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おいしいコーヒーの入れ方 Second season Ⅸ ありふれた祈り 村山由佳

待ち焦がれた最新刊が、最終巻で、四半世紀の恋が、ここに完結した。


私がおいコーに出会ったのは、高校生の時。図書室の司書教諭から、

「ほろほろの砂糖菓子のような」

といって勧められたのがきっかけだった。

寝ても覚めても恋愛ごとに飢えている JK には絶大なパワーワードだった。この推薦言葉は、その後、今日に至るまで、いや、今後もおいコーの表紙を見るたびに、私の「おいコーとは」を表す一言として刻み続けられる。

おいコー基、「おいしいコーヒーの入れ方」はシリーズ全19巻の長編恋愛小説だ。私と同世代の人達には、同じく村山由佳さん初期の名恋愛小説「天使の卵」シリーズと合わせて、新刊を心待ちにしていた人も多いのではないだろうか。

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私とおいコーのおつきあいは15年に満たないけれど、最新刊の帯文によると、シリーズ開始から26年。村山先生、本当にお疲れ様でございました。そして、完結、ほんとうにありがとうございます。おめでとうございます。

盛り上りに欠ける人生を生きてきたので、「私の青春」という言葉ほど、縁のない言葉はないのだけれど、おいコーシリーズは、私の青春と言って間違いないと思う。

司書教諭に勧められて、既刊本を夢中で読んだ高校時代。

大学では、誰一人知り合いのいない土地で一人暮らしを始めた私に、本好きの友達を作るきっかけになってくれた。ナツイチで新刊が出るのは、当時の私たちのビックイベントで、オールナイト読書会をした。バイト上がりに集まって、ただひたすらおいコーを読んで、みんな読み終わったら修学旅行の就寝前よろしくタオルケットに包まってショーリとかれんの恋と今後について話し合った。冷静に考えると、架空の人物の恋愛についてかたるなんて、なんの生産性もない時間だったけれど、最高に楽しかった。

大学時代には、もう一つの思い出がある。初めて男性に、貸してあげた恋愛小説が、おいコーだった。貸した相手は大学の先輩で、彼は付き合っていた女性に振られたばかりだった。彼女の部屋にも、おいコーが並べてあったらしく、一度読んでみたいとこのことだった。実は今も、貸した一巻目は、返ってきていない。もう返せなんて言う気はないけれど、先輩のその後が幸せな者であってほしいとは願う。

面白いエピソードかなと思っていたけれど、書き出してみるとなんて取り留めのない、ありふれた話だろう。でも、青春なんて、そんなものか。

恋に恋していた、私の甘酸っぱい青春が、おいコーと一緒に完結したのかもしれない。


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