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2024年7月27日(土)特集「パーティー前夜」高島鈴さんトークレポート@Space & Cafe ポレポレ坐

2024年7月27日(土)夜、Space & Cafe ポレポレ坐にて開催した特集「パーティー前夜」。チョン・ヨンテク監督『パーティー51』(2013年/韓国)、エリザ・カパイ監督『これは君の闘争だ』(2019年/ブラジル)の上映後、トークゲストに高島鈴さん(ライター、パブリック・ヒストリアン、アナーカフェミニスト)を迎え、CINEMA DoDukスタッフ・洪先恵と登壇いただきました(司会:CINEMA DoDukスタッフ・相原柊太)。

7月27日土曜にスペースアンドカフェポレポレ坐にて開催した特集上映 パーティー前夜の高島鈴さんによるトークの写真です。
左から、司会の相原柊太(スタッフ)、高島鈴さん、洪先恵(スタッフ)

めちゃくちゃにアジられたけど……

高島さんが公開時に推薦コメントを寄せている『これは君の闘争だ』。初めて観たとき、「めちゃくちゃにアジられてしまった」と高島さん。
若い人びとが自分の身体と魂を動かして運動を起こしていることに感化され、“やってやるしかない!”という希望を感じたそうですが、今回あらためて見返してみて認識が変わったとのこと。「道路を占拠するシーンなど、いざとなれば逃げなくちゃいけない、身体を使わなければならないタイミングがいっぱいある。走れない人、身体が動かせない人はどうしたらいいんだろうと思って…」。
今回の特集では、革命前夜の高揚、また、革命そのものともいえる運動を映したドキュメンタリーを2本立てで上映しました。「あえて水を差すようなことを言うと、今回の特集は『パーティー前夜』というタイトルですが、いま考えなくちゃならないのは、そのパーティーから疎外されている人は誰なのか、ということ。外側にいざるを得ない人たちと、内側に入っていける人たちとが、どうしたら分断されずに一緒に同じ敵と闘っていけるのかを考えなくては、と強く感じました」。

誰かが不在のパーティー

初見だったという『パーティー51』について。「すごく痛快だな、楽しいだろうなと思ってしまうけれど、クィア・コミュニティは出てこないし、もっと言うとマイクを握る女性表象、ジェンダー表現が女性の方も出てこない。フェミニズムの観点では追いついていないと感じるところは多い映画でした。また、マイノリティの運動はコミュニティ重視になっていたり、都市の文化と結びつきすぎている側面があって、そこに入っていけない人はどうなるんだ、と。自分自身、酒飲めない・踊れない・音楽よく知らないという人間で、入っていけねえよ…と正直思ってしまった部分はあります」。
現在では、映画に出てくるライブハウスのほとんどが潰れ、トゥリバンもほかへ移ったため建物は更地となっています。高校生のころ、実際に現場へ足を運んだ経験のあるCINEMA DoDukスタッフ・洪は、当時そこは憧れの場所だったといいます。「輪に入りたかったけれど、音楽にノれなかったり、未成年ということもあって加わることができなかった。大人になってこの映画を観て、なぜ当時はこれがカッコよく見えたのだろうか、なぜ更地となってしまったことに寂しさを感じているのか、と考えるようになりました」。

“陰キャの左翼”、どう生きる?

映画のなかで描かれている運動から取りこぼされた人もいたということ。「2本の映画を通して思ったのは、音楽がカッコいいと思ってしまうことのセントリズムみたいなものがちょっと危ういな、と。それは音楽に限らず、あらゆるアートがそう」と高島さん。
カッコいい運動や美しい運動が取り上げられる度に、何かが周縁化されているのではないか。実際に大学生の頃に参加したデモでラップのビートでコールをする人を見て、運動において“カッコいい”ということはどんな意味を持つのか、と考えたといいます。「カッコいい運動はいろんな人を巻き込めるんだけど、その限界とも向き合わないといけない」。
「陰キャの左翼ってどう生きればいいの!?って…(笑)」。自著『布団の中から蜂起せよ:アナーカ・フェミニズムのための断章』(2022年/人文書院)を通して伝えたかったメッセージを一つに絞るとしたら、“死なないでほしい”ということだった、と高島さん。
「一緒に連帯できるはずの人が死のうとしている状況がつらくて、それを食い止めるために書いたんです。直接その人たちの手を握りに行って、死なないってお互いに約束しましょう!って言うことが私にはできなかったから文章を書いた、という経緯がある。逆にいえば、そこが私の限界なんです。でも、できることがないわけじゃ絶対ないから、群衆としてそれを探っていくのが必要なのかなと思いますね」。

