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2023年9月の読書記録

9月の読書まとめ

2023年9月の読書メーター
読んだ本の数:24冊
読んだページ数:8608ページ
ナイス数:591ナイス

https://bookmeter.com/users/1257218/summary/monthly/2023/9

まさかの2ヶ月連続20冊越え!
9月は面白い本にも沢山出会えて、質量共に充実した月でした。おかげで加筆部分が多くなって更新が遅くなっちゃったけど、まあいいよね。



各作品の感想・評価

読書メーター投稿時の感想からネタバレ成分をなるべく省き、あらすじや255字で書ききれなかった感想などを加筆しています。

評価基準

☆☆☆☆☆ 文句なし! 年間べスト級
☆☆☆☆★ 面白かった! 大満足
☆☆☆★★ それなりに楽しめた
☆☆★★★ 可もなく不可もなく
☆★★★★ イマイチ合わなかった……

📕☆☆★★★「化石少女」麻耶雄嵩

京都の名門私立高校ペルム学園の古生物部部長にして変人と名高いお嬢様の神舞かんぶまりあが、お供の桑島彰を振り回しつつ、学内で次々発生する殺人事件の珍推理を披露する連作短編集。

今年発表された「化石少女と七つの冒険」が、麻耶雄嵩らしい問題作だと評判だったので、まずは一作目からと手に取りました。

まりあは言動こそメチャクチャだけど、どの推理もきちんと面白く、オッなるほどなあ!と思わせるトリック使われてるのに、毎度彰に雑に否定され、かといって代わりとなる真相も明かされず尻切れトンボで話が終わるから読んでてフラストレーションが溜まるんですよね~一応の軸となってる生徒会との対決も特に惹かれないし。

キャラ造形や価値観も今の目からすると古いしで結構つらい読書だったのですが、終盤まで来てあ~なるほど、著者の別シリーズとは逆の「推理力はあるのに本人の格が低すぎ&ワトソンの妨害で名探偵になれない」パターンなのか! と得心がいきました。よう考えるわ……。

📕☆☆☆☆★「化石少女と七つの冒険」麻耶雄嵩

さて本命の二作目。こちらも終盤の破壊力がとにかく凄まじい作品なのですが、前作を下敷きにした「いかにまりあの推理を真相から逸らすか」という趣向に加え、新入部員・高萩の存在が展開に緊張感を与えており、道中もかなり楽しく読めました。事件と推理は結構ムチャなんですが……。

本作における探偵とワトソンの関係はとても脆弱で、とくにワトソン役の桑島の精神状態がかなり不安定なのですが、そこに将来の不安やアイデンティティのゆらぎ、三角関係に失恋といった普通の高校生にありがちな微笑ましい苦悩をどんどん載せていった末に迎える破局とグロテスクな様相が凄まじい。

やーすごい。やっぱ探偵とワトソンの捻れた関係を書かせたら麻耶雄嵩の右に出る者はいませんわ……。

🎧☆☆☆★★「バチカン奇跡調査官 黒の学院」藤木稟

バチカンの司祭にして天才科学者の平賀・ヨゼフ・こうと暗号解読のエキスパートのロベルト・ニコラスの二人は、大司教から密命を受け、アメリカの片田舎にあるセントロザリオ教会へ奇跡調査に訪れる。処女妊娠や聖痕現象など数々の「奇跡」を調査していくうちに、殉教者に見立てた連続殺人が発生し──というお話。

数々の奇跡を科学的アプローチで解体し、教会内に蠢く数々の悪徳と陰謀を暴いていく調査官コンビや、ケレン味と怪しげな雰囲気たっぷりの文章で描かれる怪異の数々はとても魅力的だし、真相はトンデモすれすれの大風呂敷で嬉しくなっちゃった。

殉教者の見立て殺人という魅力的な題材にかなりワクワクしていたのですが、学院と教会を取り巻く陰謀がでかすぎて、後半は殺人事件が脇に押しのけられてしまったのがミステリ者としてはちょっと拍子抜けでしたね。

🎧☆☆☆☆☆「古生物出現! 空想トラベルガイド」土屋健

「太古の生物が出現するようになった現代日本」で各地の博物館や古生物と出会えるスポットを紹介する観光ガイドブック……という体裁の古生物入門書。超面白かった!

