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『ガザ 素顔の日常』NPOパルシックさんが伝えるガザからの声

2024年1月4日〜16日までシネマチュプキで上映したドキュメンタリー『ガザ 素顔の日常』。連日多くの方にお運び頂き、ありがとうございました。

2月15日からガザの若者たちを描いたドキュメンタリー『ガザ・サーフ・クラブ』の上映もございます。映画だから伝えられること、知ってほしいガザのこと。ぜひこちらもご覧ください。(https://coubic.com/chupki/3214779


<『ガザ 素顔の日常』アフタートークレポート>
昨年10月7日から始まった戦争から100日目の1月14日、
今回のドキュメンタリー上映にあわせ、特定非営利活動法人パルシック(PARCIC)さんに、これまでの支援事業と10月7日以降のガザの現状についてお話し頂きました。


吉田さんにはヨルダンよりzoomでお話いただきました。スクリーン前に、左がパルシック・糸井さん、右はチュプキスタッフ・宮城。

『ガザ 素顔の日常』アフタートーク
〜ガザ、10月7日以降の素顔の日常〜

開催日:2024年1月14日(日)
スピーカー:吉田さん(特定非営利活動法人パルシック パレスチナ駐在員 ガザ事業担当)、糸井さん(東京事務所・パレスチナ担当)

<パルシックについて>
糸井さん)主にアジアで民際協力とフェアトレードを中心に活動しています。
国際協力が国と国の関係を指すことに対し、市民と市民が助け合い、対等な関係を築くことを目指して、市民協力、民際協力と呼んでいます。
パレスチナについては2014年、51日間続いた軍事侵攻後からガザで緊急支援支援、生活再建支援を行なっています。
https://www.parcic.org

吉田さんはこれまでパレスチナ・ヨルダン川西岸からガザ事業を遠隔で行っていましたが、危険な状況になってきたため、ヨルダンからのご登壇となりました。
*レポートの画像・記事の無断使用、転載はご遠慮ください。


10月7日戦争以前に行っていた事業について

外務省の政府資金でハン・ユニス県における羊の畜産支援。
収入源が不十分な羊農家70世帯に対して、羊小屋を建設し、
羊を配布して、適切な方法で飼育するための研修を実施。
その後、参加者自身が羊のミルクを搾乳し、女性組合で工場へ販売したり、自分達でチーズを作って収入を得ることができるよう取り組み、現在その3年事業の2年目。戦争が停戦になり次第、復興にむけて動いていく予定とのことです。


「ガザ、10月7日以降の素顔の日常」

ガザスタッフから届く、10月7日以前と以後の写真を交え、
現状と声を伝えていただきました。

吉田さん)皆仕事で、育児をしながら大学院にも通い、
寝る間も惜しんで動き続ける情熱的なチームです。

チームマネージャーの女性、サハルをはじめ、
仕事熱心なのは当会のスタッフに限ったことではないと思っています。
ガザの人々にとって仕事を一生懸命頑張り、教育にも熱心に励むことは、「いつか何かのチャンスでガザの外に出ることができるかもしれない」というわずかな希望となっていました。

戦争前の写真

これまで理不尽な軍事封鎖と占領で何度も戦争を経験し、
その都度粘り強く復興を目指してきました。

ガザの人々にとって、このガザという土地で生きることは、
パレスチナ人としての尊厳を守り、人口の半分にあたる子どもたちのためにも未来を築いていくのだという強い信念を感じていました。

映画の中であった、
「ガザでは5分後に何が起こるかわかりません」
これを本当に今回突きつけられたように感じます。

◉戦争からついに100日目

吉田さん)今日(1月14日)で戦争(10月7日)からちょうど100日目。
ガザ人口220万人のうち、約190万人が避難中です。
死者数は2万3843人。行方不明者7000人以上と推定されています。
負傷者数6万317人。
感染症患者は18万人以上(14万人に下痢症)
しかし実際はこれ以上の方がかかっていると言われています。
人口の半数110万人以上が飢餓の危機に直面しており、
避難民のこどもたち約90万人が脱水症状、飢餓、消化器疾患、呼吸器疾患、皮膚疾患、貧血など。
これは大人や高齢の方も直面しています。


