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『TENET』:紹介編

以前『映画見のプロトコル』で、映画を映画館で観ることの魅力についてこんなふうに書いてましたけれども。

「映画を映画館で観ることの魅力」って何だろうって考えると、僕にとってはその99%が「時代の共有」だと思っています。例えば僕にとって、『スターウォーズ フォースの覚醒』を観るのが2015年の12月8日でなければ99%の楽しみが減ってた。それはイベントだったし、歴史の瞬間でした。僕は映画を通して時代と繋がったような気分になったし、同時に世界中の観客とそれを共有できたような高揚感がありました。これはMAX極端な例としても、どんな映画にも映画館で上映される大なり小なりの「時代的な理由や意味」があるのだと思います。それに立ち合い、見届けることは、大袈裟な言い方をすると、「その時代に自分が生きていた印」になるのだと思うんです。【protocol-5.映画は映画館で観るべきか論

緊急事態宣言後の公開作品で、「映画好きな人たちがSNSやリアル仲間内でワイワイ話題になってる作品」つまり「祭り状態な作品」が、ようやく来たなっていう感慨がまず、ある作品のような気がしますね。

「オレは今日行くけど、どうする?」

「うーん、IMAXのチケット取れなかったから後日回しにするつもりだけど、SNSでネタバレ踏みたくないからなー、どうしようかな・・・」

「とりあえず観れるシネコンで観ておいて、良かったらIMAXでおかわりすりゃいいじゃん!」

「だよねー・・・」

・・・なんて観る前の段階からあーだこーだ、楽しいじゃないですか。

“人それぞれに好きな映画を観てる”感じだったタイムラインが、“ひとつの映画に人それぞれの好き嫌いが語られてる”っていう雰囲気もなんだか、

「あぁ、僕らの週末に映画が戻ってきたな。」なんて感慨にふけるわけです。

さて、そんな『TENET』ですが、

むっずー!!

という声が多いみたいですね。物語のスジの描かれ方がかなりヤヤコシイ。過去、現在、未来が、順番に左から右へ並んでるのではなくて、未来から現在に向かって流れてくる時間軸が、現在から未来へ向かっていく時間軸と並行したり交わっちゃったりなんかする。「え?今画面の中で起こってることは、過去なの?未来なの?ていうかどっち向きの展開なの??」っていう、、もう書いてる自分も何書いてるのかわからなくなってくるヤヤコシイ話。

とりあえずカセットテープを思い浮かべてみてくださいよ。A面とB面がありますよね?カセットデッキにA面をセットしてプレイボタンを押すと、A面に録音された音楽が再生されて、全部聴き終わってカセットテープをひっくり返すと、B面の先頭からB面に録音された音楽が流れます。これをカセットテープ全体の出来事として考えてみると、「カセットテープはA面が普通に再生されているのと同時に、B面が逆再生されてる」ってことになりますよね。でもって、A面聴いてる途中で、B面の逆再生音が混ざって聴こえてきちゃったら、うるさいですよね?

そういう映画です(笑)。ていうかこの時代に「カセットテープ例え」しても?って感じですけども・・・。まぁ、ヤヤコシイのです。

なぜそんなヤヤコシイ映画を作るのか?というと、本作の監督のクリストファー・ノーランという人がそういう性癖なのです。

例えば記憶障害の主人公の記憶を基に、犯人を追いかけていく物語の“起承転結”を、結→転→承→起っていう構成で描いた、逆再生パターンな映画を作ってみたり、

ある時は、人の夢の中に入る装置があって、「夢の中の、その夢の中の夢の、またその中の夢・・・」みたいな、マトリョーシカ構造の映画を作ってみたり、

また前作『ダンケルク』では、ダイナモ作戦という歴史の出来事について、「陸上で起こった1週間」と、「海で起こった1日」と、「空で起こった1時間」を並行して描くっていう映画を作ってみたり。

つまり「ツクリが独特な映画を作りたいフェチ」な監督なんですね。

例えばスタンリー・キューブリックとか、ウェス・アンダーソンとかっていう監督は、「映画の場面を左右対称にしたいフェチ」の人っていうことで有名だったりしますけど、それは「映像というものに対しての性癖」ですよね。これは結構理解しやすいんですが、

このクリストファー・ノーランは、映画の「構成というものに対しての性癖」にクセのある監督のようです。なんていうか、たぶんクリストファー・ノーランは建築物を作るように映画を作る人なんじゃないでしょうかね。美術館とかコンサートホールとか、「ヘンな形の、オブジェみたいな建物」ってあるじゃないですか。そういう建物を設計する建築家みたいな映画監督なんじゃないかなと思います。

今回の『TENET』も、その性癖が爆発しています。ヘンタイ!!

作品の要素のひとつひとつ、それらを理解して消化しながら、パズルゲームのように楽しむのもアリかもしれません。パンフレットや映画秘宝なんかで詳しく解説されているでしょうし、そういうのをあーだこーだ語るのも楽しそうです。

でも、そんなに気合い入れなくても、「変態建築家クリストファー・ノーランが設計した、ヘンな形のオブジェみたいな建物」、その全体像を眺めて、「へぇーー」と感心するのがオススメの観方かなと思います。






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