古生物たちを観光資源とし受け入れ穏やかに共存する社会が、ディティールと臨場感たっぷりに描かれ、SF心を大いに刺激されました。紹介される古生物たちの生態もかわいらしくて魅力的。
初っ端が千葉県で、特に住んでる地域が取り上げられたのも嬉しい。地元で化石が出土してたなんて知らなかったなあ……。

後半はこの世界観を構築するに当たって参考にした研究や知見、補足情報などがみっちりで、親しみやすさと知識が共存する良書でした。
あまりにヒットしてしまったので、紙でも買っちゃったよ。かわいい挿絵がたくさん入っていて嬉しい。

📕☆☆☆★★「鏡の国」岡崎琢磨

ミステリー作家・室見響子の遺作「鏡の国」。彼女が若い頃に遭遇した事件をありのまま綴ったというこの作品には、ある隠された意図があった。
姪である主人公と共に作中作を読み進めて推理していくという形式で、作中作と作中とでそれぞれどんでん返しが楽しめるオトクな一冊。

発売前のゲラを読み、レビューを投稿し販促に協力できるサービスNetGalleyに登録し、発売前に読了しました。

真相は読んでいて気づけてしまった部分もあるけれど、それはフェアに手がかりを配置しているからなんだろうな。作中作の事件はかなり意外性があって、ルッキズムを軸とした男女の青春小説としても、丁寧な心理描写とスリリングな展開に惹き込まれました。

📕☆☆☆☆★「本のある空間採集」政木哲也

日本各地の個人書店・私設図書館・ブックカフェ等の実寸を測ってイラスト化し紹介した一冊。

十店十色の個性的な空間がどれも魅力的で、行ってみたい! というかこういうお店作りたい! と空想が膨らんでしまった。まあ、どのお店も、地域の人達に本と触れ合える場を提供したいという想いがあって、それぞれ努力されていることもしっかり紹介されているので、空想だけに終わるのですが……。

しかし、イラストは本当に素敵なのに、ほとんどのページで、お店の中心部分がノドに沈んでしまって見えなくなっているのが惜しいなあ。
同じような建物実測スケッチ集の「東京ホテル図鑑」は大判だから開いて見られたけど、本書はA5サイズなのでちと厳しい。電子版ほしいなあ。

📕☆☆☆☆☆「君が手にするはずだった黄金について」小川哲

こちらもNetGalleyJPにて、発売日前に読了。小説家の「小川」を主人公とした連作短編集で、どの話も知的なユーモアとペーソスが心地よい。特に表題作が好き。

各話ごとに緩やかなつながりがあり、大学院生から山本周五郎賞候補に至るまでの自身を描いた私小説、またはエッセイのように読めるけれど、各話で「現実をもとにに嘘をつく」行為と「小説を書く」行為のつながりが語られ、読者は書かれていることが現実なのか創作なのかわからなくなり翻弄される。

嘘と真実、内容と全体の二重構造がもたらす奥行きが小説家小説としてとても魅力的で、やっぱうめえな~! と思わされました。よかった。紙でも買っちゃいました。

📕☆☆☆☆★「化け者心中」蝉谷めぐ実

6人の役者のうち、鬼に成り変わられているのは誰か。座元に正体を突き止めるよう依頼を受けた、元女形の田村魚之助ととのすけと鳥屋の青年・藤九郎ふじくろうのコンビが捜査に乗り出す。

装画の紗久楽さわ先生が好きなので、前々から気になっていた一冊。
事件の捜査というミステリーの体を取っているけれど、この話の主軸は捜査を介して明かされる芝居小屋の光と闇、芸に身を捧げた者どもの業、妄執。そして芝居素人の藤九郎がそれらに触れるうち、魚之助の心の内を理解していく過程なんだろうな。

とにかくこの魚之助のキャラクターがいい。澤村田之助を人魚に見立てた時点で勝ち確というか、満足に陸を歩けずかといって海にも戻れない、あらゆる境界を揺蕩うものの悲哀と苦しみが、このメタファーを通じて随所で印象的に描かれていて胸に響いたし、それだけに藤九郎の下した結論の誠実さ、暖かさが嬉しかった。

📕☆☆☆☆☆「水面の星座 水底の宝石」千街晶之(再読)

学生時代に読んでたいへん感銘を受けた一冊。
いま再読しても全く古びておらず、むしろこの論は最近のこの作品にも当てはまるな〜と思える部分も多くて、面白さを再確認できた。

