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歌舞伎zakzak-7 俺たちに明日はない! 「三人吉三巴白波

introduction

江戸時代末期の混乱した世相と刹那的な空気の中、ドロップアウトした三人の若者が、疾風のように駆け抜けて行く。その先は?
「三人吉三巴白波」(さんにんきちさ)は、『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)に並ぶ河竹黙阿弥の白波物(盗賊を主人公とした世話物)の代表作です。百両の金と家宝の刀「庚申丸」をめぐって、盗みと殺しが展開する陰惨な話ながら、そこは黙阿弥の手腕で、耳に心地よい名台詞と粋な江戸の風景描写で、観客の耳と目を楽しませてくれる名舞台となっています。

お嬢吉三とお坊吉三のBLロマンスもあります

STORY

夜更けの大川端庚申塚、女装の盗賊お嬢吉三は、通りかかった夜鷹のおとせに道を尋ねる振りをして、百両の金を盗み川に突き落とす。それを見ていたご家人崩れの男お坊吉三が、その金を貸せと言いがかりをつけてきたので、二人は斬りあいとなる。そこへ割って入った和尚吉三が仲裁をして、なんとか丸く治まる。和尚吉三も、元は吉祥院の所化(修行僧のような者)でありながら今は盗賊を生業としている男。同じ「吉三郎」と名乗る三人の盗賊は意気投合して義兄弟の契りを交わす。しかしこの三人には、彼らがまだ知らない深い因縁が絡んでいた。

2023年2月2日〜25日 歌舞伎座
歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎
第一部
「三人吉三巴白波」
お嬢吉三:中村七之助
お坊吉三:片岡愛之助
和尚吉三:尾上松緑
おとせ:中村壱太郎
堂守源次坊:坂東亀蔵

歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎

アウトロー三人のトライアングル

大川端庚申塚で出会った三人。お嬢吉三は、幼い頃親とはぐれて孤児となった身の上。お坊吉三は、武家の育ちながら、家宝の名刀「庚申丸」が盗まれお家は断絶。父は切腹となり浪人となった男。和尚吉三は寺勤めからドロップアウトした坊主くずれ。三人のバックボーンは商家、武家、寺と三人三様ながら、そこから転落した者同士、刹那的な生き方に強い共感を抱く。この個性的な三人を誰が演じるか、バランスのとれた配役がこの舞台の見所でもある。

待ってました!の名科白

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「月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞(かす)む 春の空
冷てえ風も ほろ酔いに
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏(からす)の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿(さお)の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
 (舞台上手より呼び声)「御厄払いましょう、厄落とし!」
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
こいつぁ春から 縁起がいいわえ
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これは、この演目の眼目である名科白。夜鷹のおとせを川に突き落としといて、お嬢吉三は、その場でポーズをとって、この七五調の独白を歌い上げる大胆さ。
その後おとせは久兵衛(実はお嬢吉三の父)に助けられますが、その後またしても悲惨なことに。「ああ無情」

お嬢吉三の変身に注目

八百屋のお七と名乗り、しとやかな娘を演じていた役者が、突然やさぐれた男の声となる、歌舞伎役者独特の演技に、その瞬間空気が変わる醍醐味。これは「白波五人男」の弁天小僧菊之助が正体明かす場面と同じですが、ここでは殺し場の後だけによけいそのギャップが際立ちます。振り袖姿の美しい娘が棒っ杭に片足かけて、あたりを払うような独白ですから。ちなみにお嬢吉三は女方の役者さんが、弁天小僧は立役、または兼ねる役者(両方やる役者)が演じることが多いようです。

絡みに絡んだ人間関係。ああややこし。

和尚吉三の父親は土左衛門伝吉(何?この名前)で、以前お坊吉三の父親安森源次兵衛の屋敷から家宝を盗み、源次兵衛切腹の原因を作った。お嬢吉三の父は八百屋久兵衛で、女として育てていた(なぜ?)お嬢吉三が迷子になっていなくなった後、同じく迷子であった十三郎を実の息子のように育てた。その十三郎は実は伝吉の息子、恋仲になったおとせも伝吉の娘。二人は双子であった!
さて、この舞台をさらっと見ているお客様。はたして、この人間関係、因果関係が理解できたでしょうか。

この図見ると、なんか凄まじいお話のようですね

櫓のお七のエクスタシー

大詰めの場面。雪吹きすさぶ江戸の街、大勢の捕り手に囲まれ絶対絶命の状態で、火の見櫓の太鼓を打とうと段を登るお嬢吉三の、段鹿子と緋縮緬の鮮やかな色に、ちらちらと真っ白な雪が降り掛かる。燃えるような赤の情熱と、冷たく厳しい現実の対峙が絵画的な美しさで展開される。ここは浄瑠璃も入って、歌舞伎ファンの興奮は最好調となる。「この話の人間関係、因果関係、良く分からなかった〜」と、途中もやもやしていた人も、「どうでもいいや〜」と大詰めに理屈なく浸れるはず。100%理解しなくても楽しめる。それもまた歌舞伎。

歌舞伎座
https://www.kabuki-za.co.jp








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