤独と絶望を共有する彼らは無二のバディなんですよね。いい……。

カットバックでグレースの過去が明らかになる形式が、ラストの展開に効いていたと思う。自分がどういう人間だったかを思い出した上で、友のためにあの選択ができるというのが実にアツい。それに応えるロッキーも最高だ。

決して生を諦めず、美しい悲劇で終わらせない、徹底してポジティブな作劇が心地よかった。楽観的かもしれないけれど、わたしはこういう物語が好き。

📕☆☆☆☆★「不知火判事の比類なき被告人質問」矢樹純

被告人質問によって、それまで法廷で展開されていた事件の様相を全くひっくり返してしまう、不思議な判事が探偵役の連作短編集。

1話目はトンデモ真相と飛躍の多い推理に大丈夫かこれ……と心配になったけど、あとの話は安定して面白かった。
どこかとぼけたドジっ子で、けれど物事を本質を捉える眼と関係者の心情に寄り添う優しさを持ち合わせた不知火判事に、ちょっと亜愛一郎を思い出しました。他にも、彼の判決を追うライターの湯川さんや、傍聴マニアのおじさんコンビ、敏腕弁護士の尾崎さんなどレギュラーキャラみんな好感持てますね。

探偵役が判事なので、法廷の場面の証拠や描写だけで、意外な真相にたどり着けるようにしないといけないわけですが、犯人視点のパートや、弁護士・湯川さんの別解推理も入れたうえで綺麗にどんでん返しを決めていていて、縛りのきつい中だいぶ高度なことをやっていると思います。

露悪的すぎず冷静だけど説得力のある被告人の境遇の書き方がいいし、ミステリ的などんでん返しによる人物像の反転で、被告人や被害者を「地続きの場所にいる普通の人たち」として描き出す、優しい筆致も好もしかったです。4話目の「沈黙と欺瞞」がラストの説諭も含めて一番好き。続編出てほしいなあ。

📕☆☆☆★★「令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法」新川帆立

「動物福祉法」や「どぶろく通達」等、架空の法律が施行された6つのパラレル現代日本を描いた、ライトでちょっとブラックな風刺小説。

扱う法律は規模もジャンルも様々ながら、それらに翻弄され適応していく企業や社会、個人の有様が、だいぶ戯画化されてるとはいえこういう事ありそうだな~と思えて面白かった。結構身につまされますが……。

お話としては「自家醸造の女」が一番好き。家庭での酒造が慣習化した世界での、酒造りを通じた主婦たちの成長譚で、爽やかな読後感とオチのキレがよかったです。

📕☆☆☆☆★「わたしたちの怪獣」久永実木彦

怪獣とかゾンビとか吸血鬼とかタイムトラベルとか、非現実的な要素をそれぞれ扱っているけれど、どれも世界の底にいる弱者たちが、彼らなりにヤケクソに立ち上がる物語という印象を持ちました。

しんどくて悲痛な現実と、その中で光る弱者同士の連帯や僅かな希望の描き方が好き。とくに「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」は映画館に集ったギークたちの奮闘と挫折が愛おしく、ラストシーンの美しさも染みました。こういう終末を迎えられたらいいのに。

🎧☆☆☆★★「ヨルガオ殺人事件 上下」アンソニー・ホロヴィッツ

上下巻を同月に聴き終えたのでひと項目にまとめます。

前作の時点で凝りに凝った設定をフルに使い切った感あったけど、更に同趣向の作品を出してこれたことにまず驚き。今回も作中作と現実の事件の二重構造が展開されるんですが、これを成立させる設定づくりがすごいわ。

そして作中作「愚行の代償」が面白くて困る。
読んでるうちに外側の事件忘れちゃうんだよね。作中でべた褒めされててかなりハードル上がってるのですが、怪しげな要素を随所に散りばめつつ意外な犯人をうまく成立させていてとても面白かった。あとやっぱり作中作の名探偵アティカス・ピュントが有能&探偵として高名だから捜査がスムーズで読んでてストレスがないのがいい。