先例を踏まえつつそこから更なる意外性を求めて模索するミステリという特異な文芸ジャンルが、これまでに遂げてきた変容の歴史を、「名探偵」「操り」等々の要素からそれぞれ切り込んだミステリ評論で、膨大な実例を挙げて語られる内容は説得力抜群。

とく第三章では、「フェアな記述を追求すればするほど『なぜ語り手はそのような語りを選択したのか?』という心理的な不自然さが生じる」という問題を、過去の名作を挙げて評していてとても面白かった。言われてみりゃた確かにそうなんだよね。

🎧☆☆☆☆☆「煉獄の獅子たち」深町秋生

前作の前日譚となる、東鞘会の苛烈な分裂抗争を、組対四課の警官・我妻邦彦あづまくにひこ和鞘わしょう連合の構成員・織内鉄の両側から描いた三部作の2作目。

W主役はそれぞれ「悪を憎む苛烈な正義感と暴力性」、「身内を次々手にかけ修羅と化していく悲劇性」と前作の兼高を思わせる要素を備えつつ、ピュアすぎる恋愛や親分との危うい絆でそれぞれ読ませるし、前作で扱いのよくなかった喜納や勝一の魅力、阿内の背景などがしっかり描かれてて惹き込まれた。
前作読んでるとキャラの生死わかっちゃうんだよなあとすっかり油断してたからあのラストには驚きました。

木羽さんが小物すぎて、あの阿内がなんでこんな人に心酔しちゃったんだと思ってしまうんだけど、阿内にとっての木羽≒織内にとっての勝一なんですよね。かつて自分を救ってくれた英雄であり、己が手を汚してでも支えたい相手。
そう考えるとストンと腑に落ちるし、阿内と織内が手を組むことになるのも自然に思える。人物配置がうますぎる……。

織内パートが無駄なく美しく前作へ接続していったのに対して、我妻パートにはどこか尻切れ感を感じていたのですが、「天国の修羅たち」を読んで、こっちに繋がるのか! と納得。

📕☆☆☆★★「鵼の碑」京極夏彦

先月の記事で「買っても読み切れるか心配……」なぁんて長々書いたけど、結局発売日に買ってしまったし、旅行の待ち時間&移動時間のお供にしてたら1日で読み終えてしまった。Kindleバンザイ!

関口・益田・木場とお馴染みの面々がそれぞれ事件を追っていき徐々に各パートが繋がっていく過程は大変ワクワクしたのですが、憑物落としが歴代一つまらなくて困った。「鵺」の解釈はとても面白いし、その構造を事件化するとなるほどこうなるのかと理解はできるのですが、読んでいて面白いかというと……。

最後まで読むと、怪異の存在が許されない時代の終わりを如実に感じてしまい寂しい気持ちになってしまった。今作の妖怪の存在感の薄さはその辺も要因なのかな……。

📕☆☆☆★★「アリアドネの声」井上真偽

地下に構築された障がい者支援都市「WANOKUNI」で、巨大地震が発生し、目が見えず・耳も聞こえず・話すこともできない三重障害を抱えた女性、中川博美が取り残された。災害救助用ドローンの操者であるハルオは、彼女を脱出させることができるのか?

どうやってこのトラブルを切り抜けるか? というHowとその解決の連続は独創的でアイディアに溢れているし、それだけでなく「博美の三重障害は本物なのか?」という疑惑を散りばめストーリーを引っ張った末の鮮やかなラストとか、かつて事故で兄を失った主人公が繰り返す「無理と思ったらそこが限界」という言葉の反転と主人公の成長とか、障害者にまつわる先入観や、政治利用・さらされる悪意などの描写など、すべてが無駄なくそつなく完成度高いんだけど、サスペンスフルな設定のわりに不思議とあっさりな読み心地でした

📕☆☆☆☆☆「幻月と探偵」伊吹亜門

満州に事務所を構える私立探偵・月寒三四郎は、有力官僚の岸信介から、変死した秘書の死の真相を調査するよう依頼される。元陸軍中将の小柳津家に縁のあった彼は、小柳津家の晩餐会で毒を盛られた疑いがあった。しかし動機は見つからず調査が行き詰まる中、新たな殺人が発生し……。

めちゃくちゃ面白かった!
メフィスト掲載短編「波戸崎大尉の誉れ」の合理性と凄みを兼ね備えたホワイダニットにガツンとやられて、同シリーズの本書に手を出したので、これこれこれ! こういうの読みたかったの! と小躍りしちゃいました。

