見出し画像

冬の刹那、春に向けて。

形にしようと思えば思うほど、何かがぽろぽろとこぼれ落ちていく気がして怖かった。私がこんなに苦しんで、悲しんで、涙を流しながら、長い時間をかけてようやく身に纏ったハリボテの宝石達を、誰にも何にも傷つけれられたくなくて、形にしてしまえば、自分すらそれを手放してしまう気がして、形にするのが怖かった。

音としてただ流れていくだけの、絶対に私の心の中にしか残らない程の、他の音に飲まれてしまえば誰にも聞こえないほどの、雑音として存在している、私の大切な宝石達。
簡単に手放すものか、と意気込む私に、私の顔をした何かが囁いているのは、もう聞き流せるところまで来ている。

私の苦しみは私が愛さなければ成仏しないのに、そう出来なかった。
口に出すことさえ許されない気がして、誰に許してもらいたいのかもわからないまま、いつの間にか私が消えかかっていた。

どうやら私は無意識に哲学をしている、あなたは哲学者と同じことをしている、と教えてくれた子がいた。
考えることが癖で、誰かの思考を自分に落とし込むためには自分の辞書から言葉を引く癖がついている私には、哲学者という言葉が結構しっくりきた。

辞書に言葉を増やしながら、脳を限界まで動かしながら、それでもごく普通の顔をして生活することに、少しずつ体を慣らしていかなければならないらしい。私は。

もしまた大丈夫の残機がゼロになったその時は、今より苦しくないように。
ハリボテの宝石達を、辞書を、精一杯私のために使えるように、獣ゆく細道をただひたすら、なんてことないような顔で進んでいく。

令和の哲学者。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?