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『妻、小学生になる』 第3話 “小学生のドラマ”が苦手な理由

中年男性の妻が、小学生に生まれ変わる… なんとなく絵面が擬似ペ○フィルっぽくなりそうなのがいやで、見るリストには入れていませんでした。以前に、妻が高校生の娘と入れ替わる(か生まれ変わりか忘れました)ドラマを見かけて、生々しくて嫌になり、途中でギブアップしたことがあるんです。笑

でも見てみなきゃわからないな、と思い、現在Tverで配信中の第3話を見てみました。

オープニングとか音楽が、先ごろTverでまとめて見た『凪のお暇』にそっくりなので、両方のスタッフを確認したら、脚本、プロデューサー、音楽、が同じでした。
『凪のお暇』は自分を偽り周りに合わせて生きていた主人公が、それまでの一切を捨てて(捨てきれないものもありましたが)人生を始め直す物語でした。本作もテーマは同じで、“太陽のような”妻/母/姉を亡くした夫/娘/弟の再生の物語のようです。

最終的にどうなるかはなんとなく想像がついてしまいますが、そこに至るまでの過程でじんわりと染みるようなエピソードを見せてくれるということなのでしょう。

心配していた擬似ペ○臭は一切ありませんでした。
それは第一に、小学生の白石万理華を演じる毎田暖乃さんが、新島貴恵を演じる石田ゆり子さんを見事に内面化しているからだと思います。単に大人の女性の口調で話している、というのではなく、石田さんが演じる貴恵だ、と感じさせる説得力のある演技です。毎田さんの落ち着いた外見ももちろん一役買っていると思います。

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毎田さんの演技を見ていて思ったことがあります。
多くの“子役”たちは、まず「子どもを演じる子役」という役を演じているんだな、と。ややこしいのですが。

一般に子役と言われる俳優は単に俳優なのであって、与えられた役を演じるのであり、別に“子役”を演じる必要はなく、そう呼ぶ必要もないのです。このことを私たち視聴者・鑑賞者は忘れがちで、作り手である監督・演出も、年若い俳優たち自身も忘れてしまっている場合があるのではないかと思いました。

これは一般的な話ではないかもしれないのですが、「小学生読み」(と私は名付けています)という、小学生が「学校などで人前で作文やスピーチを読む独特の読み方」があります。音声をどう表したらいいのか… 想像してもらえるでしょうか。たぶん皆さん聞いたことがあると思います。したことがある人もいると思う。自分が小学生の頃から、なぜみんな人前に立ってあらたまるとあの読み方になるのだろう、と不思議に思っていました。これは学校を問わず、時代を問わず、なぜかいまだに受け継がれています。

ある時、そうか、これはみんな「小学生」というのを演じているんだ、と気づきました。台本もなく演出もされていないけれども誰もがぼんやりと思い描く「小学生」を、人前に立つと皆演じてしまうのだなと。

それと同じように、年若い俳優たちはまず「子役」を演じるのではないか。だから個々の俳優の演技の上手下手の前に、全体的に嘘くささというか白々しさが漂う。私が「小学生がメインの学校ドラマ」が苦手なのは多分そのせいなんだと思います。ほとんどの俳優が、それぞれ名前を持った、梨花なり悠斗なりを演じる前にまず「子役」や「小学生」を演じる。「小学生」というのは現実の小学生ですら演じる役柄なので、これはもう自然にそうなってしまうのだと思う。

本作の毎田さんは白石万理華という小学生だけれども、中身は大人の貴恵なので、「小学生」を演じる必要がない。むしろ演じてはいけない。これはもちろん毎田さんの演技力が素晴らしいのが大前提ですが、役の属性をきちんと定義してそれを俳優が理解すれば、年若くても「子役」を演じることなくダイレクトに役柄を演じることができる。ものすごく当たり前のことを言っていますが、小学生が演じる役柄が小学生だと、このことは見落とされがちなのではないかと思うのです。

この「ダイレクトに役柄を演じることができる」年若い俳優は時々出現し、人はその人を「天才子役」と呼んだりします。(時々間違えますけれども)

たぶん毎田さんは万理華が普通の小学生の役でも、「小学生」を演じる前にダイレクトに万理華を演じることができる俳優なのかもしれません。たとえこれまでそうでなかったとしても、本作の役柄を演じたことによって、今後はそうなるでしょう。

第二に(話は続いています)、夫の新島圭介が、妻に付き従い妻から叱られるのを待つようなキャラクターであり、堤真一さんがそれを情けなくかつチャーミングに演じていることもあると思います。男性性を極力抑え、夫婦を家族という関係性の中に還元し、性的な匂いを一切させない。そのため、妻が小学生の外見でも妙な雰囲気にはならずに済むのでしょう。

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タイトルは『妻、小学生になる』ですが、内容をみると妻というよりはおかあさん、母親よりも意味の広い“家族のおかあさん”が小学生になった話なのだなと思いました。この“家族のおかあさん”はとても日本的で、夫からもおかあさんと呼ばれるような“おかあさん”です。圭介は「貴恵」と呼びますが、役割的には完全に“おかあさん”ですよね。しかも料理はプロだったし、ポジティブで太陽のような人、まさにおかあさんの鑑。眩しくて目がくらみます。失った家族が立ち直れないのも無理もないですね。

ところで余談ですが、毎田暖乃さんってちょっとキム・スアンさんに似てるなあ、なんて思いながら見てました。少し年上ですが、10歳の時に『新感染ファイナル・エクスプレス』(2016)でコン・ユさんの娘役を演じています。(ゾンビ映画なので私は観ていないのですが)最近ではNetflixドラマ『あなたに似た人』に出演していました。

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