近現代史詳しくないけど、多くの民族の軋轢を抱え利権の絡んだ思惑が交差する満州を小柳津家に象徴させてるんですよね。事件の捜査を通じて小柳津家の謎が明かされると同時に、この土地と時代の闇が多方向から描かれる構成いいなあ。岸信介の無邪気な怪物的野心の描き方も好き。

第一の殺人がHowからWhyそしてWhoに転じていくとこや、第二の殺人の足跡のロジックなど謎解き部分も堅実でよかったな。外来語に漢字を当てる文体は正直読みにくいけれど、エキゾチックで怪しげな雰囲気があっていい。

📕☆☆☆★★「星くずの殺人」桃野雑派

ベンチャー企業による少額宇宙旅行のモニターとして集められた面々は、宇宙ホテル『星くず』にたどり着く。しかしその直後、無重力状態での首吊りという不可解な状況の死体が発見される。数々のトラブルにより帰還不能になった彼らは、『星くず』という巨大な密室に閉じ込められたのだった……。

探偵役の女子高生をはじめ、みんなキャラ立ってるし会話も軽妙で読んでて楽しい。無重力空間で首吊りという謎も、それを成立させるトリックも宇宙ホテルならではのもので面白かった。
動機はムチャだなと思ったけれど、それもこの設定ならではのものだし、犯人の背景や人間性は事前に提示されていたから飲み込めるかな。

ただ、状況設定に無理を感じて乗り切れなかった
特殊設定モノのこういう部分に文句言うの野暮とは思うんですが、このホテルのセキュリティ……というか運用体制全般ヤバくない?! 初めて一般客入れるのにスト起こして帰宅もやべーし、設備トラブル対応できるエンジニア常駐させてないとか、旅行社も宇宙船に医療スタッフ同行させてなかったり、気になる部分が多すぎて。
今回の事件起きてなくても、こんな体制じゃ遅かれ早かれ重大事故発生してただろうから、本運用前でよかったねと思ってしまった……。

🎧☆☆☆★★「ハロウィーン・パーティ【新訳版】」アガサ・クリスティー

「殺人を目撃したことがある」と語った少女が、ハロウィーン・パーティの最中に殺された。パーティ参加者のアリアドニ・オリヴァに事件解決を依頼されたポアロは、捜査を進めるうちに、少女が目撃したという過去の殺人へと辿り着く……というお話。

「ベネチアの亡霊」予習のつもりだったんだけど、結局最後までベネチアも亡霊も出てこなくて笑った
予告編見た時は、ポアロの内面の苦悩を語るには降霊会というシチュエーションはピッタリだし、それでこの地味な原作選んだのかな〜なんて思っていたけど降霊会すら原作にはなかったとは。

閑話休題。関係者にひたすら話を聞く捜査パートは、作中でもオリヴァに揶揄されるくらいのんびりしてるけど、当時の価値観や風俗が伺えてなんだかんだ面白い。途中登場する美しい庭園の描写が鮮烈でよかったな。また、犯人の造形や動機もこの時代としてはユニークで印象的だった。

そうそう、事件関係者の一人、ドレイク夫人の語る子ども論が、子どもを人間として見てない感じですごくイヤだなあと思って聴いていたんだけど、それを笑い飛ばすように、作中の子どもたちは活き活きと描かれていて、ずるい子も純真な子も、大人が考えるよりよっぽどいろいろ考えているけど、でもやっぱり危なっかしい。そんなクリスティの子供観が垣間見えてよかったです。
映画ではこの辺を膨らませてドレイク夫人というキャラを再構成していて、ちょっと意外だった。完全に別物だけど、原作を読んでいたほうがこういう部分で楽しめますね。

📕☆☆★★★「午後のチャイムが鳴るまでは」阿津川辰海

九十九ヶ丘高校の昼休みの65分間を舞台に、学生たちのささやかな奮闘と謎を描いた、明るく楽しい青春ミステリ短編集。

全力でアホやるノリ好きだなあ! 1話の「RUN! ラーメン RUN!」は、「いかにしてバレずに学校を抜け出しラーメンを食べに行けるか」に全力を注ぐ倒叙ミステリ、もうアイディア勝ちですよね。「消しゴムポーカー」というなんとも学生らしいギャンブルを扱った3話も、イカサマとその看破のアイディアが豊富で手に汗握ったし、ラストもまさに青春! な爽やかさが心地よかった。

