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最近の堀江晶太提供美少女ゲームソングの話がしたい

バンドPENGUIN RESEARCHのベーシスト、アニメ・アイドル・ゲーム、VTuberなどへの提供作曲家、ボカロP「kemu」名義など様々な顔を持つ音楽家の堀江晶太氏。ジャンルは幅広くもどこか彼らしさが垣間見える作風で、熱心なファンが一定数存在する。その人気は、提供曲も含め堀江氏の楽曲の弾いてみたばかりを出す楽器演奏者がいたり、非公式の情報まとめサイトがあったりするくらいだ。

今よりも多くの美少女ゲームのメーカーが存在した2000年代~2010年代前半、若手ミュージシャンが成人向けノベルゲームの音楽制作の仕事を受けることはよくあった。有名になると自分の音楽活動に専念しそうした依頼はうけなくなる作家も多いが、堀江氏は有名になった今でもいくつかのメーカーのゲームによく楽曲を提供している。そして、その楽曲達はPENGUIN RESEARCHやkemu、他コンテンツの提供曲ではあまり見せない手札を切ってくることが多く、私は密かに新曲を楽しみにしているのである。最近は公式でフルバージョンを配信するメーカーも増えてきたので、ここ数年の良かった曲を紹介していきたい。(ゲーム自体は成人向けのものもありますが、この記事で紹介する動画は成人向け描写がないものを選んでいます)

雪は何色

『雪は何色』はぱれっとによるゲーム『ましろ色シンフォニー SANA EDITION』のOP曲。2009年発売の『ましろ色シンフォニー』は有名タイトルで、2023年にそのリメイク版である『ましろ色シンフォニー -Love is pure white- Remake for FHD』とともに、サブヒロイン・乾紗凪を主役に据えたバージョンとしてリリースされた。

この曲は堀江晶太楽曲の魅力のひとつである絶妙なコードワークを味わうことができる。単体で複雑なコードが出てくるわけではないが、サビの2コード目のⅣmなどちょっと意外さがありつつも自然で美しいつながりが伸びやかな歌声を彩っていて、静かに感情が高まっていくような音の表情がビジュアルの冬景色とラブソングの熱さと非常にマッチしている。また、バンド楽曲のような構成にみえて、ドラムの音作りや一部のフレーズはかなりクラブサウンド由来である。シンセの音色は懐かしさを感じるもののリッチに聴こえるミックスになっており新旧どちらの要素も感じられ、リメイク作品の楽曲として上手く作られている。

2023年の夏コミでCDが販売され、通販も少しあったのだが、私は不幸にも通販終了3日後くらいにそのことを知った。美少女ゲーム楽曲は往々にして配信されず、有名曲のCDは中古市場で何万もの値がついてしまうかそもそも出回らないのですぐ入手困難になってしまう。今回配信されいつでも聴けるようになり、こうして公式のリンクを貼って紹介することができて本当に嬉しい限りだ。(もちろん再販があればいつでも買う用意はできている。)

夢と色でできている

『夢と色でできている』は、fengによるゲーム『夢と色でできている』のOP曲である。fengのゲームには特に多く楽曲を提供しており、『マリンブルーに沿って』や『キスのひとつで』といった名曲が生まれている。

こちらも華やかなコードの展開が魅力だが、先程の『雪は何色』よりも分数コードが多くテクニカルな編曲がみられる。よく聴くと、Aメロではメロディックに動いていたベースがBメロに入った途端4小節ずっと同じ音を弾き続けていていい浮遊感を与えている。しかしながら、決まったフォーマットの中でいかに不思議なコードを入れて個性を出すかというアニソン的なアプローチとは違い、そういった細かい音の重ね方のアイデアが一本のストーリーを作り上げるように自然に組み込まれているのが本当にすごいところだ。

この曲が主題歌となった『夢と色でできている』は2019年にリリースされ、これを最後にfengはなくなってしまう。また、堀江氏のキャリアの中ではボカロP「kemu」としての活動はほぼなくなっており、楽曲提供やバックバンドで参加していたベイビーレイズJAPANも解散する中、自身のバンドPENGUIN RESEARCHでの活動が盛んになっていく時期であった。今こうして他の曲と合わせて聴くと、美少女ゲーム楽曲としても堀江晶太楽曲としても過渡期らしい作品だと思う。

一冊のアロー

『一冊のアロー』は、まどそふとによる『ハミダシクリエイティブ凸』のOP曲である。

この曲は、従来の美少女ゲームらしからぬ、というか二次元カルチャー全般においてもあまり見かけないタイプの楽曲だ。ABメロとサビを2回繰り返すだけのシンプルな構成、2分半という短い尺、アコギと重なったギターのカラっとした綺羅びやかなトランスペアレント系の歪み、どれも現代の音楽のトレンドではあるがこれがアンダーグラウンドなゲームメーカーから出ているのはかなり意外である。しかし、それ故に美少女ゲーム楽曲の中では圧倒的に気持ちのいい音をしている。

今回取り上げた曲の中で、私が最も聴いているのはこの曲だ。いい音が鳴っているだけで嬉しいし、創作活動をするヒロインたちのストーリーを反映した歌詞は一応音楽や映像を作っている身としてよく刺さる。だが、同時にこの音を出せるようになりたいという憧れと、演奏技術や音作りに誤魔化しの聴かないタイプの楽曲でこのクオリティを出してくることへの畏れが混じった複雑な感情が湧いてくるので、聴く度になんだか悔しい気持ちにもなっている。

Unreal Creation!

『Unreal Creaton!』は、まどそふとによる『ハミダシクリエイティブ』のOP曲である。

アニソン的な元気でポップなロックサウンドは物語を勢いよく進めてくれそうな力強さがある。しかし、ドラム単体から始まるアレンジはさながらライブバンドのようでゲーム楽曲にしては随分と大胆だ。実際、PENGUIN RESEARCHの『愛すべき悩みたちへ』もこのようなイントロになっている。

と思ったら、どうやらまどそふとはライブを開催していたらしい。この2020年のライブはまさに『ハミダシクリエイティブ』発売直後に開催されているので、これを見据えたオーダーだったのだろうか。確かにまどそふとは毎回楽曲に力を入れていて、毎回クレジットが驚くほど豪華なのでそのような仕込みをしていても納得ではある。

おわりに

名義や依頼によって器用に対応できるタイプの作家であるがゆえに、堀江晶太楽曲はそれぞれが違った魅力をもっている。中でも鮮やかなコードワークや楽器同士が絡み合うような編曲を楽しめるのは美少女ゲーム楽曲に多い。ややアンダーグラウンドな場で発表されていて、配信がなく聴きにくい曲もあるが、たくさん良い楽曲に出会えるのでぜひ探してみてほしい。

私は楽曲は色々聴いているが、あまりこうしたゲームをプレイしたことがなく、作品のストーリーと絡めて曲を語れないのが至らない点である。というのも、堀江氏を追うようになったのが高校生の時で成人向けゲームに触れられず、当時は楽曲単体で聴くしかなかったからだ。『ハミダシクリエイティブ』はアニメ化のためのクラウドファンディングをやっていたのでそちらを楽しみにしているし、気になる作品は今後機会を見つけてプレイしてみたい。


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