7月27日土曜にスペースアンドカフェポレポレ坐にて開催した特集上映 パーティー前夜の高島鈴さんによるトークの写真です。

バラバラなものをそのまま伝える

大学で歴史学を学んだ経験を通して高島さんが周囲との対話を通じて考えるようになったのは、“何がいつ起きた”ということを時系列に並べて語ることが正しいとされているけれども、それは暴力的なことなのではないかということ。
『これは君の闘争だ』のなかで、出演者の語りによって時系列が入れ替わるシークエンスがいくつかあります。「時系列の方が目に見えてわかりやすいし客観的だと思われている。でも実はそうではなくて、バラバラな時系列を生きている人がたくさんいて、そういう語りの方が身体に染み入るということがある」。
近藤銀河さんの書籍『フェミニスト、ゲームやってる』(2024年/晶文社)で紹介されている“クィア・テンポラリティ”という概念。クィアの人びとは、ヘテロの人びとが持つようなライフステージの変化の定形に必ずしも当てはまらない生き方をしていたり、現在の社会においては自己の在り方に気付くのに時間がかかる場合もあるためマジョリティとは異なる時間軸を持っているということがあります。
高島さんが紹介したのは、「彼は私の中の少女を犯し尽くした(He Fucked The Girl Out of Me)」という無料ゲーム。トランス女性がセックスワークに従事した自身の経験に基づくトラウマを表現した半自伝的な作品です。「銀河さんとの対話を通して、ゲームだと混乱した語りや一直線じゃない人生というものをバラバラの時間軸で提示できるのだと気付きました。文章がすべてではない。語りえぬもの、バラバラになっているものをどうすれば伝えられるのか。ドキュメンタリーにもその可能性を感じます」。
最近、自身の過去について質問に答えるシチュエーションがあったという高島さん。「一生懸命思い出そうとしたけれど、自分の身体がいやだったことって忘れようとしてるみたいで、本当に思い出せなかったんですね。でも、それでいいのかもしれないって思って…赦せなかった記憶がたくさんあるんだけど、あのときのあの感情を“忘れる”っていうのは可能性として前向きなのかもしれない」。
済州島4・3事件で壮絶な体験をした、記憶を失っていくアルツハイマー病の母にカメラを向けたヤンヨンヒ監督のドキュメンタリー『スープとイデオロギー』(2021年)。娘である監督が、悲しいことは忘れるのもいいのかもね、と母に声をかけるシーンにふれ、「重要な記憶を持っている人に、ずっと持っていてください、と言うんじゃなくて、そういう人たちの記憶を一緒に背負う覚悟がいるんじゃないかなって。それは左翼の運動でも同じことで、あなたのつらいことを一緒に背負います、と言えたら連帯の形も変わるのでは」。

左翼とコミュニティのこと

先にもふれた左翼とコミュニティとの関係性の問題点についても。「マイノリティのケアのリソースを担うものが、コミュニティというか個人的な親密圏しか無くなっている」。さらに、コミュニティが飲酒文化やクラブカルチャーと結びついているケースも多く、そこに入ることができない人も…。
「コミュニティと左翼ってものすごく難しい状態にあると思っていて…でも一つ言えるのは、維持するためのコミュニティというのはやっぱりよくないということ。目的に対して離合集散を繰り返すというのが大事で、ここがなくなっても大丈夫なんだって思えるような信頼が社会にほしいんですよ。それを作っていくにはどうすればいいのかというのをみんなで考えたい」。

今までと語り方を変えなければいけない

会場では、今年7月7日の都知事選の結果を受け、高島さんが自分に説教をするつもりで書いたというアジビラ『左翼は嫌われている』を配布しました。
書籍『布団の中から蜂起せよ』では、「良い」アジテーションは存在しない、とも書いていらっしゃいます。あるのは「マシ」なアジテーションと「悪い」アジテーションの2つだけで、世の中には「悪い」アジテーションが溢れすぎている、と高島さん。「“積み立てNISAをしろ!”“老後2000万ないと死ぬぞ!”“今ここでお金を使わなきゃどうする!”みたいな。そのためには働かなくちゃいけなくて、でも今は動けなくて…という人に生きるか死ぬかの選択肢を与えるな、そこは“生”一択だろって。誰かが言わなきゃいけないのに誰も言わない!と思って、アジテーションをしよう、と」。
今までと語り方を変えなければいけない——石丸伸二氏が現職の小池百合子氏に次ぐ得票率となった背景には、YouTubeなどで石丸氏の切り抜き動画がバズり、若年層に浸透したということがある、と高島さん。
「それは“語りかけ方”の勝利で、決して“内容”の勝利ではないけれども、それって左翼の語りかけ方が不十分だったということ。そういう理由でまだマシな候補が落ちたというのは、ズルいと思う反面、対策できることを対策しなかったということでもある。自分の未来を賭ける方法が選挙しかないのは本当に残念なことで、その状況自体を変えるっていうことはやっていかなきゃならない。それと並行して、我々は隣人に対して語りかける言葉をもう少しバリエーションとして持たないといけないと思うんです」。
右も左も関係なく共通言語としてあるものを自分の言語で語り直し、異なる立場や考えの人に耳を傾けてもらうということ。「アートとしてカッコいい運動が誰かを周縁化する一方で、人を巻き込む可能性を持っているということに関して、『パーティー51』は示唆的な作品だと思います。自分は、ベースとして持っているのがもともと政治の言語だったから、そのうえでアートを語ることもあるという人間です。いろんな言語を持っている人たちで共同して語りのバリエーションを増やしていって、隣にいるかもしれない、すれ違うかもしれない誰かに対して、一緒に考えてみない? といろんな言い方で言えないかなというのは、すごく思います」。

7月27日土曜にスペースアンドカフェポレポレ坐にて開催した特集上映 パーティー前夜の高島鈴さんによるトークの写真です。

最後に客席に向け、「みんなでちょっと世間に話しかけてみましょう。ね…!」と高島さん。今回の特集に参加できなかった、参加しなかった人のことをともに考える場になりました。
高島鈴さん、ご参加くださったみなさん、ありがとうございました。

📍高島鈴さんのアジビラ「左翼は嫌われている」▼
ダウンロードは【
こちら
※末尾の高島さんの名前とメールアドレスを明記のうえで二次配布OKとのこと!

╲高島鈴さんが連載中の新時代左翼小説!/
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ゴーストタウン&スパイダーウェブ

*2024/9/12追記*
『パーティー51』配給の山本佳奈子さん(オフショア)が、今回のトークの前提となっていることについて、この記事では足りない部分を補足して書いてくださいました。こちらの記事もあわせてお読みください!▼
『パーティー51』を2024年前後に観た(る)方への少しの補足

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