でもあとの話はいまいち乗れなかったかな。
2話は謎がしょぼい上に人物配置がゴチャついてて、主人公の嫉妬やアマリリス先輩の苦悩がぼやけた感。語り手の目撃した姿がちょっと都合よすぎるような……。「9マイル」的な謎を扱った4話は、推理の飛躍に納得できないまま解決に至ってしまって置いてけぼり食った気持ちになった。
5話は消失トリックとそれが解かれる過程も、本筋の2人の物語もすごくよかったんだけど、随所に挿入される仕掛けの種明かしがうるさくて閉口した。

📕☆☆☆★★「中世ヨーロッパの色彩世界」徳井淑子

中世において「色」にはそれぞれはっきりとした意味≒イメージが付与されていたこと、そしてそれらのイメージはいかにして成立し、変化していったかを解説した一冊。

そもそも色彩自体が宗教的に否定されていた時代があったことや、スカーレットやパープルは元は織物の名前で、染織物の希少さと色の価値が比例していたとか、青色は貞淑や誠実を表す色だったのに、青を着て不貞を誤魔化す使われ方をされていって、次第に欺瞞を表すようにもなったとか、書かれてる内容は面白いんだけど、学術文庫らしく文章が硬くてちょっと読むのがツラかった……。

📕☆☆☆☆☆「厳冬之棺」孫沁文

上海郊外の湖畔に建つリウ家の地下室で殺人事件が発生。現場に繋がる階段は雨水で満たされ、完全な密室となっていた。
第二・第三と続く密室殺人に捜査が暗礁に乗り上げる中、名探偵・安縝アン・ジェンが解決に乗り出す。

おぞましい秘密を抱えた名家で起こる連続殺人、警察と協力関係にある変人名探偵、そして「華文ミステリの"密室の王"」の帯文に恥じない独創的で派手な密室トリックの数々! 大好物だらけで大満足ですよもう。

探偵役の安縝先生は、大人気漫画家だけど不可能犯罪のアドバイザーとして警察への協力実績もあり、しかも正体不明のシリアルキラーとも因縁があるという、最近の国内作品だとあまり見ないような盛り盛り設定。古き良き新本格のケレン味と、ウーバーやネット声優などの現代的な要素の交差がなんともくすぐったくて、読んでいて嬉しくなっちゃうんですよね……。

🎧☆☆☆☆★「イクサガミ 地」今村翔吾

京八流の義兄弟たちと合流し、また主催者の正体や意図が明かされた今巻。追加ルールの黒札などよく考えられてるだけに、デスゲームの盤外に飛び出しちゃったのがちょっと残念ですが、表の歴史とこう繋げてくるとは! と別の楽しさがありますね。

謎の武術の継承者にして明治維新の立役者たちと顔見知りって、愁二郎ちょっと設定盛り過ぎでは? と思わなくもないですが、それが決してご都合に感じないんですよね。荒唐無稽な設定やバトルにリアルな重みを乗せて描く筆力はさすが

黒幕の語る弱肉強食≒獣の理論に基づいた「蠱毒」に対し、他者を思いやる人の心を失わない双葉は明確に対比になってると思うんだけど、彼女の存在が今後どのように効いてくるのか。続刊が今から楽しみ!
しかし天地人でちゃんと締まるのかな🤔

📕☆☆☆★★「あなたが誰かを殺した」東野圭吾

閑静な別荘地の四家族を襲った無差別連続殺人。犯人は捕まったものの動機は語られず、残された遺族たちはそれぞれの情報を持ち寄り、検討会を行うことに。オブザーバーとして招かれた休暇中の刑事・加賀恭一郎は、事件の謎と、彼らの抱えた秘密を冷徹な推理で暴いていく。

東野圭吾作品は学生の頃に「容疑者Xの献身」と「名探偵の掟」を読んだっきりでほとんど縁がなかったのですが、いや~面白かったです。

四家族のメンバー全員の内情が絡み合う複雑なプロットを編み上げ、延々続くディスカッションを新事実を小出しにしながら面白く読ませつつ、不可解な事件を理詰めで解き明かしていく手腕はさすが。
最後まで気の抜けない展開が続いて、ラストのタイトル回収も美しく決まる。まさに「最初から最後までずっと『面白い』」の帯に偽りなしの一冊でした。