対して現実パートでは探偵役のスーザンが七転八倒するわけです。
しょうがないよねただの編集者なんだから。生活や婚約者との関係への愚痴にまみれててちょっと辟易しますが、今回は(今回も?)完全にとばっちりなので気の毒になってくる。
それでも、関係者から話をなんとか聞きだし、アランの集めた資料を参照したうえで、「愚行の代償」の端書と作者の性格から犯人に辿り着く……つまり「テキストを読む」ことで真相に辿り着く過程がユニーク。後から明かされる小ネタの数々は、よくもまあこれだけ仕込んだものだと感心してしまった。
ドロドロの悪意が炸裂する真相はしんどかったけど、面白かったです。あのホテルろくなもんじゃねえな。アランもホロヴィッツもほんと性格悪いぜ。

しかしピュントもスーザンも「皆を集めてさてと言い」展開で容赦なく全方位爆撃かますのはミステリのお約束への皮肉なのかな。

📕☆☆☆☆★「世界でいちばん透きとおった物語」杉井光

中盤あたりで本書に仕込まれた趣向には気づいてしまったんだけど、逆にこれがどう物語に活きてくるのか? という興味でワクワクしながら読めたし、その期待にしっかり応えてくれました。

途方もないアイディアを実現する根気もすごいが、それを自然とストーリーに組み込み、唯一無二の父子の物語、主人公の再生物語として成立させる手腕が見事です。真相には不覚にもじんときた。

🎧☆☆☆★★「パディントン発4時50分」アガサ・クリスティー

すれちがう列車内で目撃された殺人と死体消失で既に掴みは上々なのに、死体消失の謎はマープルの推理でサクッと処理して、その死体が隠されていると思しきお屋敷・クラッケンソープ家のラザフォード・ホールへ、潜入捜査員として凄腕家事請負人のルーシー・アイルズバロウを送り込むという更にワクワクな展開へ。

このルーシーのキャラがいいんですよね。学者になれる知性を持ちながら、今の社会で最も需要が高いのは家事労働!と見抜き、高額な請負料を取って完璧に家事をこなしてみせるという女性。大前春子的な?
クラッケンソープ家の男たちから次々言い寄られ、さらりとかわしながらも内心ちょっと迷いを見せる様もいい。彼女が探偵役の連作短編とか読みたかったなあ。

外部における警察の捜査、屋敷内でのルーシーの捜査が並行して描かれ、死体の正体はクラッケンソープ家にゆかりのある女性、マルティーヌなのか? それとも別の誰かなのか? という謎はかなり引っ張られます。

そして最終盤でとうとうマープルによって明かされるのですが……ちょっとこが個人的には肩透かしでしたね。印象的で痛快だけど、その結論に至る説得力が薄いのです。道中が文句なしに面白かった分がっかりしてしまったな……。

📕☆☆☆☆☆「極楽征夷大将軍」垣根涼介

二段組で文量もかなりあったけど、元々この時代に興味があったし、足利兄弟や師直その他キャラの魅力でぐいぐい読み通せました

人はいいけど甘ったれな尊氏の極楽とんぼっぷりも面白いし、彼を支えてどうにか政権樹立まで持っていく怜悧な弟・直義と辣腕の執事・師直の奮闘ぶりも楽しい。そして所々に炸裂する兄弟愛、たまらんね。ブロマンスとしても読めちゃうくらい愛が重いぞ
史実でも謎ムーブの多い尊氏を不定形な水(ただし弟絡みは除く)と捉えた解釈かなり好きだなあ。

政権樹立後、ともに協力して尊氏を支え幕府をもり立てていこうとしていた直義と師直が、幕政方針の衝突や風評によるすれ違い、自分を担ぎ出す部下たちの思惑などいつの間にか「世間の波」に呑まれ沈んでゆく終章はやるせなくて特に好き

なんでこんな事態になったの?! っていう複雑な政争が、それぞれの視点で、それぞれの正義とともに(ちょっと冗長なくらい)丁寧に綴られていて、波を乗り切る難しさがよくわかったし、最後まで乗り切った尊氏との対比が哀しくていい。

