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追悼 ジャン=リュック・ゴダール

“ゴダール”その名を言葉として認識したのは1984年、中学2年生の時でした。
きっかけは同級生からダビングしてもらった南佳孝のアルバム『冒険王』のA面5曲目『PEACE』の詞のフレーズにあります。

ゴダールの映画って
難しくて嫌い
カフェ・オレを見つめて
不機嫌顔

アルバム『冒険王』は全曲の作詞が松本隆の手によるものであり、特に『PEACE』については自らの実体験を織り交ぜながら構成されています。
1960年代の学生運動華やかかりし時代の光と影、ある種のノスタルジーが込められた秀作として、現在も南佳孝のLIVEでは人気の高いナンバーでもあります。
『冒険王』は今も無性に聴きたくなる時があるのですが、この『PEACE』だけは趣きが異なるような、その歌われている時代を知る筈もないのに、その時代を共有しているかのような背伸び感覚が不思議と沸き起こる世界観に誘われるのです。
彼女が彼氏に誘われて‘ヌーヴェルヴァーグ’って言うんだよ、カッコ良いんだよ…という言葉に吸引されるように劇場で初めて出逢うゴダール映画が難解だったのか、つまらなく感じてしまったのか、或る一場面が想像できます。
中学2年生時分で、さすがにそこまで解析できる訳などありませんが、その後にゴダールを知り、魅力を深堀りし一般的な光景として、松本隆の詞がその部分だけでも時代を切り取れる端的な表現に‘ゴダール’を引用することのハイセンスを感じるのです。南佳孝だから試したテクニックかもしれません。

斬新性、虚を突くストーリーテリング、
撮影技術力、カメラワークのゴダールを、私の世代は特撮番組から影響の片鱗を知る事になります。
その代表作品はやはり『ウルトラセブン』でしょう。テレビドラマシリーズなので、複数の監督が何本かを受け持つスキームにおいて、監督に実相寺昭雄、脚本は佐々木守のコンビによる全4本は異質故に際立ち白眉でした。独創的なカメラワークとこれまた独創的なライティング、照明技術の妙が存分に炸裂しています。その発端は紛れもなくゴダール作品からの影響を無視してできるものではなく、手法を真似しているかのような所謂その後の映画に於ける実相寺作品のオリジナリティの源泉を見ることができます。
つまり子供の頃に観た、そうしたインパクトがゴダールを知る流れに於いて符合していくプロセスでもあります。

私の大学時代は文学部でもあり、周囲は映画や音楽の造詣に詳しい連中が多く、友人宅でゴダールにこれまた影響を受けたであろう寺山修司等の実験的映画監督の作品を何度も寝落ちしながら観ていた事がありました。『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』もその流れで初めて観て、周囲の感覚はある意味、ファッションのような知っていないと格好悪いみたいなトレンドでもあったのです。
少し時間が経過して20代中頃にお世話になった制作会社では事務所にB倍サイズのゴダールの傑作『軽蔑』、ブリジッド・バルドーがどアップでデザインされたポスターが貼られていました。
クリエイティブやハイセンス的アイコンにおけるゴダールという存在はいつしか自分自身の中で普通に存在する風景の様でもあったのです。

そして、映像を作る立場からの視点で、例えばこういうアングル、移動ショットを駆使、または見せ方といった技法はすべからくゴダールがやっていた事の模倣である事に気づき、自覚しながらオマージュとして撮影していく現場、その当事者は世界中に溢れている事をもってしても、映画史における最大の唯一無二の存在を示した影響力、道を開いた中心人物であったのは疑う余地がありません。

ここで数あるゴダール作品から敢えての推奨作品を紹介いたします。

上記3作について、1960年代のクリエイティブの塊、留まる事のない映画製作熱が高く最も油がノッていた時期のゴダール作品は面白いです。
ゴダールほど、私生活と仕事を区別しない表現スタイルは逆に珍しく私生活の好不調が作品の仕上がりに色濃く反映されます。ヌーヴェル・ヴァーグのミューズと云われた伴侶でもあったアンナ・カリーナと良好な時代に作られた作品群は私のゴダール推奨作品でもあります。
未見の方にはこの機会にぜひともゴダールを知っていただきたいと思います。

これまで映画に魅せられ純度を深くすればするほど、あくまでも私自身については、とどのつまりジャン=リュック・ゴダールと小津安二郎に行き着くのです。
表現に行き詰まり何かヒントを探す上で、自由発想と引用技術…その観点こそ自分自身の素養からの蓄積、そして教養が人格を映画に映していくという、アートワークが如何に一体的なものなのかを覚らしてもらえる教示がありました。
ゴダール監督については同時代で1990年以降の活躍をリアルタイムで追えたのは幸せな事だったと実感します。

まさに感謝に堪えない事です。

奇しくも今月24日は私の居住地である下関市で『女は女である』と『軽蔑』の間に作られたこれまたゴダール史上人気の高い作品である『女と男のいる舗道』を下関名画座にて上映させていただきます。
私なりの追悼の想いも加味させていただきながら、合わせてご挨拶もさせていただけたらと思う次第です。

下関名画座のご紹介です。
上映日程 
2022年9月24日(土)
■場 所
シーモールシアター1
■作 品
「女と男のいる舗道」(1962/フランス/84分 4kデジタルリマスター版)
■監 督 
ジャン=リュック・ゴダール       
■出 演 
アンナ・カリーナ サディ・レボ アンドレ・S・ラバルトほか
■音 楽 
ミシェル・ルグラン
■タイムスケジュール
①11:00  ②13:30  ③16:00  ④19:30
■チケット 
前売り1,100円 当日1,300円
シーモール1階インフォメーションカウンターにて販売中
■後援
下関市
■協力
(株)cinepos
■協賛
社会医療法人松濤会 安岡病院
医療法人松永会 老人保健施設アイユウ
公益社団法人下関市シルバー人材センター
元祖瓦そば たかせ
金田博美 金田朋子
■問合せ
山中プロダクション
(090-8247-4407)

当日はゴダール作品から関連グッズも販売いたします。
この日のみしか購入できない貴重なアイテムを各少量限定販売となります。
さらにご購入の方には素敵なプレゼントもご用意しております。

【インフォメーション】
映画『リング・ワンダリング』
ワイカム・山口情報芸術センターにて上映。9月17日から22日まで限定5日間

18日の舞台挨拶予定ですが、台風襲来につき22日にスライドをさせていただきます。
誠に恐れ入ります。
近郊の方にはどうぞご期待ください。

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