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【映画】「花火降る夏」と香港人とは誰か フルーツ・チャン監督

先日初めて国立映画アーカイブに行き、今年初めての劇場鑑賞をしました。観たのは、香港映画発展史探究「花火降る夏」。監督は「メイド・イン・ホンコン」のフルーツ・チャン。

あらすじは以下のとおり。

NFAJプログラムより

期待以上にやっぱりすごかった。振り返るとすべてのピースがじわじわ効いてくる。さすがフルーツ・チャン!そして帰宅したら早速DVDで復習。いつも途中で寝てしまって最後まで観てなかった。

まず、タイトル。「去年煙花特別多」。去年の花火は特に多かった、と漢字から想像してたら、Google翻訳やDeepLでもそんな感じだった。そう、映画では本当に無意味(いや意図あって)に無駄に花火が多い。短期・中期・長期に早急に手を打たなくてはいけない社会問題だらけ、社会不安だらけなのに、まるでウエルカムな派手な花火イベントは確実に行われる。

これって、今それどころじゃない!と思っている人も、うわーすごいスペクタル!こんなイベントもあって本当はこの社会、悪いことばかりじゃないかも!・・・なんて思うように誘導したいんだろうな、その程度の衆愚として扱われてるんだろうな、と余計落ち込む、まさにあの感覚がよみがえって、正直、辛い気持ちにさせる。

主演はトニー・ホー。香港映画に詳しくないので知らない俳優さんでした。セリフに「この辺に住んでる30前後のハンサム?なら、あいつ」みたいな流れもあって、実際はカッコイイ。

でも当時日本での知名度はサム・リーのが高かったようで、宣伝に主演はサム・リーとか書かれている。ヒドイ。当時のサム・リーの際立つ個性に比べれば当然薄味で地味に見えざるを得ないけど、カタギじゃない生き方はしたくない、「普通の男」という難役を巧みに演じている結果ということが、観ているうちにじわじわとわかってくる。

個人的に、香港返還を直接実感することは少なすぎた。もちろん自分の意識が低く、見識もなかったため。知人が香港の商社マンで、部下たちがさっさと北京語の勉強を始めている、という話をきいて、切り替えスゴイ、たくましい、と感心したこと。返還後、バンクーバーの繁華街ですれ違う人の6割は中国人かと思うほどの多さで驚いたこと。その時はまだ香港に行ったことがなかったので、そんなにカナダに出て行ったのか、やっぱりお金も準備もあるんだな、くらいに思ったこと。

この映画では、香港人の全員が全員、いつも強かでたくましくないし、さっさと切り替えられるもんでもないでしょ、という当たり前のことがじっくり描かれていると思う。特にトラム内での人間模様は、もう同じ船に乗って、一緒にやってくしかないけど、どうもあなたたちは俺以上に伸び伸びと、俺の知らない言葉で言いたい放題じゃないか?そもそも俺の地元で、という我慢と苛立ちがよく伝わってくる。(最近はとうとう「唔該」を知って、映画の中でどの人がどの言葉を使っているかの手がかりにしてます。)

映画の最後に流れる主題歌「去年煙花特別多」。歌詞はかなり素直にこれからどうなるんだろう、という不安がつづられているが(DeepLでは)、「自分はいったい何者なのか」の句は、このドラマ、そして香港という街を重ねると胸にぐっと迫ってくる。

DVDのクレジットにはちゃんとコードネームも書いてあった。映画では追いつけなかったのでありがたい。この都市名(でもサム・リーだけは違う)、キャラクターになんらか象徴させているとしたら。そんなことも考えながらまた観たい。

花火降る夏
1998年製作/128分/香港
原題:去年煙花特別多/The Longest Summer

何華超 トニー・ホー (ガーイン)暗号・北京
李燦森 サム・リー (シュン)暗号・旺角
谷祖琳 ジヨー・クーク (ジェーン)
彭亦威 パン・イックワイ (パン)暗号・上海
黎志豪 ライ・チーホー (ゲーリー)暗号・広州
谷祖琳 ラム・セッキン (ボビー)
梁耀華 リン・イウワー (ジッパー)暗号・香港
陳生 チャン・サン (黒社会の親分ウィン)




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