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”ブルーカーボン”とはなんだろう?

エディターズノート:「気候適応」や「カーボンクレジット」など、環境に関する専門用語はいたるところで見られます。コンサベーション・インターナショナル(CI)では、そうした一般的に聞きなれない用語について、各専門家にインタビューする形で、「~とは何だろう?」というシリーズで解説します。今回は、気候変動を抑制するために非常に大切な存在である「ブルーカーボン」について、CIの海洋戦略ディレクター、エミリー・ピジョン博士(Emily Pidgeon, Ph.D.)に聞きました。


「ブルーカーボン」とは何でしょうか?

「ブルーカーボン」とは、自然の力で海や沿岸の生態系に固定される炭素という意味からきた呼び方です。マングローブ、海草、潮汐湿地、これら3つの沿岸の生態系サービスが、炭素を海底に留め、固定させています。海の中には、”全”炭素の約半分が“青い”炭素として、固定されています。

ブルーカーボンはなぜ大事なのでしょう?

大気中に放出される炭素は、気候変動の主な原因です。海の生態系は、大量の炭素を固定できます。同じ面積がマングローブ林だった場合と比べて、通常の陸の森林の10倍までの炭素を固定することができます。

なぜそんなに固定できるのですか?

陸上の生態系とは異なり、沿岸域の土壌に蓄積された炭素は長期間にわたって閉じ込められた状態を保つことができます。このような場所では、水面下の土壌の低酸素状態が、数百年から数千年にわたり炭素を固定することができるのです。

マングローブ林を切ることは、気候問題にとって良くないということでしょうか?

はい、まったくその通りです。マングローブのような種の木々は、大気や伸びた根、土壌すべてから炭素を吸収することにとても優れています。これらの木々を枯らしたり、土壌を撹乱したりすると、固定されている炭素はゆっくりと大気に放出されます。多くの場合、その影響をもっとも受けるのは沿岸に住む人びとです。

なぜ沿岸の人々が一番の影響を受けるのといえるのですか?

気候変動によって海面上昇や暴風雨が増加するからです。マングローブ林やその他の沿岸生態系は、波や高潮、洪水を防ぐ、天然の緩衝材として機能しています。もし、海面が上昇し続ければ、高潮はさらに高くなります。もし沿岸の村がマングローブ林を切ってしまったら、海に対してほとんど無防備になります。暴風雨に見舞われる発展途上国を対象とした調査では、マングローブ林は高潮の影響を受ける沿岸地域を最大50%減らすことができると推定されています。

他にも沿岸の生態系のもつ特別な理由はありますか?

沿岸の生態系は、炭素と沿岸地域を守るためだけのものではありません。生物多様性のことを忘れないようにしましょう。ブルーカーボン生態系は、人びとの食料安全保障と収入を支える海洋生物にとって重要な生息地であり、世界中の沿岸諸国にとっては、沿岸部の水質を改善し、維持する役割を果たしています。

これまでにどのくらいのブルーカーボン生態系を失ってしまったのでしょうか?

かなりたくさんです。1940年代以降、世界中で約半分のマングローブが失われ、1800年代以降では、世界の潮汐湿地の4分の1が失われました。そして、1990年以降、世界の海草の半分が失われています。

なぜ失われ続けているのでしょうか?

主な理由はエビや魚の養殖地やその他の沿岸開発です。薪の伐採や汚染、ダムの建設もその一因です。フィリピンのように、マングローブ林の半分以上がエビの養殖池に転用されている国もあります。このような国の沿岸のコミュニティが気付き始めているように、この現状が、毎年台風による多くの被害をもたらしています。

どれくらい大変な状況なのですか?

2013年に発生した台風第30号ハイヤン(Typhoon Haiyan)の例を見てみましょう。

2013年、ハイヤンはフィリピン中部のビサヤ諸島の広い地域に壊滅的な被害をもたらし、沿岸部では波の高さが最大6メートル、深さ数メートルの洪水が発生し、6300人が亡くなりました。原因はいくつもありますが、特にマングローブ林と沿岸の海岸林の生態系の劣化と喪失によって海岸は完全にむき出しになり、この地域は非常に無防備な状態になりました。ビサヤ諸島の沿岸部のマングローブ林の80%以上が、主に魚やエビの養殖地を設置するために伐採されていたためです。

驚きです。もし人々が単純にマングローブか海草を沿岸沿いに植え直したらどうなるのでしょう?

フィリピンを含むいくつかの場所ですでに試されていますが、場合によっては、これらの生態系を生み出した条件を再構築することはとても難しいのです。マングローブの木を植えたからといって、完全に変わってしまった環境で再度マングローブが成長できるとは限りません。生態系を復元することは可能ですが、適切な方法で行う必要があり、沿岸が大きく変化している場合は、費用がかかることもあります。いずれにせよ、生態系の復元は、一朝一夕にはできません。マングローブや湿地帯、海草が復元されたとしても、生態系が破壊された時に大気に放出された炭素を取り戻すには何世紀もかかります。

私たちにできることは何でしょうか?

数年にわたるブルーカーボンの研究のおかげで、これらブルーカーボン生態系が生物多様性を維持していく上でも気候を守っていく上でも、非常に重要だという現実に多くの人びとが気付き始めました。例えば、パリ協定で各国が約束する排出量削減には、ブルーカーボンが織り込まれていることが重要です。同時に、これらの生態系の保全と再生を支援するために、近年では多くのブルーカーボン保全の取り組みが具体化しています。

どのような取り組みですか?

近年、コンサベーション・インターナショナルを含む研究機関、政府、地域社会がパートナーシップを結び、科学、政策、沿岸管理を通じて、マングローブ、海草、塩湿地の保全と再生を推進するための「ブルー・カーボン・イニシアティブ」が発足しました。さらに最近では、国際ブルーカーボン・パートナーシップがオーストラリア政府によって開始され、ブルーカーボン生態系に関する学習と知識の共有を通じて、ブルーカーボン生態系を保護し、温室効果ガス排出量を削減するために各国を支援しています。コンサベーション・インターナショナルは、このパートナーシップの創設メンバーであり、インドネシア、アメリカ、コスタリカ、アラブ首長国連合、フランスなどの国や団体が参加しています。

この5年間で、自然保護活動家、科学者、地域社会間の強力なパートナーシップにより、ブルーカーボン生態系について私たちが知っていること、そして世界中の沿岸の人々が気候変動の影響に直面している中で、ブルーカーボン生態系がいかに重要であるかが急速に進展しました。ブルーカーボン・パートナーシップは、各国をこのネットワークにつなげることに重点を置いており、ブルーカーボン生態系の損失を世界的に逆転させ、気候変動との戦いに大きく貢献する可能性を秘めています。

進展しているということですね。

良いスタートではありますが、ブルーカーボンの生態系に関する昨今の話題を鑑みれば、このような場所をこれ以上失うわけにはいかないと考えています。


投稿 :ブルーノ・ヴァンダー・ヴェルデ (Bruno Vander Velde)、原文はこちら
翻訳協力:CIインターン 東海林優衣
TOP画像:© Conservation International/photo by Sarah Hoyt


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