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ラテン映画の魅力を存分に!『ぶあいそうな手紙』ムヴィオラ武井みゆきさん×比嘉世津子さんトーク

 大阪府の新規感染者数が過去最高の121人と報告された今日、GO TOキャンペーンがついにスタートした。でも大阪駅地下飲食でアルバイトする息子曰く7時間で来客が2人・・・。東京の映画館も観客減少の歯止めが効かず、ミニシアター・エイド基金のリターンとなる「未来チケット」(有効期限は多分1年間だったと思う)をみなさんが使う前に体力が尽きてしまうかもと、悲痛なメッセージをツィートしている映画館もあるほどだ。週末の俳優、三浦春馬さん急逝も、ずっと胸の中でくすぶり続ける。今まで観た、三浦さん出演の映画が思い浮かんだり、9月スタートの連ドラも楽しみにしていたし・・・。そんな気持ちが塞ぐニュースが多い中、久しぶりにちょっと痛快な気分になれるオンライントークに出会えたのだ。

 7月21日に、ブラジル映画『ぶあいそうな手紙』公開を記念して開催された1時間におよぶオンライントーク。『ぶあいそうな手紙』を配給しているムヴィオラ代表の武井みゆきさんと、同作の字幕を担当した比嘉世津子さんがズームを使ってトークを繰り広げた。比嘉さんといえば、ホドロフスキーナイトでSave Our Local CinemasのTシャツを来て登壇し、ホドロフスキーの熱弁をわかりやすく訳してくださる姿が印象的だったが、昨日はとにかく明るいラテンのノリ全開!1997年、メキシコ映画祭で出会って以来の付き合いというお二人のトークは、比嘉さん自身が配給を手がけておられることもあり、どんどん広がっていくのだ。

■主人公はどうしてもウルグアイ人でないとダメだった

 この作品は、ブラジル映画だが、舞台となっているのはウルグアイに近いポルト・アレグレという街。ブラジル映画で日本公開される作品といえば、リオデジャネイロかサンパウロが舞台のギャングものや、スラム街ものが多い中、穏やかな市街地で、どこかゆったりとしているのが、ラテン映画ファンから見ると「珍しい作品」にも映るという。私はラテン系言語の細かい違いがわからないが、実はポルトガル語、スペイン語、スペイン語が混じったポルトガル語(ポルトニョールと呼ばれるそう)が混在していたのだ。字幕で違う言語を<>でくくると映像自体に集中できないこと、本作でブラジル人(ポルトガル語圏)のビアがスペイン語も分かっていることから、字幕では変に言葉を分けないように心がけたという。もちろん、言葉の違いがわかるとさらに面白いのだそうだ。

 もう一つそうだったのかと思ったのが、主人公エルネストのウルグアイ人気質。ウルグアイからブラジルに移住して46年というエルネストは、年寄りらしい頑固さはあれど、非常に寛大だ。このおおらかさは、大国ブラジル、アルゼンチンの緩衝地帯としてイギリスが作ったウルグアイという国の成り立ちが影響しているのだとか。本作のアナ・ルイーザ・アゼヴェード監督も、「主人公はどうしてもウルグアイ人でないとダメだったし、それがエルネストのキャラクターにぴったりだった」と語っている。

■「映画はなんでもありなのに、なんでもありをやっていない」から惹かれた『ハッパGoGo 大統領極秘指令』

 そんなウルグアイやウルグアイ映画に注目しているという比嘉さんは、過去にウルグアイ映画を2本配給している。残念ながら2作とも観そびれているので、ぜひ何らかの形で上映、配信してほしいのだが、1本は『映画よ、さようなら』。そしてもう1本は、この8月に富山ほとり座で上映されるという『ハッパGoGo 大統領極秘指令』。世界一貧しい大統領で有名なウルグアイのムヒカ大統領が大麻を合法化したものの、ウルグアイに大麻はなかった!ことから始まる作品。映画祭のマーケット上映で監督から直接配給権を買ったという比嘉さん、「今はラテンアメリカでもヨーロッパ資本でまじめな方向にいくものが多いから『ハッパGoGo』に行ってしまう。6人でゲリラ撮影した作品だが、ちゃんと物語を作っている。 映画はなんでもありなのに、なんでもありをやっていないから、ラテンアメリカの変なやつが好き」と、なんとも楽しそうに語って下さった。

■感性で映画と出会い、買い付けるのは少数派!?

 「予習をしてから、映画を見ちゃだめ!」と訴える比嘉さん。「感じるままでいい。そうでないと自分の感性がふやけていくから」。映画を観る時は、わからないなりに自分が感じることを大事にすることで、感性がすこしずつ磨かれていくのだろう。そもそも1度でわかる映画は、そんなに魅力があるとはいえないだろうし。映画を買い付ける時も「出会ってしまったら、しょうがない」という比嘉さんに対し、武井さんから「そういうのは少数派みたいですよ。割と、こういうフックが・・・とか表にしている配給さんも多いみたいです」と配給現場のリアルな声が。そんな武井さんが、『ぶあいそうな手紙』配給を決めたエピソードにも驚いた。というのも、実はこの作品に出会ったのは昨年の釜山国際映画祭だったのだ。しかも、本当はセウォール号被害者の家族目線で描いたソル・ギョング×チョン・ドヨンW主演の劇映画『君の誕生日』(11月27日公開)を鑑賞予定だったのが、満席でキャンセルも出ず、たまたま隣で上映しているのがブラジル映画と知り、飛び込んでみると、作品の素晴らしさに一目惚れし、配給を決めた。それが『ぶあいそうな手紙』だったのだとか。映画祭あるあるだが、これを見ようと狙いを定めて観たものや、周りの評価が高い作品が、必ずしもいい作品(配給して当たる作品)とは限らない。『君の誕生日』は、今年の大阪アジアン映画祭で日本初上映した作品だっただけに、あの作品が・・・とそのエピソードがリアルに感じられた。ちなみに、コロナ禍で本国ブラジルの公開が延期となり、『ぶあいそうな手紙』劇場公開は日本が最初になったのだとか。

 まだまだ半席での状態が続き、配給側としては万全の状況で作品を送り出せないことに悔しさを覚えているはずだが、「契約は8〜10年単位で結んでいるので、長く上映し続けていきます」と最後は武井さんが力強く結んでくださった。こういう配給の方がいるからこそ、ミニシアターで多様な映画がに触れることができるのだ。盟友のお二人のラテン映画愛溢れるトークに、終わる頃には、心も元気になってきた!観そびれている作品が多かったラテン映画、これを機会に色々触れていきたいと思う。

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