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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
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メフィスト 2023 SPRING Vol.7 感想

講談社が運営している会員制読書クラブ「Mephisto Readers Club(MRC)」が季刊で発行している有料会員向け会報「メフィスト」2023年4月号の感想記事です。

法月綸太郎先生の犯人当て目当てで前号(2023年1月号)から購読していたのですが、その時はまだnoteを始めていなかったので、今号から感想をぽつぽつ書いていこうかなと。

直接的にネタを割ってはいませんが、あらすじ等内容に言及はしているので、気になる方はご注意ください。いちおうネタバレタグつけときます。
(見やすいから引用タグ使ってるけど、あらすじはわたしが勝手にまとめたものです)

連載長編

「日本扇の謎」第1回 有栖川有栖

火村&アリスシリーズの最新長編がついに連載スタート! これを目当てに今号から購読を始めた方も多そう。

シリーズ読者にはおなじみの編集者・片桐さんに「日本扇の謎」というタイトルを提案され、見合ったネタをひねり出そうするアリスの試行錯誤はミステリ作家の思考を垣間見るようで面白い。
繰り出されるネタがどれもビミョーなのがまた微笑ましいんだけど、これを前フリに、次のパートで「一本の扇以外何も持たずに発見された記憶喪失の青年」という魅力的な「日本扇の謎」を繰り出してくるものだから、一気に掴まれてしまった。発見者の女性とのひとときの交流がまたセンチメンタルで美しくてね。有栖川作品のこういうところ、好きなんだよなあ……。

この二人は今後どうなるのか、そしてアリスたちとどう関わっていくことになるのか、続きが本当に楽しみです。

「罪と罰のコンパス」第6回 辻村深月(感想なし)

こちらの長編は購読開始時点ですでに連載かなり進んでいたので読んでいません……よって感想は省略。

読み切り短編

「ウエアハウスの殺人 時と天使の館」周木律

――ヤマに行き詰まったら「時計屋」を頼れ。
興味本位で、2010年に発生したウイスキー蒸留所の熟成庫ウエアハウスでの殺人事件を再捜査し始めた中萬なかま刑事。しかし早々に行き詰まり、風の噂に聞いた「時計屋」こと鏡時計店を訪れるが……。

ウイスキーの蘊蓄は面白かったし、長期間の熟成を経たウイスキーを「時間を具現化したもの」と規定して時計屋に繋げてるところはうまいなと思ったけど、事件自体はシンプル。というかこれが相打ちで片付けられてたのは初動捜査がちょっとガバでは……。

一応解決はしているが疑問の残っている事件群「グレイ・ケース」の再捜査という設定は、「アリバイ崩し承ります」が「アリバイ崩し=時間に関する問題の解決」と規定して時計屋の領分としたのと同じように、「時」を扱う時計屋に「時」を経た事件を扱わせようとしたのかな〜と思ったんですが、一応決着のついてる事件を興味本位でほじくり返したあげく、差し迫った事情もないのに部外者に機密を漏洩する流れはあまり印象がよくない。
シリーズ化しそうな雰囲気だけど、これが定型になったらちょっとやだな。

「先生あのね」真下みこと

とある事情で自室に引きこもっていた女子高生・朋香のもとに訪れた、不登校カウンセラーの「先生」。彼に渡された「先生あのねノート」を通じて徐々に心を開いていった朋香はある日、不登校の原因となった事件――大好きだった祖母の起こした事件について先生に語り始める。

これはかなり面白かった!
祖母の腰の怪我を機に、幸福に回っていたはずの朋香の家庭の歪みが顕在化してゆく過程が、露悪的すぎないリアリティで描かれていて引き込まれた。祖母の造形や朋香との関係もいいんだよなあ……。
事件の真相の二転三転、からの急転直下のラストとプロットのひねりも巧みで、イッキに読んでしまいました。

「あさひは失敗しない」、あらすじと装画が印象的で気になっていたんだけど読んでみようかな。

読者参加型謎解き企画〈推理の時間です〉

前号から始まった〈推理の時間です〉
今回は第2弾「ホワイダニット」がテーマの二編が登場です。
「読者への挑戦」でお二人とも「動機を論理的に解かせるって無理あるよ」って旨を書かれていてちょっと笑った。言われてみれば確かにそうで、だからこそのベテラン二人という布陣なのかも。

「幼すぎる目撃者」[問題編]我孫子武丸

父親がを刺殺された現場に居合わせた4歳の長男。生活安全課の橋谷はしたに巡査は、チャイルドカウンセラーの資格を取得していたことから少年の聴取を任される。流れで被疑者の女性からも話を聞いた橋谷は、恐ろしい真相に気づいてしまう。

ホワイダニットっていうかホワットダニットっていうか! 読み終えた時は頭の上にハテナが浮かびまくってしまった。目撃者の少年と被疑者の女性の食い違いがキモだと思うんだけど、わかりそうでわからない! どういう錯誤が生じているのか? はなんとなく見当がついたんだけど、なぜこの錯誤が生じたのか? がサッパリです。ぬぬぬ……。

事情聴取を行う橋谷さんのアテンド役を務める強行犯係の綿貫さんがよかったです。コワモテの外見だけど腰が低くて優しくて、コンプレックスの意外性もかわいい! 橋谷さんとのコンビ好きだなあ。

「ペリーの墓」[問題編] 田中啓文

歴史学者を名乗る猿若健四郎は、横浜港付近の小村を訪れ墓暴きを始める。はたして出てきたのはインクで書かれた手紙と「あるもの」だった。「これこそペルリが殺人を犯した証拠だ!」と快哉をあげた猿若は村長に、先祖の甚平が遭遇したという、黒船にまつわるある事件について語り出す。

あらすじ書きにくいなあこの話!
来航したペリーとの会談の裏にはこんな話があった、という時代ミステリで、与太話じみてるんだけどすごく読みやすかった。

一読してこういう事情でこういう動機なのかなと仮説はできたんだけど、ストレートすぎて本当にこれでいいのか不安。「読者への挑戦」も騙しだったりしない? 墓から出てきた「◯◯」とわたしの想像しているもの、字数が合わないし……。


じつは前号ではマグレ当たりで「名推理」認定をいただけたので、今回も解答締切まで頑張って考えてみたいと思います。

こちらは賞品の直筆色紙と図書カード!
届いた時はびっくりしたなあ……宝物にします

ちなみに次号に来るであろう第3弾「ハウダニット」編の出題は、北山猛邦先生と伊吹亜門先生が担当されると第1弾のオンラインイベントの時に発表があったので、ファンの方は6月までに会員になっておくといいと思うよ(ダイマ)。

ハウダニットで物理の北山来ないかな〜と思っていたらマジで来たの嬉しすぎる。伊吹先生も「刀と傘」の時代に即した物理トリックが山風感あってよかったし期待してます。(あの作品はホワイダニットのが印象に残っているけれど)