読了した直後に直木賞受賞が決まってめでたい!
図書館で借りて読んだのですが、気に入ったので受賞帯で買い直しちゃいました😊

📕☆☆☆☆★「ザ・ベストミステリーズ2023」アンソロジー

第76回推理作家協会賞短編賞 最終候補作の5編+αの年鑑アンソロジー。
公式サイトの選評と見比べながら楽しく読みました。さすがに秀作揃いだったので、2022以前のも読んでみたいところ。

  • 西澤保彦「異分子の彼女」:西澤さんらしいアクの強い人物造形や小ネタに苦笑してたら全部伏線として回収され凄まじいオチに持ってかれて呆然としました。これは納得の受賞。

  • 浅倉秋成「ファーストが裏切った」:野球の試合描写はさすがだし、特異なシチュや記事形式は目新しいんだけど、真相が腑に落ちず。普通の小説形式なら伏線や選手の心理をもっと補強できたんじゃ?

  • 鵜林伸也「ベッドの下でタップダンスを」:不謹慎コメディっぷりに笑っちゃうけど、強固な不可能状況が解きほぐされる快感は随一。ラストのピタリ感も好きです。

  • 川瀬七緒「美しさの定義」:特殊知識(服飾)ものですが、知識そのものでなくそれを元にした推理が面白い。迷宮入りした事件に別角度から光を当てて真相にたどり着くプロセスが丁寧でよかった。

  • 北山猛邦「神の光」:街の消失というスケールの大きな謎にワクワクしたし、豪快な解決を飲み込ませる手がかりの散りばめ方もイイ。クイーンオマージュと思いきや、のタイトルがニクい。

  • 櫻田智也「赤の追想」:真相こそわかりやすいけど、散りばめられた伏線の収斂、もう一組の母娘の物語と綺麗につながる着地にウルッときた。美しく感動的な一編。個人的ベストです。

  • 米澤穂信「倫敦スコーンの謎」:調理実習という場で交錯した生徒たちの心理・隠された行動を、冷静に丁寧に解きほぐしていく過程が手堅いし、地味なディスカッションを面白く読ませる筆力はさすが。

📕☆★★★★「アミュレット・ホテル」方丈貴恵

現代本格ミステリの俊英・方丈貴恵の新作、それも初の短編集ということで期待して読み始めたのですが、う〜ん、イマイチ乗れなかった。

どうも舞台設定プロットしかないというか、推理の過程がきちんとしていて話に捻り効かせまくってるのに、尺不足ゆえにその説明に終始してしまっているという印象で、やっぱり方丈さんは長編の人だなと。

特殊な犯罪を成立させるための舞台設定にこういうこと言うのも野暮なのですが、ちょうど壮絶な犯罪物語(「ヘルドッグス」)を同時進行で読んでいたのが災いして、犯罪者たちの描写の安っぽさが気になってしまった。クライム・オブ・ザ・イヤーて……ザ・セブンて……。

収録作の中では、幼馴染のために奮闘する少年の物語とホテル内の殺人が交差する「一見様お断り」がよかったです。外部視点で描くことでホテルの特異性がわかりやすく伝わってきたし、キーホルダーを奪還できるのか? という緊張感が最後まで物語のテンションを保っていて面白く読めました。

📕☆☆☆☆★「クローゼットファイル 仕立屋探偵桐ヶ谷京介」川瀬七緒

「ザ・ベストミステリーズ」で読んで面白かったので。
布や身体の状態からあらゆる情報を読み取れてしまう桐ヶ谷が、その異能ゆえに被虐待児童の存在に気づくが、当然手出しできないため、警察とのコネ作りのため未解決事件の捜査に協力する……という、探偵としての特性と行動理念がキッチリ結びついた設定がまず秀逸

