【2022 映画感想 006】 『声もなく』 悪とか善とか
2020年製作/99分/G/韓国
原題:Voice of Silence
配給:アットエンタテインメント
監督・脚本:ホン・ウィジョン
製作:キム・テワン
出演:ユ・アイン(テイン)、ユ・ジェミョン(チャンボク)、ムン・スンア(チョヒ)、イ・ガウン(ムンジュ)
公式サイト:https://koemonaku.com
私、ユ・アインさんの声が大好きなんです。なので声を聞けないのは残念でしたが、トレーラーを見たら観ない選択肢はありませんでした。
本作はホン・ウィジョン監督の長編デビュー作とのことですが、まずキャスティングが素晴らしい。
ユ・アインさんは体重を15kg増やしてテイン役に臨んだそうで、このキャラクター設定が見事にハマっています。ユ・アインさん自身の判断であるなら、作品理解の能力がすごいし、もちろんそれを体現できる表現力もすごいと思う。(Youtubeに上がっていた情報によると、ユ・アインさんが15kg増量していったところ、監督から細い方がいいと言われ、いったん元に戻したが、監督からやっぱり太い方がよかった、と言われ、もう一度15kg増やした、という経緯があるらしい。凄まじいですね)
多くの作品で様々な役を演じているユ・ジェミヨンさんはここでも安定の演技で、市井の人チャンボクを素朴かつコミカルに表現しています。
死体処理という陰惨な裏家業はこのコンビによって、田中征爾監督の『メランコリック』の殺人請負銭湯のように、ある種の滑稽さを醸し出しています。(こちらは現在Amazonプライム・ビデオで会員は見放題になっています)
死体処理といっても、どこかから運ばれてきた死体を処理するのでなく、まず殺しのセッティングをして、殺しが終わるのを待ち、終わったらそれを運ぶという仕事で、このセッティングが、『ただ悪より救いたまえ』と同じように、“縛って吊るす”なんですよね。実際のその筋の人たちがどのように拷問やら殺しやらを行うのか知りませんが、韓国ドラマや映画ではこの方法が定番のようによく出てきます。(『ただ悪より救いたまえ』の方にはそうする特別な理由があるのですが)
もう一つ二作に共通しているのが、児童誘拐と臓器売買という事象です。
日本を舞台にこれを描くとちょっとファンタジックになりますが、『ただ悪より救いたまえ』のようにタイなら普通にありそうに思えるし、本作のように韓国でもあるのかもしれないと思ってしまいます。すべて私の感覚ですけれども。それくらい韓国は日本と比べて国としてワイルドなところがあり、そこがおもしろいところでもあると思っています。
テインが通勤のため自転車で走る道は、寓話的な田園風景に包まれています。ある種人工的な色合いと広がり。加工をどこまでしているのかはわからないですが、美しいです。ポスタービジュアルにもなっていますね。この美しさは本作で描かれる内容と強いコントラストを成しています。
ちなみにここは『バーニング 劇場版』と同じロケ地らしいですね。『バーニング』を観たときにも思いましたが、広がりが怖い。長閑さよりも怖さを感じてしまいます。映画のせいかな。
仕事を終えて帰るときはまだ明るかったのに、自転車で家に辿り着くころには真っ暗になってしまう。それくらい遠く、周りに何もないようなところにテインは妹のムンジュ(イ・ガウン)と二人きりで暮らしています。ここは地理的にも、また社会的にも“辺境”なのです。
その二人だけで暮らす“辺境”で、誘拐されたチョヒ(ムン・スンア)を預かることになります。1日だけのはずが、依頼主が組織に消されたためにそれでは済まなくなり、三人は次第に疑似家族のようになっていきますが、いよいよチョヒを持て余したテインはある行動に出ます。
テインは善人かもしれませんが、普段は悪に加担しています。悪に加担している人の善行は善にカウントされるのかされないのか。そういう問いであるかのようなラストは少し苦く、そこには、本作をありきたりの感動話にはしないというような、監督の意志を感じました。
余談ですが、邦題の『声もなく』は英題の『Voice of Silence』とちょっと意味合いが違うような気がします。
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