『ワンダーウーマン』 レビュー 理想の世界へ

『ワンダーウーマン』を観ました。

監督は『モンスター』(2003)のパティ・ジェンキンス。

撮影は『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011〜、テレビシリーズ)『クロニクル』(2012)のマシュー・ジャンセン。

出演はガル・ガドット、クリス・パイン、ロビン・ライト、ダニー・ヒューストン。


*映画の結末に触れています


◆コスチュームを纏って

ガル・ガドット演じるダイアナがコスチュームを纏って、戦場のノーマンズ・ランド = 無人地帯に現れます。あのショットが『ワンダーウーマン』の白眉です。正面から彼女の姿を捉えたフルショットは素晴らしいものでした。


◆光

映画の終盤におけるダニー・ヒューストン演じるルーデンドルフ総監、および軍神アレスとの最終決戦の舞台において、夜の飛行場を照らす光が画面上を周回しています。それにより、本作の中のセミッシラの明るい世界・ロンドン・ベルギーでの曇天とは異なる空間を描き出していました。映画の進行にしたがって、主要なシーンの天候が晴天→曇天→夜と移っていきますが、人間の「闇」を垣間見たダイアナの辿る軌跡と一致しています。

本作の照明について監督のパティ・ジェンキンスと撮影のマシュー・ジャンセンは、ジョン・S・サージェント(1856〜1925)の絵画を参考にしたと言います。ジェンキンスは彼の絵画を「とにかく美しい」と評していますが、本作では深い黒と明るいハイライトを使いながら、人物の4分の1ほどを照らす光が柔らかな陰影を生み、背景との調和がとれた映像を構築しています。光こそが映画にとって最も重要な要素であることは言うまでもありません。

そして『ワンダーウーマン』の舞台である第一次世界大戦の時期、アメリカではハリウッドが隆盛していますが、「写真」が印象的なかたちで本作に登場します(写真の登場自体はシリーズ前作『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)から連なるものです)。映画は写真から生まれたものであり、両者は光なしには存在せず、そのなかで本作は女性が監督し女性が主役を演じた映画として映画史に残るであろうという事実に、映画が写真という原点に立ち返り、みずからを更新していく、そんな強い意思のようなものを感じました。


◆『ワンダーウーマン』が描くもの

「誰の心にも闇は存在する」し「戦争は終わらない」し「たぶん人間はみな悪い」のであり「その世界を救うのは愛だけだ」というストーリーです。

世界が善で満たされるためには、愛が必要である。

これがワンダーウーマンの独自性です。製作のザック・スナイダーによれば、彼女は「愛」「尊厳」「平等」を他の者に与えようとしているのです(彼女が住んでいたアマゾン族だけの島「セミッシラ」にはそれらがありました)。ハリウッドでここ10年ほどブームが続くヒーロー映画の中では異彩を放っており、はっきりと他と異なっています。

『スーパーマン』(1978)にオマージュを捧げつつ、そこには、目指すべき世界が提示されています。それはフェミニズムの運動そのものではありません。フェミニズムが達成された後の、フェミニズムの要らない世界の在り方が提示されていました。多様な人間の価値観が容認された、誰もが存在して良い、そういった在り方です。


◆構成

終盤20分ほどにダイアナが葛藤し、それを解決するという構成は少々歪です。これはストーリーの流れを見えにくくしています。戦争は終わらないことに直面し、愛を与えることを選ぶという展開です。


◆なぜ先述したショットが素晴らしいのか

いきなり戦場に現れたダイアナの姿は、跳ね返さなければならない現実など(日本公開日にジェームズ・キャメロンが彼女には苦しみが足りない(≒ 男性優位社会への反抗)などと指摘した)、そういったものを超越して、彼女の存在が世界には必要なのであるということを、ストーリーの帰結よりも先んじて映像で見せていました。 だからあのショットは心に深く残るのです。

全体としては、このような映像が言語より先行することの快感をもう少し細かく見せて欲しかった、というのが私の感想です(それでも大好きな映画ですが)。


◆『モンスター』との比較

監督の前作『モンスター』では、シャーリーズ・セロン演じるアイリーン・ウォーノスが理想の自分になるために行動し、裏切られ絶望し、さらなる犯罪に手を染めていく様が描かれていました。その過程にはクリスティーナ・リッチ演じるセルビーとの恋愛があります。アイリーンは、セルビーを通して自分の存在を確かめます。

『ワンダーウーマン』とやっていることは同じです。クリス・パイン演じるスティーブ・トレバーとの交流を描くからこそ、彼女が人間的な面が強調され、単なるアイコンにはなっていません。

絶対的な悪に直面した時、自分は善へと進むのか?それとも悪へと進むのか?・・・2作は同じ問題を描いているとも言えます。

また、2作をセットで観ると、恋愛に性別は関係ないことが分かります。『キャロル』(2015)『アデル、ブルーは熱い色』(2013)は良い映画でしたね。このような現代的な議論を複数内包している点にも本作の素晴らしさが見て取れます。

そして『ワンダーウーマン』は『モンスター』よりもさらに大きな「愛」を描いています。

繰り返しになりますが、映画は「誰の心にも闇は存在する」し「戦争は終わらない」し「たぶん人間はみな悪い」のであり「その世界を救うのは愛だけだ」というストーリーです。ダイアナは、エレナ・アナヤ演じるドクター・ポイズンを生かします。ドクターは毒ガスの開発に従事していましたが、「そんな人間にも希望はある」のです。


【参考】

・劇場パンフレット

・『ワンダーウーマン アンソロジー』

・『ワンダーウーマン ベストバウト』

・『ワンダーウーマン ザ・ライズ』

・Wonder Woman: The Art and Making of the Film (著:Sharon Gosling)

・『ワンダーウーマン』の初週末興収、女性監督作品で史上最高 →
https://www.cnn.co.jp/showbiz/35102238.html

・The Woman Behind ‘Wonder Woman’ → https://nytimes.com/2017/06/01/movies/wonder-woman-gal-gadot-patty-jenkins.html

・'Wonder Woman' Director Patty Jenkins Talks Gal Gadot, Sequel Hopes → https://www.forbes.com/sites/scottmendelson/2017/06/28/interview-wonder-woman-director-patty-jenkins-talks-gal-gadot-sequel-hopes/amp/

・Hollywood director James Cameron attacks ‘Wonder Woman’ and pays the price → https://www.washingtonpost.com/amphtml/news/morning-mix/wp/2017/08/25/a-male-director-calls-wonder-woman-a-step-backward-for-women-big-mistake/

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