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【映画】ボンジュール、アン(2016)

ロードムービー しめは『ボンジュール・アン』
フランシス・フォード・コッポラ夫人であるエレノア・コッポラが80歳にして監督/脚本を手掛けた一本です。


ボンジュール・アン(2016)

【ストーリー】
有名な映画プロデュ―サーのマイケル・ロックウッド夫妻はカンヌ国際映画祭に出席。妻のアンはその後のバカンスを楽しみにしていたが、夫は急な仕事でブダペストへ飛ぶことに。耳の具合がよくないアンは飛行機を諦め、車でパリに戻るマイケルの仕事仲間フランス人のジャックに同乗させてもらうことに。しかしジャックの気ままな寄り道により、7時間のはずの"移動"は、2日がかりの小旅行に!

ダイアン・レイン演じる主人公のアンは、有名プロデュ―サーの夫を献身的に支えてきた女性。
となると、監督のエレノアがアンに自身を投影していることは明らかだ。
マイケル役のアレック・ボールドウィンが電話の対応に追われ、耳の不調を訴えるアンの声をまともに聞かなかったり、朝食のほんの少しの無駄に文句を言うさまには、「コッポラ(夫)ってこんななんだ・・」と、三面記事でも読む感覚で観てしまう。

レストランで食事中にジャックに「幸せ?」と問われ、「ええ。・・・ときどき」と口ごもるアン。夫婦の微妙な関係がうかがえ、これは夫人による告発映画?と下世話にも想像してしまったのだが、そうではなかった。

確かにアンは自分が幸せなのかわかりかねている。
それは彼女が夫の仕事を支えることに没頭し、気づけば自分自身のやりたいこと、好きなことはなおざりにしてきたから。
子供が成長し親離れをすれば、母親としての存在意義さえ薄れてしまう。アンは今の自分に価値を見出せずにいた。
同じような思いを抱えている中年女性はきっと多いはずで、エレノアさんはそうした女性に向けてこの映画を作ったんだろう。

劇中、アンはジャックに案内され、こだわりの食材を提供するレストランで食事を楽しむ。アルノー・ヴィアール演じるジャックは、ワインのうんちくは退屈だけど、マイケルが気にもしなかった耳の不調にもすぐに気づいて薬を買ってきたり、両手に抱えきれないほどのバラをアンにサプライズでプレゼントしたりする男。そんな風に誰かに気にかけてもらうことも久しくなかったアンは女心を刺激される。そしてアン自身でさえ意識してなかったカメラの才能にジャックが気づいてくれたことも、アンの中でくすぶっていた情熱を呼び覚ますことになったはずだ。

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ダイアン・レインと言えば『運命の女』も思い出させる。ジャックとの関係の進展が気になるところで・・
その後の展開をどう読むかは観客次第という終わり方をしてはいる。
しかし、これは多分不倫ドラマではなく、人生の岐路にあったアンの覚醒の物語として観るのが正解だろう。(お相手がオリヴィエ・マルティネスでなく、クマさんっぽいアルノー・ヴィアールだし。)
最後にマイケルの寝顔のスナップ写真、特にの写真をやわらかなまなざしでみつめるアンに、夫への愛情を感じたもの。

中年女性の心の機微をさりげなく描きつつ、自分次第で人生は再び輝き始めるのだと教えてくれる本作に、私自身も背中を押された気がする。色鮮やかな料理の数々や、南仏の観光スポットもたくさん出てきて、ロードムービーとしても楽しめるが、何よりこの映画を80歳で撮ったというエレノアさんの映画作りのうまさ、瑞々しい感性に驚く作品だった。

ところで、アンが撮る(エレノアさんがというべきかな)スナップ写真がセンス良くて素敵だったな。私も久しぶりにデジカメを充電した次第。