発端のパーティも検証会も、関係者たちのそれぞれの家庭も嘘と欺瞞に満ち溢れていて、「嘘が通用しない」加賀との対比がいいですね。

🎧☆☆☆☆☆「天国の修羅たち」深町秋生

老ジャーナリストの殺害事件を追っていた警視庁捜査一課の神野真里亜は、同期の鑑識官から、死亡したはずの元警官・出月悟朗の指紋が現場に残されていたと知らされる。
圧力や妨害に見舞われながらも事件や出月の残した「兼高ファイル」について捜査を進めていくうち、神野は警察組織全体を揺るがす陰謀に巻き込まれていく───。

いやもう、最高のシリーズ完結編でした!
東鞘会三羽烏の中で影の薄かった大前田の活躍、発端の国木田や美濃部へのケジメ、車田や本並といった魅力的なサブキャラたちの再登板、そして何より出月/兼高の救済をこれ以上ないくらいきっちりと描いてくれて本当に嬉しい。「地獄の犬たち」のあの救いのない虚無的なラストからこんな展開になるとは思わなかった。感動。

木庭&阿内が、ヤクザ打倒のために手段を選ばず同レベルの悪に堕ちたことから始まった物語が、警察としての矜持を固持し、私情にも「正義の暴力」にも呑まれなかった神野の奮闘によって幕を閉じるわけですよ。美しい……。

📕☆☆☆☆★「江戸POP道中文字栗毛」児玉雨子

帯文だけ見ると近世文学作品をインターネット的な語彙で面白おかしく紹介しただけの本に見えかねないけど、先行論文なども踏まえて作品の成立過程や時代背景をきちんと解説しつつ、現代的な視点で面白さを伝えてくれる良書でした。
J-POP作詞家の作者ならではの俳諧考察はなるほどと唸ったし、「金々先生栄華夢」の当時の流行語は今にも通じるセンスで笑えた。「浮世風呂」の温かな人間模様も魅力的で、いつか読んでみたい! と思えた。

リメイク短編は元ネタからオチを変えちゃっててびっくりしたけど、当の近世文学も古典を翻案する時にガッツリアレンジしてるからいいのかな。

📕☆☆☆★★「古本屋探偵登場」紀田順一郎

古本捜索を請負う「古本屋探偵」須藤が、愛書家たちの妄執が引き起こす事件に巻き込まれていく短編集。
不可解な稀覯本消失事件を扱う「殺意の収集」は思惑が絡み合った真相もアリバイ崩しも面白かったし、「書鬼」の壮絶な真相と幕切れは印象的。「無用の人」は本の中に隠された本というモチーフや、古書店どうしの駆引の描写が面白かった。

本書で描かれる「愛書家」たちの姿にはドン引きしちゃうのですが、須藤が彼らの行動原理を理解しつつも同調せず一歩引いた視点でいてくれるから読みやすかった
しかしこの本をKindleで読むのってなんだか皮肉な感じ……。

📕☆☆☆☆☆「京都SFアンソロジー ここに浮かぶ景色」アンソロジー

寺社仏閣八ツ橋舞妓はん等々……の観光地的なイメージを取り払った、在住者から見た「京都」をテーマにしたSFアンソロジー。
実在の都市がテーマ、それも「わたし達の街」というリアルな質感がキモなので、SF度……というか現実からの乖離度は低めかな? こういうすこし不思議なお話は大好物だし、どの話も面白かった!

野咲タラ「おしゃべりな池」は、失われた「池」のイメージが祖父の昔語りにあわせてモネの睡蓮の上にポップするビジュアルが楽しい。
京大のタテカン文化が本来の意義を失い、伝統的な儀式として行われる近未来を描いた麦原遼「立看の儀」は、近未来のディティールも面白いけれど、現在行われている種々の祭礼ももしかしたら……と考えさせられて面白い。
鈴木無音「聖地とよばれた街で」も、ある伝説的な映画の舞台となった街を舞台に、映画のイメージを持って「聖地」を訪れる観光客と在住者の実感のギャップを優しく丁寧に描いていて、とても沁みました。

お気に入りをあえて選ぶなら、《存在しない『存在しないはずの京都の記憶』の捏造》というややこしい設定とエッセイストふたりのエモい共犯関係を、短い頁数でするりと飲み込ませる 千葉集「京都は存在しない」かな。

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