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【映画】クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅(2018)

今日もロードムービーいきます。

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』(2018)
フランスの人気小説『IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅』を映画化した物語です。監督/共同脚本は『人生、ブラボー!』のケン・スコット。

最初に言っておくと、本作は旅の映画には違いないものの、エッフェル塔が美しいパリを除いては、観光スポットを堪能できるシーンはほぼありません。なので、今企画で「映画で旅気分を味わおう」との思惑は外れてしまいました(笑)
ところが、これが期待以上に面白く、思わぬ拾い物でした!

映画は大人のアジャが刑務所のようなところに収監された4人の子供たちに、何か物語を聞かせようとするところから始まります。
話はアジャの子供時代へと遡り・・
ムンバイでホテルのシーツを洗う仕事をする母親と暮らすアジャは、インチキ大道芸やいかさま手品で小金を得る少年です。
大事なものはお金。運をつかむことこそが生きる道。
貧困地域に暮らす子供たちがそう信じるのは仕方のないことかもしれません。

大人になっても、手先の器用さを利用して、ツーリストからお金をくすねたりするアジャ。価値観は子供のころから変わっていないのですが、母親が病気で死に、実はフランスに母を待つ恋人(アジャの父親)がいたことを知ったアジャは、父を探すためパリに行くのです。

憧れのIKEAでマリーというアメリカ人女性と出会い意気投合。
エッフェル塔の前での再会を約束し、その夜IKEAのクローゼットで眠りにつくアジャですが、彼はある異変に気付き目覚めます。
なんと、クローゼットが夜中に出荷され、ロンドンに着いてしまったのです。
当然マリーとの約束は果たせず、ソマリア人の難民らと共に不法移民として捕まってしまうアジャ。
その運命やいかに という話です。

まずこの映画、ムンバイから始まり、パリ、ロンドンなど5か国でのドタバタまで見せているのに、96分というコンパクトさなのには驚きます。
そんな短いと思えないほどに、盛りだくさんなのですよ。

エンタメ性も抜群です。
シニカルに思えたロンドン警察はゆるゆるコメディ風ミュージカルを披露して笑いを誘うし、朴訥な雰囲気のアジャ役ダヌーシュがいきなりボリウッド風ダンスを踊るのにはギャップ萌え必至。
ローマの有名女優を演じるベネレス・ベジョがキレキレのダンスを見せてくれるのは『アーティスト』のその後を見るようだし、ロンドンで出会うソマリア人難民のウィラージが『キャプテン・フィリップ』のバーカッド・アブディで、しかもリビアで海賊と一戦を交えるなど、「ねらったよね」と思えるキャスティングも絶妙なのです。

旅の途中、アジャは思わぬ大金を手にしますが、そのお金のために命を狙われたりして大騒動。
でも自分だけでせしめようと思っていたそのお金が、多くの人の人生を変えることになることを実感するシーンには心を洗われます。
そして、手にしたお金は尽きたとしても、彼はその感動をそこで終わらせない術を実行する。
そのことが冒頭のシーンへと繋がっていくことに、さらに胸アツ。

ロマンスあり、コメディあり。移民問題にも触れてみつつ、エンタメ性も十分。
あたたかな感動が胸に広がる、色彩豊かで素敵な一本です。