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キリエのうた 感想

思い描いた通りに生きられたことなんてないけれど、愛だけは持ち続けていた


映画「キリエのうた」を公開初日に観てきました。
人間らしさが詰まった、魅力的で苦しい映画でした。

私は素敵な映画を観た時、「軽い気持ちで観られたくないから人に勧めたくない」と思う場合と「たくさんの人に観て欲しい」と思う場合があります。
今回は後者だったので、なるべくネタバレは少なめで感想を綴っていこうと思います。
(まったくネタバレなしは無理だと思うので既に観に行くつもりの人は自衛してください。)







人間っぽさ、ではなく人間である


私がこの映画の1番の魅力として感じたのは、登場人物のリアルさでした。
ビジュアルだけ見ると現実離れしているように感じられるかもしれませんが、心情からしっかりと人間味が感じられました。

彼らの言葉と行動には、人間との乖離がない、と感じました。
しかし、それは言葉通りの行動をする、という意味ではありません。
ああ言ったけどこうしてしまう、そういう想いがあるからこそそうするためにこう言う、そんなことが誰しもあるのではないかと思います。
例えば、「絶対行くね」と言ったけど気分が乗らずに行かなかったり、迷惑をかけたくないから会わないために行けるのに「行けない」と言ったり。
言葉と現実にズレを生じさせてしまった経験を、みなさん持っているのではないかと思います。
私はそれが、ひどく人間らしいと思うのです。

この作品の登場人物は、そんな人ばかりでした。
言葉通りに生きられない不器用さ、思い描いた姿でいられない現実、そんな人間のどうしようもなさと葛藤する姿に苦しさを感じました。

もう1度観たいけれど、苦しいから観たくないとも思わせられる、自分自身のどうしようもなさにも触れてくるような登場人物たちでした。





自分ごととして考えやすい


私がこの作品を人に勧めたいと思った1番の理由は、「自分ごととして考えられる」というところでした。

今まで素敵だと思ってきた作品の中には、「わかる人にはわかるけどわからない人にはわからない」というものも多く存在しました。
それは、自分ごととして考えられるかどうかに左右されると思います。
自分に置き換えられたり、自分の近くで想像ができないと「よくわからなかった」という感想で終わってしまうことが多いような気がしています。
共感できる必要は必ずしもないとは思いますが、人間の心情を深く扱った作品は、人物やシチュエーションをある程度高い解像度でイメージできることが重要だと思います。
そうでないと届かない。

その点をこの作品は、「音楽」と「震災」でクリアしていると思います。
生きていれば必ず耳にするであろう「音楽」。
ライブに行ったことがない人でも、好きな曲の1つや2つはあるのではないでしょうか。その曲によって揺さぶられた感情があるのではないでしょうか。
音楽はきっと、多くの人にとって身近で、音楽を軸に話が進んでいくことは、受け手との距離を縮めていると思っています。
そして、日本で暮らしていれば避けては通れない「震災」。
実際に体験をしていなくても、身近に犠牲者がいなくても、想像したことはあるはずです。
いつ起こるかわからないし、起こってしまったら人生が大きく変わることを、私たちは知っています。だからこそ、その痛みを理解することはできなくても、想像してわかろうとすることはできる。2011年を生きていた人なら、きっとそうしてきた。
震災を扱うことは、自分にも関係があるものとして捉えやすく、受け手に想像のしやすさを与えていると思います。

また、「音楽」も「震災」も大切な人のことを考えさせてくれる。
その点も、この作品をたくさんの人に観て欲しいと思った理由です。





愛に溢れている


この作品を通してずっと存在しているもの、それは「愛」でした。

不器用な登場人物たちの選択の中には、いつも愛がありました。
相手を尊重した選択ばかりではないけれど、それでも愛は確かにありました。だからと言って、ひどい選択が許されるわけではありません。
愛しているのに愛を持った選択をできずに苦しみ、後悔し、引きずり続ける。でもその先には許しがあったりもして、それもまた愛です。
何も捨てないで持ち続けることなんてできません。愛を持っているから悩んだり苦しんだりします。愛を貫くために何かを捨てたり、何かを守るために愛を捨てたり、残酷な選択を強いられることもあります。

登場人物たちがそこでどんな選択をしていても、愛があることが見えているから憎めませんでした。むしろ魅力的に見えました。

愛し抜くことの難しさと痛みを、現実感を持って教えられました。






大切な人のことを考えるきっかけに


自分の人生を振り返させられる作品になりました。
大切にできなかったこと、上手くやれなかったこと、貫けなかったこと、たくさんのできなかったことを思い出させられました。
でもそれが絶望に繋がるわけではなく、人間らしい愛おしさも感じられて、苦しいながらも明日からを大事にしていこうと思えました。

この作品を通して、大切な人のことを考える人がたくさんいるといいなと願っています。



登場人物に対して思うことがたくさんあるので、2回目を観てパンフレットにも目を通したら、ネタバレだらけの感想も書こうと思います。
またそちらの方でも会えたら嬉しいです。


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