服や身体の状態から読み取った情報や特殊な服飾知識をもとにしてどう推理を展開していくか手順が丁寧で面白いし、事件を取り巻くビターな人間模様の描き方もいいですね。

盗んだ下着を穿き、かわりに自分の下着を現場に残していくという最悪な下着泥棒常習犯を扱った「ルーティンの痕跡」は、下着の種類やシワの変化から犯人特定に至る解法が特に面白かった。

また、桐ヶ谷自身が遭遇した被虐待児童にまつわる事件を扱った「攻撃のSOS」も、推理の飛躍がちょいちょい気になったものの、児相に通報して終わりっ! じゃ済まない虐待問題の難しさがよくわかったし、警察も桐ヶ谷も数々の制約がある中で可能な限り手を尽くして、なんとか希望のある結末へ持っていく過程が丁寧に描かれていてよかったです。真摯な作品。

📕☆☆☆☆★「可燃物」米澤穂信

米澤穂信の新作は、物語の技巧もキャラの描き込みも抑えに抑え、謎と捜査と推理に純化した作品集。といっても決して無味乾燥ではなく、事件の真相や推理の過程を通して人物像を印象的に描き出していて読ませます。やっぱうめえな米澤穂信。

4話まではコアの謎が明快でシンプルなので、端正だけど小粒だなという印象だったのですが、「立てこもり事件の店内で何が起きているのか?」を軸にした5話目「本物か」で覆りました。避難者たちの証言を丁寧に検証していくことで事件の構図が反転する様が鮮やかでよかった。

シンプルで手がかりも丁寧なので真相にピンとくる話も多いのですが、変則的なミッシングリンクが主題の「ねむけ」は、あんなにはっきり共通点が示されてるのに全然気づかなくてめちゃくちゃ悔しかったです。ぐぬぬ……。

🎧☆☆☆☆☆「ヘルドッグス 地獄の犬たち」深町秋生

映画版が気になっていたけど見にいけずじまいだったので、配信を機に聞いてみました。

ダーティな手段も厭わない組対部長・阿内と、警察の手の内を知り尽くした東鞘会ボス・十朱のハイレベルな騙し合いも先が読めずスリリングでしたが、何より、東鞘会に潜入し殺し屋稼業に手を染めることになった警察官・兼高の苦悩、彼が堕ちていく過程が真に迫っていて読み応えありました。

最初はただの正義漢だったのに、任務のためにと私情を殺して暴力に身を浸し、阿内や十朱の思惑に翻弄され裏切りを繰り返すうちに、気づけば信頼していた親分や弟分まで食い尽くし怪物として育っていく。その様が本当に痛ましくてスリリングで、惹き込まれました。
なんなら私情で動くヤクザたちの方が人間的とすら言えるんじゃないかと思えてくるし、そうなれなかったことが悲しくなってくるんよね……。

殺し屋としてバディを組んだ室岡との関係もよかった。
カルト教団で育った生粋の殺人鬼だけど、心から兼高を慕っていて、兼高自身も警官としての内心で相容れないものを感じつつちゃんと相棒と呼んでいるんですよ。そんな二人のバトルは実に情感こもってて、本当によかった。

ナレーションも熱がこもっていてな……室岡の内心の変化をうまい具合に演じ分けていてな……。

📕☆☆☆☆★「ソース焼きそばの謎」塩崎省吾

「謎」とレンジ広めのタイトルですが、主にソース焼きそばの起源と歴史に焦点を当てた本です。生まれる前から当たり前に存在していたメニューについて、とくに考えたことなかったけれど、掘るとこんなに深いとは!

膨大な資料・証言をつぶさに検証し「ソース焼きそばの起源は戦前の浅草」と特定する序盤がすでに面白いんだけど、そこからさらに「なぜ浅草でソース焼きそばが生まれたのか?」を、お好み焼き&ソース文化の定着と中華麺の供給という成立条件からそれぞれ検証し、意外な要因に辿り着く過程は、著者があとがきで言う通りまさにミステリの謎解きのようで、とてもワクワクしました。

政治と社会と文化と食は繋がりあってるんだな~と改めて実感。浅草から全国に伝播していく過程や、その中で各地の食文化と交わり亜種が生まれていく様も丁寧に辿られていて、そこも興味深かったです。
あ~焼きそば食べたい!