◉近しい人たちを殺され、家を失い、避難を続けるスタッフたち

吉田さん)ガザは未曾有の人道危機に直面しておりますが、
戦争から6日目の時点でスタッフのマフムードは
「もう地を這うことすらできない」と本当に苦しい胸のうちを伝えてくれました。

彼の住まいはガザ北部に位置しています。
そのため、6日目には実家を破壊され、従兄弟6人も同時に殺されました。
このような状況はマフムードに限ったことではなく、
当会スタッフのほとんどがすでに自宅を破壊されて避難中です。
親族や友人、事業関係者も多く殺されています。

ー絶望的な思い。スタッフのタグリードさんからー
「今すぐ戦争が終わることを心の底から願っています。
この野蛮な戦争を止めるために、世界は何を待っているのでしょうか。
世界は私たちが全員死ぬことを待っているのでしょうか。
まるでゲームのようですね。この地球上の人類、人々のヒューマニティにいったい何が起こっているのでしょうか。」(戦争48日目)

吉田さん)先日1月11日に南アフリカ共和国が、ICJ国際司法裁判所にイスラエルを、ジェノサイド法違反で提訴した裁判が行われました。
その翌日にイスラエル側も反論する形で答弁をしておりますが、
その直後ドイツやカナダ、アメリカがイスラエルを支持すると言っています。

ガザの人々にとって国際社会から見捨てられ、自分達の命は数に過ぎない、イスラエル(ガラント国防相)も当初ガザの人々のことを「人間の顔をした動物だ」というように言っていましたが、まさにガザの人々は自分達の命がいかに軽視されているのかという非常に苦しい思いを抱いています。

◉絶え間ない空爆、スタッフのサヘルさんから送られたメッセージ

吉田さん)スタッフが夜に自宅の窓から撮影した写真です。
ドローンの音は24時間続き、空爆も特に深夜から明け方にかけて酷くなります。
眠る時間も充分になくて、朝から少し仮眠をするという生活をもう3ヶ月続けています。

とても想像しがたいほどの絶望的な状況ですが、
それでもなんとか生き延びようと奮闘している姿も見られます。
これは戦争9日目にサハルが送ってきたメッセージです。

「もし私が死んでも、死ぬ直前までサハルは強く、
 笑っていたと思われたい。」

こういった彼女や彼らの言葉にこちらが励まされている日々です。
また、映画にもありましたようにガザの人々にとって戦争はこれが初めてではありません。これまで何度も戦争を経験してきました。その都度なんとか生き延びてきて、
「今回の戦争も私たちの宿命なんだ、destinyなんだ」と、悲しい胸の内を共有してくれました。

◉戦時下の日常の素顔、衣食住


吉田さん)戦争が始まってすぐ、イスラエル軍がガザのライフラインを全て止めましたので、3ヶ月以上電気のない生活が続いています。
食料も冷蔵庫が使えないので、その日食べるものはその日調達しに行きますが、しかし物がないのでなかなか調達が難しい状況です。

洗濯機も使えないので、かろうじて生活用水を見つけることができた人たちは手洗いで洗濯をしています。

また、調理もガスが使えないため、木材を買って行なっています。
木材がある人たちはいいですが、特に北部の人たちは木材を見つけることができないため、ゴミやプラスチックを燃やしてなんとか火を焚いています。

<食>
当会スタッフのユセフの家に、100人が避難していましたので、その軽食を用意している様子です。
ガザでは小さな家に数十人、100人以上がみんなで集まって支え合っています。

(写真について)
高額な木材を購入してスイカの種を調理している様子です。
水が全くない時、ガザではまだ熟していない果物や、腐った果物や野菜を購入して飢えを凌いでいるひとも多くいます。
現在肉は出回っておらず、今闇市などで購入できるものは缶詰、フローズンの野菜や豆類。
パン屋も燃料不足で充分に稼働していないうえ、店の多くが空爆を受けています。
高額な小麦粉を手に入れることができた人たちは、自分達で土釜を作ってパンを焼いています。
UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)が特にガザの南部で小麦粉を配布していますが、全く量が足りていない状況です。

<居住環境>
220万人のうち190万人が退避中です。
学校では1000人以上が集まり場所が全くないような状況で、衛生環境が悪くてそれでも人々はこのように退避しています。
当会のスタッフ2名もこのような学校に避難していましたが、1人は中部のUNRWAの学校にいます。

