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【日本ドラマ】『雪女と蟹を食う』大人の文学少女と一途な絶望男のピュアな道行き

同名の漫画が原作なので、触りだけ読んでからドラマを見ました。漫画の方の主人公の二人、北と彩女のキャラクターイメージは、それぞれを演じた重岡大毅さん、入山法子さんとはちょっと違う印象を受けました。というかキャラクター設定そのものが少し違う印象でした。あと、漫画にはエロというハッシュタグがついているくらいなので、たぶん結構エロティックみたいですが、ドラマはそうでもなかったな。

夏ドラマ視聴リストには入れていなかったのですが、第1話を見ておもしろそうだったので見続け、結局最終話まで見てしまいました。二人がどうなるのか、最後まで見届けたい気持ちになっちゃったんですよね。大方の予想はついていたにしても。

痴漢の汚名を着せられてからうまくいかない人生に絶望している北(重岡大毅)は自殺を試みるが果たせず。たまたまTVで流れていたグルメ番組で蟹を見て「どうせなら食べたことのない蟹を北海道で食べてから死ぬ」と思い立つ。しかし北海道へ行けるほどの金がない北は、図書館で見かけた女(入山法子)の住む高級住宅街の家に押し入る。北はやけくそで強盗に入ったのだが、女はすんなりと従って身体を差し出し、お金も用意するという。しまいには二人で北海道へ蟹を食べに行くことになる。

絶望した北の思いつきによって、偶然始まる二人の旅。北は偽名を名乗り、女は本名の彩女を名乗った。北には(視聴者にも)彩女が何を考えているのかまるでわからないのですが、そのミステリアスな魅力に惹かれて行きます。北の目的は、最終的には死ぬことですが、旅を続けるうちに北は彩女も死にたがっていることを悟ります。
彩女には夫がいますから、旅はさながら浄瑠璃の道行きみたいなことになる。けれども、どうせ死ぬのだから、と美味しい食べ物や温泉を楽しむ二人に悲壮感はありません。

彩女は文学少女で、高校の時に国語の教師だった一騎(勝村政信)と結婚し、今では小説家となった一騎を支えています。良い作品を書いて欲しい一心なのですが、一騎はそんな彩女の期待が重すぎて耐えられず、浮気をしています。それでも彩女は一騎を愛していて、北との旅も一騎の小説のネタになるだろうという目論見があったんですね。旅を日記に記していました。

純文学=私小説、みたいな昔ながらの図式が、この夫婦の頭の中にはあるのかな。一騎は自分の作品を大衆小説と言われていることが辛くて、“本当の” 文学作品を書きたいと思っている。でも書けない。彩女は一騎にはそれができるしそうして欲しいと思っている。そのための題材を自分が提供しようとしています。

この部分が逆に通俗的ですが、要するに彩女の存在自体がファンタジーなのだと思えば(何しろ“雪女”なのだし)、全然アリなのだろうなと。それに作品の主眼はそこにはないし。

じゃあ何が主眼なの、というと、なんなんだろう…

死にたいくらいの絶望の果てに男女が出会って行動をともにすると恋に落ちちゃうよ、ということ?
絶望を理解する誰かが寄り添ってくれたら、立ち上がることができるということ?
期待しすぎたり、尽くしすぎたりすると、男は逃げるよ、ということ?
絶望した人は他者に優しくなれる?

わからないんですけどね、「生きていればいいことあるかもよ」みたいなことかもしれません。好きな人と蟹を食べたりとかね。

何がよかったんだろう、って考えているのですが、よくわからないんですよ。
全体を通して静かだったことや、ロードムービーがそもそも好きだということ、途中まで彩女の真意がわからないという謎に惹きつけられたのかもしれないし、あるいは、北が途中で彩女とはぐれて、キャバ嬢との挿話が入ってくるのもよかったのかも。あとは重岡大毅さんの泣きの演技とか。風景とか。

あるいは、彩女と一騎のボタンの掛け違えみたいな関係について、身に覚えがあったからかもしれない。そこは本筋じゃないのに。笑

いずれにせよ、ロマンチックなお話でした。

最後の決着の仕方が原作漫画と違っていたらしく、そこが残念という意見を目にしました。原作では彩女がもっと主体的だったらしいです。確かに、そのほうがよかっただろうなと思います。なぜ変えたんだろう。
冒頭にも書きましたが、彩女のイメージは漫画と違っていて、ドラマの方が儚すぎという気がしました。問題の箇所はそのイメージで作ったのかもしれないですね。

一つ気になったのは、オープニングテーマが作品にあまり合ってなかったこと。ジャニーズの方が出演されているとテーマもジャニーズが担当されますが、どうしてもそうなるなら、作品の雰囲気にマッチした曲を選んで欲しいなと思います。

エンディングはいい感じでした。
『悪い女』ヒグチアイ


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