これから、“グザヴィエ・ドラン”、を観る。/映画編#8


初対面のひとに、
「好きな映画監督誰?」
とあなたが訊かれた場合、最適解はこれです。

「ん〜 グザヴィエ・ドランかなぁ。(落ち着いた表情で)」



○グザヴィエ・ドランとは何者か。


グザヴィエ・ドラン。強そうな名前の映画監督。俳優もやります。90年代にデビューし、強い作家性と演技で高い注目を集めてきました。現在30代ながら監督作品は10作近く、カンヌ国際映画祭でのグランプリ受賞経験も。
作風はひとことで言うとザ・ヨーロッパ映画。色調や構図へのこだわり、そしてちょっぴりの難解さ。

彼の作品は一貫してセクシャルマイノリティを描きます。時代性ともマッチした作風も相まって、一気に映画界の若き新星としてスターダムを駆け上がりました。今回はそんなグザヴィエ・ドランの作品を3作紹介します。


 ●「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」(2018)


大人気俳優ジョン・F・ドノヴァンが死んだ。生前交わした少年ルパートとの文通を巡って、彼の死の真相が明かされる────。

2018年の新作で、ドラン作品の入門にはピッタリ。色使い、画のカッコよさ、音楽センス、どれをとってもドランらしさが溢れている作品です。少々ベタ過ぎるとの批判がたまにあがりますが、個人的には逆にベタが良いのだ!というテンションで勧めさせてもらいます。
主役はゲームオブスローンズのジョン・スノウでお馴染み、キット・ハリントン。ドラカーリス!とか言いません。



 

 ●「たかが世界の終わり」(2016)

久しぶりに帰省した主人公、彼には家族に打ち明けなければならない秘密があった。再会もつかの間、露見していく家族との軋轢。摩擦は静かに、しかし確実に大きな抵抗を生み始める。

ドランの監督としてのキャリアを一気に押し上げたのがこの「たかが世界の終わり」。「ジョンF~」「わたしは~」が映像で魅せる系の映画であるのに対し、こちらはひたすら役者の演技合戦、いや演技バトルロワイアル系の映画。とにかく出てくる役者全員すごい。視線ひとつで家族の軋轢と不和が暗示されます。カポーティの短編を実写化したらこんな感じになるのかも。





 ●「わたしはロランス」(2012)


30歳の誕生日、ロランスは恋人のフレッドに秘密を打ち明ける
────僕は女になりたい。
悩みながらもフレッドはロランスを支えていくが、周囲からの風当たりは強く互いに消耗していく。2人の運命やいかに。

最後は個人的に推している「わたしはロランス」。映像美、演出、役者、音楽、すべての要素が最高のドラン最高作品(当社比)です。
セクシャルマイノリティを中心に描かれるストーリーですが、核にあるのは普遍的なテーマ───受け入れること・引き受けることの責任。過程は半ば抽象的とはいえ、やはり正面から向き合う、ベタを本気でやるドランの意気込みがにじみ出る傑作です。







初対面で「好きな映画監督誰?」
と訊かれた場合、まずあなたは2つの事実に注意する必要があります。1.相手は映画監督の固有名を訊ねている。2.相手は好きな映画監督がいる前提で質問を始めている。
ここから導き出される答えはただひとつ────相手が面倒くさい映画好きである可能性が高い!

もちろん好きな映画監督がいる場合は、その人の名前を挙げて会話を続けましょう。でも、特に好きな監督はいないなぁ、空気悪くしたくもないし…、かといってなる早でこの会話からエスケープしたい、そう思っている場合、「グザヴィエ・ドランかなぁ」はまさに鶴の一声!ヨーロッパ映画もいちよう観てます的ステータス、名前が醸し出す巨匠感、なにより「かなぁ」の上から目線マウントで、相手はもうふ~んと返すほかありません。

映画好きにもいろいろいますが、常人であればまず「映画みたりします?」「お好きな映画とかありますか?」などと切り出します。ジャブを飛び越えていきなりハイブローをかますメンドクサイエイガズキには、今回紹介したお守り/呪文で退散してもらいましょう。


なにはともあれ、今回紹介した作品はすべてamazon primeでご覧になれます。お守り機能以前に、ドラン作品はめちゃくちゃに面白い&感動するのでぜひ!!!

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