南部のラファ県では学校の壁を利用したテントの家を建設中。
テントを立てるための木材やナイロンもとても高額で入手するのが難しくなっています。ラファ県には総人口の半分以上、110万人が押し寄せています。

そのため、テントを建てる場所を見つけることすら難しく、
テントを建てられず、ビニールだけで過ごしている人もおり、
ガザでは雨が多く、今雨季と冬の寒気によって雨が降るとテントが流されてしまうこともあります。
トイレは地面に穴を掘ったり、近所の人家やモスクのトイレを借りています。

周辺も空爆が続いてますし、最近では空爆だけでなく、地上部隊のスナイパーによる射殺も起きています。
それも子供や妊婦も含んだ、容赦ない民間人への射殺が加速しています。

顔を合わせ、束の間の語らい
吉田さん)戦争88日目。
戦争が長引くと、休憩しなければやっていくことができません。
たまたまスタッフが訪問して安否が確認できたので、一緒にコーヒーを飲んでいる写真が届きました。
窓の外にはたくさんテントが建ち並び、すっかり景色が変わってしまいました。
ガザの人々にとってコーヒーやお茶を飲んで、束の間だんらんする時間はとても貴重でしたが、今はこうした時間をとることは非常に難しくなっています。

貴重な小麦で作った自家製ドーナツの写真と共に送られてきたメッセージ。
「これは戦争が作り出したものですね」
正直どのように返したらいいか言葉が見つかりませんでした。
行き場の感情、絶望と深い悲しみ、憤り、これらを抱えながら、なんとか生き延びようとしています。

◉パルシックの緊急支援事業について

吉田さん)政府資金事業については、1月1日から、中部、南部の避難民、ホストファミリーを対象に食料や越冬支援物資等を配布する事業を開始。
900〜数千世帯を対象に配布予定です。

皆様からのご寄付でハン・ユニス県の羊農家70世帯に現金給付を実施することができました。
ラファ県の避難民地域を対象にトイレ6基を建設中、女性組合に現金給付を行う準備を進めています。


◉たった1分後も何が起こるかわからない。しかし立ち止まらず動き続ける。

吉田さん)戦争43日目の写真、現金給付の打ち合わせをしているところです。
スタッフの半数がなんとか集まることができて少し安堵していました。
スタッフの3名が家を破壊されていますし、多くの方が殺されています。
中には北部や南部を何度か行き来したスタッフもいます。

しかしこの打ち合わせを終え、自宅を出た1分後に、目の前が空爆を受けました。
ガザでは5分後どころか、1分後に何が起こるかわからない状況です。

幸いスタッフは無事でしたが、
この時あと1分遅かったら、今頃いなかったと思っています。

シャーディはこどものちぎれた遺体を運んで動画を送ってくれました。
当時高揚していましたが、少し落ち着いてからやはり現金給付がしたいと
嘆願してくれました。

その背景には、戦時中は時間の経過が長いんですね。
少しでも自分達が打ち込めることがあって、自分達よりも困っている人を助けることができたら、今を生きぬく活力にもなりますし、立ち止まっていたら考えることが逆にしんどいので動き続けたいと言っています。

しかしスタッフの中にはすでに包囲されたエリアにいて移動が困難であったり、体調を崩しているスタッフも多くいました。

タグリードは髪も抜け、自宅の中にいても呼吸をすることが難しいといっています。
空爆が3ヶ月続いていますので、粉塵が空気を舞っていて、吸い続けることで鼻や頭が痛くなるなど、自宅にいても呼吸が難しいと言っています。

戦争78日目のサハルからの言葉を紹介します。

「“Life is hard laken jameelah”と歌う曲があります。
私たちはこの言葉にこだわり続けています。
「人生はつらくとも美しい」と。」

彼女はすでに今回の戦争できょうだい2人、親友も殺されて
自宅も破壊され、本人も避難中です。

2014年の戦争でもきょうだいを殺され、長く精神疾患のような症状もありました。
しかしながら、とにかく動き続けることで自分自身が生きていけると。
少しでも前向きにガザという自分達の思い入れがある大切な土地で
なんとしても人生を全うして生きていくんだと、今も現場で奮闘しています。
しかし現場では精神疾患のような症状がある方もたくさんいらっしゃいますし、この戦争以前から、この映画にもありましたように何度も戦争や帰還の大行進などもありましたので、PTSDなど症状がある人はこの(10月7日からの)戦争以前からいます。
それでもガザの人々は今をなんとか生き延びようと奮闘している姿も多く見られます。