🎧☆☆★★★「裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル」宮澤伊織

空魚そらをと鳥子の女子大生コンビが、廃墟の奥やビルのエレベーターなど、街のスキマから繋がる「裏世界」で、くねくねや八尺様といった都市伝説の怪異に遭遇する連作短編集。

狂気や怪奇現象の描き方はゾワゾワくるし、「恐怖」を通じて人間の認識の内に入り込む怪異という設定もおぞましくていい。共闘を経てふたりがぎこちなく関係を築いていく過程も丁寧に描かれていたと思う。

ただ空魚の卑屈でひがみっぽい語りが好きになれず、彼女らの関係にも別に興味をそそられなかったので、続刊はいいかな。

📕☆☆☆☆☆「アンデッドガール・マーダーファルス3」青崎有吾

長らく積んでいた1冊。アニメ化を機にようやく読み始めたのですが一気読みでした。面白かった!

鳥籠使い一行・《夜宴バンケット》・ロイズに加えて人狼とのバトルも盛り沢山。盛り沢山すぎてごちゃつき感は否めませんが、どのバトルでも緊張感ある読み合い、意外性と説得力のある戦闘描写が読み応えありました

「新世代ミステリ探訪」でのインタビューを読むと、青崎さんは観察からの読みあいや、一見攻略不可能と思える相手をどう倒すかというバトルの応酬もミステリとして捉えているようなんですよね。そりゃミステリ作家がホンキで考えた謎解きなんだもの読み応えあるわけだ。そう考えるとこの一冊に込められたアイディアの総量とんでもないな……。

もちろん見どころはバトルだけでなく、戦いの果てに満を持して披露される二つの村の連続殺人の真相もインパクト十分。
真相へ至る手がかりの配置やロジックもぬかりなく、なぜ気づけなかったと悔しくなるほど。舞台と密接に絡んだ犯人のドラマもよかった。

📕☆☆☆★★「アンデッドガール・マーダーファルス4」青崎有吾

鴉夜・津軽・静句それぞれの過去を掘り下げた3編と、トリオ結成~吸血鬼事件以前の活躍を描く2編から成る短編集。ナンバリングはされていますが、0巻という趣です。

どの話もよかったけど、「知られぬ日本の面影」が一番好きですね。
怪物たちに愛着を抱く異邦人・小泉八雲と、怪物と化し、人の世を外れた異邦人になりつつある鳥籠使い一行とを掛け合わせる発想がまず最高だし、ある史実と絡めたホワイダニットもやるせなさと意外性に満ちていて、山田風太郎の明治ものみたいな味わいでした。

欧州での最初の事件、少女記者アニーとの出会いを扱った「人魚裁判」も、人魚の存在を前提とした緻密なロジックと逆転無罪の爽快感が楽しい一編でした。ラストの切れ味もお見事。

8月の気になる新刊

📕書籍

8/9「十戒」夕木春央
8/12「蔭桔梗」泡坂妻夫
8/28「ちぎれた鎖と光の切れ端」荒木あかね
8/31「京都SFアンソロジー:ここに浮かぶ景色」アンソロジー

他にも伊吹亜門「焔と雪」や市川憂人「ヴァンプドッグは叫ばない」、呉勝浩「素敵な圧迫」など、注目の新作が続々刊行されるようですが、買うと決めてるのはとりあえずこの4冊。

2022年の話題作「方舟」は、息が詰まりそうな舞台設定に尻込みしていたんですが、こちらの「十戒」戒律を破ると島が爆発というギャグすれすれの一文に興味を惹かれてサイン本注文しちゃいました。楽しみ!

🎧audible

audibleはいまのところ心惹かれる配信予定がないのですが、audibleは突然配信されたり配信予定が前倒しになったりするのが常なので、ライブラリの積みを崩したり未読を開拓しつつ待ちたいなと思います。

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