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拘束時間がかなり長い~撮影助手いない問題を紐解く その1

こんにちは!シネマトワ管理人です。

このnote「シネマトワ」では、人材サービスや企業人事に従事してきた管理人目線で、また一人の映画・ドラマファンとして、撮影現場がさらに魅力的な職場になっていくことを期待しつつ、撮影現場や映像エンタメ業界で起こっていることをレポートしています。

「撮影助手がいない」問題は何を課題として解決すればいいのか?課題を見出していくために現時点でわかっていることをここからまとめていきたいと思います。

そもそも「撮影助手とは?」で書いたとおり、撮影現場を支える撮影助手は20代~30代の若手が中心になります。

この次世代を担う若手が活躍し育まれる環境になり得ているのか、という視点で見ていきます。

撮影の仕事は「キツい」を正確に把握する

どういったことがキツいのか。撮影現場の仕事はまったく現場を知らない人からすると、こんなことを想像するのではないでしょうか?

・ロケなのに雨で撮影が押す
・夜のシーンを撮りたいから今日は深夜まで
・いい画が撮れないから監督からOKが出るまで時間がかかる
・現場で方針が変わることが多く、脚本を書きなおして撮影が押す
・撮影機材がそもそも重そうな上に、ずっと立ってないといけない
・山道とか、雨の中とか過酷な環境で働かないといけない・・・

・・・といった、「撮影に関するこだわり」や「機材取扱いの特殊さ」が現場をそうさせているのではないかと。私も当初はそう思っていました。確かにそういったこともハードワークの要因でもありますが、問題はそれよりももっと根深いとわかってきました。

現場課題としてある、撮影助手不足進む「5つの問題」

撮影現場の大変さをレポートされている各団体さんの記事や、個人的なヒアリング調査から、実態としてはおおむねこんなところです。

1.拘束時間がかなり長く過重労働の場合も←今回はここ!
2.報酬が労働時間のわりにあわない
3.コンプライアンス問題、契約があいまいな商習慣と
  ハラスメントが解決されにくい職場の構造的問題
4.次世代を育成する環境が成立しない構造的問題
5.共通課題の「予算」構造

これらについて、何回かにわけてお伝えしていきます。

今回は、「1.拘束時間がかなり長く過重労働の場合も」について。

朝の現地集合が6時、撮影の終わりが23時

朝の現地集合が6時、撮影の終わりが23時、これはあるドラマの例です。この例ですと現地への往復を無視したとしても、17時間拘束です。これが7日間連続とか。制作の規模感にもよりますが、珍しい例ではありません。3日間連続ほぼ徹夜で交代で現場で寝たなんてことも聞いたことがあります。そうなると撮影期間は常に寝不足状態になります。助手クラスの方だと、準備や片付けで監督クラスよりも拘束が長くなることもあるそうです。監督やチーフクラスの方の配慮により、自分の仕事が終わったら自由に帰っていい現場もあるようですが、全体的に拘束時間が長くなってしまう傾向にあります。

経済産業省「映画制作の未来のための検討会 報告書」の「映画制作現場実態調査結果」の「(9)映画制作で携わる上での問題点」から、調査データでも伺い知ることができます(※撮影助手に関わらず、撮影現場に関わる方全般データになりますが、おおむねカバーしているという前提です)。

経済産業省「映画制作の未来のための検討会 報告書 映画制作現場実態調査結果(9)映画制作で携わる上での問題点」より

フリーランスも従業員も最上位が「収入が低い」(従業員61.2%、フリーランス78.0%)ですが、ほぼ同率で「勤務時間が長すぎる」(従業員61.2%、フリーランス75.8%)が2位となっています。他の回答選択肢でも「仕事とプライベートの両立に課題がある」(従業員53.3%、フリーランス61.5%)、「スケジュールの自由がない」(従業員57.9%、フリーランス63.1%)なども鑑みると、拘束時間の課題は撮影現場で多くの方が感じていることがわかります。
企業に所属されている「従業員」の方は、労働基準法などの法令順守に対して国や社会の目が厳しくなってきていたり、会社経営の視点で解決の取り組みがされやすくなってきたりしているのではと推測していますが、労働問題の解決が後回しになってきたフリーランスの方の拘束時間に関する問題は深刻といえるでしょう。

ちなみに、このコロナ禍で、制作が中断・延期になった現場もありますが、流行が弱まってくると保留だった制作が一気に再開し、撮影現場の人材の需要が急激に高まる時期が何度かありました。現場は急な人不足に陥り、自然と拘束時間が長くなります。長いと疲労がピークに達していることで抵抗力が下がり、結果感染しやすくなるのではないでしょうか。濃厚接触者含めて撮影現場の人材不足に加えて、さらに拘束時間も長くなる・・・と、現場がひっぱくする事態になるのは当然かと思います。「疲労が重なってコロナが増えた」というデータがあるわけではないので推測の域を超えません。しかし、コロナ感染だけでなく、疲労が高まると病気になりやすい、というのはごくごく一般的な考えだと思います。
睡眠不足による安全性の維持も難しくなり、重い機材が至る所にある現場で事故が発生したり、疲労が原因の疾病にかかる可能性も高まります。

商習慣や産業構造の課題

ハードワークをどんな規模感の制作においても規制する、となると、それはそれで厳しいでしょう。これから自分の作品を世に出そう!という、自主制作やプロダクション制作より小さい予算規模の制作現場だったりすると、立ち上げ当初のベンチャー企業みたいな雰囲気で睡眠時間削ってでも実現させようという思いで寝食惜しんで乗り切りたいかもしれません。
ですが、この問題はそんな立ち上げレベルの制作の話ではなく、商業的に一定の収益を目的とする制作においても散見される状況であり、映画やドラマの仕事でずっと食べていきたいと考えている人たちにとってはなかなかのペインです。

では、なぜ拘束時間が長くなってしまうのか。

関係者やそれなりにパワーのある地位にある方、具体的には映画やドラマ制作の大手各社(東映、松竹など)、各職種協会(日本映画監督協会、日本撮影監督協会など)、その他有識者からも実態調査や肌感的にも課題を実感しているものの、各位が「わかっちゃいるけど変えられない」、というジレンマに陥っているように見えます(詳しくはぜひこちらの経産省のプロジェクトのレポートをご参照ください)。

産業全体の課題感はあるものの、拘束時間の長さはもはや産業構造を成立させているパーツの一つとなってしまっている状況であり、それがゆえにこの慣習はなかなか解決しにくいのです。
解決の糸口として、どの企業や組織がやりたいことを実現するときに発生する課題の一つとしてあがるのと一緒で、主には「予算の問題」、つまりお金があれば・・・なのですが、単に「予算を増やせばいい」と訴えるだけでは片づけられない構造的問題があります(つづく)。