◉報道されない現状、日本の皆さんに伝えたいこと

吉田さん)昨晩、つい先日まで60日間ガザで外科医として勤務されて戻ってきたヨルダン人のお医者さんに会うことができました。
唯一アルジャジーラが現場の状況を報道してくれていますが、
それでもまだまだ悲惨な状況が伝わっていないとおっしゃっていました。

メディアが報道できる場所は少しでも安全なエリアしか入れないですし、通信も非常に不安定で、こちらも一昨日からガザスタッフと連絡がとれていない状況です。

このようにメディアがどれだけ奮闘していて、
あるいはガザの人々が自分達で撮影した情報を外に流そうとしても多くの制約があり、特に北部など壊滅的なエリアではまだまだ現場の悲惨な状況を外に伝えることができていなくて、外の人間は現場のことを全くわかっていないとおっしゃっていました。

これは自身の自戒の念も込めてですが、いくら毎日ガザスタッフと連絡をとったり、ニュースを見て国連などのミーティングに参加をしても、まだまだ本人たちが今感じていること、五感で感じている匂いや、目で見ていること、あるいは五感すらも機能しなくなって感じることができなくなっていること、これらも含めて充分に私自身も彼らが見ているものを把握できていないと思っています。
しかしながら少しでも現場で起こっていること、どれだけ悲惨なことが起こっているのかということを日本の皆さんにもお伝えしていきたいと思っていますし、即時停戦が何よりも必要です。

引き続き当会も、アドボカシーなど即時停戦に向けて発信を続けていきます。

(2024年1月14日『ガザ 素顔の日常』アフタートークより、画像はパルシックさん提供。転載、無断使用はご遠慮ください)

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トークレポートお読みいただきありがとうございます。
映画同様、ニュースだけではわからないこと、想像をこえる悲惨な状況を一人でも多くの方に知ってほしいと、時間ギリギリまでお話くださり、
満席となった会場の皆さまも、食い入るように耳を傾けていました。

映画にもあったように、長年に渡り、戦争がそばにあった暮らしをしてきたパレスチナの人々。それはもう4世代続いています。
ただただ、家族とともに普通に暮らしたい、生きたいだけ。

映画では武器を持つイスラエル側に対し、境界から投石をしたり、タイヤに火をつけるガザの若者たちが映し出されていました。彼らは兵隊でもテロリストでもありません。

圧倒的なイスラエルの武力を前にした無謀な行動は、
一向に解決せず、世界から見捨てられたといってもいい状況の中、それでも声をあげずにはいられない、決して諦めなという痛切な姿でした。

イスラエルにも死傷者はいます。
しかし今攻撃を受けているガザの人々=ハマスではありません。
戦争は憎しみの連鎖しか生まず、解決しない。
そのためにも即時停戦が必要です。

少しでも今の状況に関心を持ち続け、
自分にできる方法で、一緒に伝え続けていただけたら嬉しいです。


シネマチュプキでは、
2024年2月15日〜27日まで『ガザ・サーフ・クラブ』の上映があります。
こちらもどうぞご覧ください。
https://coubic.com/chupki/3214779


(シネマ・チュプキ・タバタ 宮城)


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◆<パレスチナ連続講座>第1回 ガザ この大地の上に私たちは〈未来〉を植える
2023年12月20日(水)に開催された、オンライントークの動画が公開されました。スピーカー:岡 真理さん(早稲田大学文学学術院・教授)
開催にあたって:https://www.parcic.org/events/events_palestine202312.html
動画:https://youtu.be/YxkNX9T64ak

◆パレスチナ -ガザスタッフからの声-
https://archive.parcic.org/palestine/index.html

◆【ご寄付のお願い】パレスチナ・ガザ緊急支援
https://archive.parcic.org/news/23297/index.html

◆【緊急アクション】NGOによる外務省への要請文:「G7外相声明」にもとづく具体的な停戦へのアクションを
https://archive.parcic.org/news/23478/index.html

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CINEMA Chupki TABATA
シネマ・チュプキ・タバタ
東京都北区東田端2-8-4(水曜休)
TEL 03-6240-8480
FAX 03-6240-8725
https://chupki.jpn.org
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