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ギンレイLOVE-8 路線バスで繋ぐ人生最後の旅「君を想い、バスに乗る」

「君を想い、バスに乗る」(原題「The Last Bus」イギリス映画)
監督 ギリーズ・マッキノン

CAST

トム・ハーパー=ティモシー・スポール
メアリー=フィリス・ローガン

introduction

まず、この映画について語る前に。
東京神楽坂のギンレイホール。48年の長きに渡り多くの人に愛されてきたこの名画座が2022年11月27日(日)をもって閉館することとなりました(涙)。この「君を想い、バスに乗る」と同時上映「Marry Me」が最後の上映作品となります。東京でもミニシアター、名画座などが姿を消していく中で、ここだけは残って欲しいと思っていただけに心が痛いです。
映画もサブスクで手軽に、自分の家で見られる時代になりましたが、映画を愛する人が集まり一緒にスクリーンに向って泣いたり笑ったりできる映画館というスペースは、なおさら貴重に思えます。
この「君を想い、バスに乗る」も、バスの中で出会う人との温もりが大事なテーマのひとつとなっています。じっくりかみしめて鑑賞したいものです。

喜びも悲しみもバス旅の途中で回想される。そして過酷な旅の目的は?

Story

スコットランド最北端で穏やかに暮していた年老いたトム・ハーパー(90歳)は妻の死をきっかけに、ある目的を持ってトランクひとつで旅に出る。それも高齢者無料パスを使い、路線バスを乗り継いでイギリス最南端ランズエンドを目的地とした1400キロの長旅である。行く先々で出会う危険な体験や、親切な人々、そして若かりし頃の回想が錯綜する。その旅は、喜びや悲しみに満ちた人生をたぐり寄せる時間の旅でもあった。

特殊メイクなしでプラス30歳を演じるティモシー・スポール

主役のティモシー・スポール(1957年生まれ)、まだ60代ながらこの90歳の役を引き受けました。「普通のメイクと自分の演技力だけで可能です。外側に頼らず内側の要素こそ大切です」という自信。そしてその言葉通り、この映画では見事に90歳の老人を演じ、映画を見ている観客はあたかもそれが彼の自然な姿だと錯覚するほど。映画の回想シーンで60代の頃の短い場面がありましたが、思わず目を疑いました。どうやって若返らせたの? 実はそれが彼の普段の姿に近いのでしょう。

イギリスは一つにあらず

我々がイギリスと呼んでいる国は、正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」です。この本作ではブリテン島が舞台となっていますが、その中にスコットランド、イングランド、ウェールズの三つの国(カントリー)があり、それぞれ自治権を持ち独特の歴史や文化を守っています。そして本作主人公はスコットランド最北端からイングランド最南端までを旅する。途中出会う人々は、アフリカ系、中近東やウクライナからの移民をはじめ、富める人貧しい人と世界の縮図を思わせます。また、バスの車窓から見る移りゆく風景の変化にも、広いブリテン島の自然の多様性を見ることができます。

SNSの時代ならではの共感。「#BusHero」

バスの中で、粗暴な青年が女性に絡む場面に遭遇し、トムは高齢ながら立ち向かう。それをスマホで動画に取る乗客がいる。行く先々で行動が目立ってしまうトムは「#BusHero」(バスの英雄)としてSNSにアップされ、いつの間にか皆が知る有名人になってしまう。無名だった一般人が一夜にして有名人になりうる現代ならではの現象。多くの人に認めてもらうことが彼の喜びとは言えないが、大勢の人(この人たちはどれだけの事を知っているのだろう)に囲まれ、映画としてはそれらしいラストシーンに繋がる。目的は妻の意志を全うするためだけであったから、誰にも知られず一人しみじみしたラストシーンでも印象深かったのかもしれない。

老人の顔がスクリーンでアップになるということ

映画に出る役者さんたち、自分の顔が大きなスクリーンに、どアップになること、平気なんだろうか。もちろんそれが仕事ですね。恥ずかしくて居たたまれなかったりしないものか? 若くてつるんとした肌の奇麗な顔で自信満々だったら、ともかく、慣れということがあるにしろ、どんな感覚か聞いてみたいものです。と、昔はそんなこと思っていたのですが、人生経験積んでくると映画で見る老優の顔の、若い頃の顔には無かったたるみや皺が人生の深みと存在感を感じさせてくれて、いっそ美しく感じるのです。この映画でもティモシー・スポールのアップのカットが多用され、主人公の微妙な表情を捉えて、厚みのある人間性を伝えてくれました。

余談ですが、老優を楽しむ映画

最近の映画では『PLAN 75』(早川千絵監督)の倍賞千恵子さんが、ここまで表現するか、という見事な鬼気迫る老人の姿を見せました。ちなみに私が独断で選ぶ日本の三大老名優(男性版)は、笠智衆さん、志村喬さん、加藤嘉さんです。いずれも名作の常連でスクリーンに登場すると、リアルな肌触りや温もり、親近感を与えてくれて、若い役者にはできない安定感を映画にもたらすのです。

まだまだ終わらない! LOVEは続く!

この「ギンレイLOVE」番外編として、ギンレイホールの思い出、最終日のレポートなどを書き、数日中にアップしたいと思います。

飯田橋ギンレイホールにて
2022年11月19日〜11月27日の上映

飯田橋ギンレイホール閉館
ビル立て替えのためで、移転再開の交渉継続中です。
詳しくはホームページで
https://www.ginreihall.com/


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