モホロジカルアナリシスによるアイデア発想
2023年から、バリューグラフを毎週1個作成しています。バリューグラフは、それだけでも発想のツールとして活用できますが、
モホロジカルアナリシスと組み合わせるとより強力なツールとなります。
モホロジカルアナリシスとは?
モホロジカルとは、形態学的という意味です。一つのモノは複数の要素で構成されていますが、それを分離し、各要素ごとに多数のパターンを生成して、それを組み合わせることで発想するという方法です。あまり有名な手法ではないかもしれませんが、そこまで複雑な考え方ではありません。以下に参考となりそうなサイトを紹介します。
しかし、これを、バリューグラフと組み合わせて活用するととても強力なツールになります。
バリューグラフを用いたアイデア発想手順
①バリューグラフを作成する
今回使用するバリューグラフはこちらです。
バリューグラフそのものに対する記事は下記を参照してください。
②上位価値を抽出する
バリューグラフの上位の価値の中から、気になる価値を抽出します。
今回は、下記の赤で示したキーワードを抽出しました。
③上位価値を縦軸にとった表を作る
次に、抽出した価値を縦軸とした下記のような表を作成します。
④各価値から連想するモノやコトをスケッチする
次に、各価値から連想するモノやコトをイラストで記載します。このとき、かならず手描きのイラストとしてください。
(画像検索で絵を集めるのはNG)
⑤複数の価値のスケッチをつなげる
イラストを眺めながら、なんとなく気になったものを複数つなげます。このとき、かならず複数の価値にまたがるようにつなげることがポイントです。つなげたイラストから、次のステップでアイデアを考えるのですが、この時点では明確なアイデアが無くてもかまいません。とりあえず気になったものをつなげてみるのが重要です。
⑥アイデアを考える
つなげたイラストに対して、もともとの製品(今回はヘッドセット)にもどり、新たなアイデアを考えます。そして考えたアイデアを文字で記載します。
⑦複数の価値のつながりに対して同様にアイデアを考える
以上の⑤~⑥のプロセスを何度も行います。⑤でつなげたけど⑥でアイデアが出ない、というケースもあると思いますが、それはOKです。つながりそうと思った組み合わせを⑤で多数つくり、⑥で発想するというのが重要です。また、これらの活動中に、④にもどってイラストを追加してもいいと思います。
バリューグラフでは、「個」と「仲間」が価値として内在する面白い製品ということを述べました。上記のアイデアは「個」+「他」。もともと仲間とのコミュニケーションのために用いられていたヘッドセットですが、必ずしも相手は既知の仲間である必要はなく、今は他である一時的な仲間や、過去や未来の仲間であってもいいのだと気づきました。
⑧アイデアの評価
上記で出されたアイデアには、良いものもあれば悪いものもあります。アイデアの評価方法は、目的に応じて多数のものがありますのでここでは割愛します。
なぜアイデアが出せるのか?
この方法は、バリューグラフを考案されたスタンフォード大学の故石井教授が講義で伝えていたものです。石井教授は、ME317という授業を担当されていましたが、その後期の授業に登場するものです。ME317の前期の部分については、下記の書籍でほぼ網羅されています。設計工学としてまず考えることをやったのち、さらなる価値を生むための発想の出し方として、本手法を考案されたものと思います。後期の授業内容は、従来の設計工学の枠を超えて、イノベーティブな製品を産み出すためのプロセスでした。それらが書籍化される前に他界されたことはとても残念であり、本記事でその一部でも実感いただければと思います。
多くの技術者のミッションとして、今担当している製品の改善があります。今担当している製品は、すでにマーケットがあり、自社の顧客も存在しているので、そこから広げていくことは、ビジネス上大きな価値があります。0→1ではないかもしれませんが、販売チャネルがある製品のパイを広げるということは事業面では大事ですよね。
今回紹介した手順では、バリューグラフの上位に現れる価値を用いています。これらの価値は、通常の設計活動では注目されにくいものである可能性が高いです。(これらの価値を直接的に反映した製品を作る、というのは、バリューグラフだけでもできます。)
上位の価値を抽出したら、そこから連想するものを”絵”で描きます。これがとても重要。絵を描くことで発想が広がることは、例えば下記の書籍など、多くの方が述べていることだと思います。
絵が苦手な方の場合、発想したキーワードからWebの画像検索で拾ってきたものを用いて、前述の表を作りたいと思うかもしれません。実際、私も絵が苦手なので、何度かそのようなことをやりました。しかし、自分で描く場合と比べて、アイデアが圧倒的に出なくなります。絵が下手ということは関係なく、手描きの絵から発想するということがとても重要です。
この手描きのプロセスで、バリューグラフで見出した価値が、さらに発散されます。バリューグラフで左脳的に発散し、手書きで右脳的に発散していることになるのだと思います。
右脳的に発散した絵をつなげる段階では、まだアイデアが言語化できていません。でもつなごうと思った段階で、なんらかの関連を右脳的に見出しているものだと思います。そのような右脳で見出したつながりから、今度はアイデアを言語化するという左脳的アクションを取る、というものです。このプロセスでは、右脳的な収束プロセスと、左脳的な収束プロセスがとられています。
アイデアを考えるときには、インプット→発散→収束という流れが重要です。発散は、インプットに基づき行われるものですが、技術者は、右脳を使った発散をあまりしていないのではないかと思います。そんな技術者にとって、バリューグラフからモホロジカルアナリシスにつなげるというこの手法は、左脳→右脳→左脳と、自分の脳みそを使い倒す方法となっており、だからこそ新しい発想ができるのだと思います。
最後に
私が始めてこの手法に触れたのは2007年でした。その後、ファシリテーションやワークショップを学び、多様なアイデア発想法を学ぶとともに、技術者にフォーカスした検討・活動を実施してきました。15年以上たった今考えると、石井先生が教えていたこれらの手法は、本当に技術者に適した手法だったと改めて感じています。
(参考)バリューグラフについて
バリューグラフについては下記をご覧ください。