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アニー観劇記@愛知県芸術劇場

「人生で一度は『アニー』を見ておきたい」
 その友人の言葉にならば行こうということになり、当日券で行ってきた。

 そしてノリと勢いで見に行ったがまんまと感動で胸振るわせてオーバチュアから終幕までずっとボロボロ泣き、感動の涙自己ベストを記録して帰ってきた。すごく上質で素直な舞台を見せてもらった。

 今回のキャストボードはこちら↓

2024/08/31午前の部
愛知県芸術劇場

 キャストすら調べずに行ったのでキャスボを見た時に、その昔劇団四季『美女と野獣』で親の顔より拝見したガストンのひのあらたさんと、『赤毛のアン』で拝見した笠松はるさんのお名前があって嬉しかった。

 愛知県芸術劇場大ホールはとにかく広い。観劇直前に劇場窓口でチケットを買ったので2階席下手サイドというそこまで期待の持てない席だったのだが、座ったら驚くほど見やすくいい席だった。愛知県芸術劇場の2階席は1階席から地続きだったので実質1階席だなぁという感じだ。窓口のお兄さんが「舞台が近くてよく見えますよ」と言っていたが本当だった。ありがとう窓口のお兄さん。

 そして丸美屋がスポンサーなのでロビーに丸美屋の商品が展示されたワゴンがあり、帰りにお土産までもらえた。

「『マーボと言ったら丸美屋』言うてますけどそれだけやないですよ」と犬のサンディも言ってる(言ってない)。
帰りにくれたお土産。
思いの外カタログに見応えがある。

 ありがとう丸美屋さん。もう今後ふりかけは丸美屋のものしか買いません。いやマーボは?

 『アニー』については「赤毛の女の子がアニーで朝がくればトゥモロー」くらいのほぼゼロ知識で臨んだのだがしっかりストーリーも分かるし楽しめたし感動もした。
 素直で愛に溢れていて明るい。登場人物が全員愛おしい。今を肯定し、良い未来を信じて周りをその輝きに巻き込んでゆくアニーの眩しさが客席まで届いてきて浄化される。もうアニーはパワースポット。

 ストーリーは平たく言えば孤児のアニーがクリスマスにアメリカの成金、ウォーバックス氏のところへ2週間ホームステイする間に絆を深め、本当の親子になる話だった。
 『アニー』を全く知らないながらも前から「これって現代版『赤毛のアン』じゃない?」と思っていたのだが『赤毛のアン』よりももっと現代的でシステマチックになり政治をふりかけ文学っぽさを控えエンタメに特化しました!と言った感じだった。とてもアメリカン。

 そして子役が多い。そもそも主人公のアニーが子役だし、孤児とダンサーに子役が出てくるで登場人物のおよそ半分が子役なのだがその子役たちの演技がいい。大人に比べればもちろん荒削りだし、役柄はあれど隠しきれないその子たちの個性が見える。ダンサーの子供達もやる気みたいなものが伝わってくるのがいい。なんというか全てが素直なのだ。
 若さとエネルギーが溢れまくっているのでどうしても芝居や演技が走りがちになるが、そこは落ち着いた大人たちの芝居が押さえていく。子役がメインの舞台だ、走るくらいエネルギッシュであって欲しいし流れを抑制させる必要は全くないのでそれでいいのだ。そこのバランスがとても心地よかった。
 私は過去、子役の出る舞台を幾つか見た時に違和感を覚えたことがあり「子役が苦手かもしれない」と思っていたのだが、数年前に『サウンド・オブ・ミュージック』を見た時に違和感なくスルスル見られて今回も楽しめたので別に子役が苦手なわけではないというのが分かった。たぶん子供が軸になっている舞台については楽しめるので、似たような理由で子役の舞台を敬遠してる方がいたらアニーは楽しめると思う。

 長年上演されている演目というだけあって非常に作り込まれた素晴らしい舞台だった。まずセットが近年稀に見る豪華さで大道具小道具が多い。これらを9500円というチケット代で見られてしまうのは何かのバグではないかと思うくらい、もう舞台セットを見るだけで元が取れそうな勢いである。
 照明もばっちり視線誘導と場面の描写という役割にはまっていてちょうどいいし丁寧だ。最初、孤児院のシーンで窓から差し込む月明かりのような光がアニーだけを照らすところがとても綺麗で印象的だった。
 衣装も豪華。アンサンブルの演者さんが衣装替えで何役も演じておられるが、やはり衣装が持つ場面の説得力はすごいな、とつくづく思う素敵な衣装ばかりだった。
 そしてアンサンブルの使い方もうまい。演者さんの実力が高いのは勿論なのだが、その活かし方がとてもいい。ひとりひとりにつけられたキャラクターと役割がきちんと分かる。そしてきちんと分かるからこそアニーが引き立つ。
 台本と演出の流れがよく無駄がない。台詞、歌、ダンス、どれを取っても冗長だと思う場所がない。ラストだけ「力技で全員舞台に立たせたな?」と思ったがそこも愛嬌と取れる面白演出だったし、「早足だな」と思うところもないではなかったが丁寧にやったらやったで流れが悪くなるので最適解であろうと思う。そもそもがアニーのキャラクターをどう動かしたいか、というところからブレてないのでとても整理された見せ方でいい。寄り道がないので本当に見やすい。この「見やすさ」というのは大事だと思う。舞台作品は無理にあっちもこっちも見せ場を作る必要はないのだ。登場人物には担わせる役割をしっかり持たせてくれれば勝手にこっちが色眼鏡をかけて見る。私ほどのプロのモブ観劇者になれば妄想と幻覚で演者を見るのは朝飯前なので任せてほしい。いいの?それ。

 そしてもう楽曲が全ていい。しかも生オケである。オーバチュアは幕が上がらないまま、曲だけ聴かせてくれる。伸びやかなトランペットの音で始まり流れの中でジャズとポップスのいいとこ取りのようなメロディが優しく包み込むように膨らんでゆく。そんな音が会場に溢れたら泣くしかないし、ずっといい曲の中で素直で希望溢れる物語が進んでいくのだからそりゃあ泣きっぱなしである。

 『アニー』といえば「朝がくればトゥモロー、涙の跡も消えてゆくわ」というあの曲のイメージであると思うがそれはもう全くその通りであった。
 孤児院で育つアニーの自分を愛し、大事にする強さが眩しい。そしてその強さで運を掴んでいく。子供らしい豪胆さと無遠慮さで「人生は幸せである」という信念を振り撒き、周りに伝播してゆく。孤児院の子供達が僻みっぽくなくアニーのことを応援しているところ、ウォーバックス、グレースがすぐにアニーのことを大好きになってしまうところ、そしてハニガンがその眩しさゆえにアニーのことを好きになれないところがとても分かる。絢田さんのアニーにはそういう説得力がとてもあったと思う。
 他の子役さんたちもそれぞれの役割がきちんとこちらに伝わってきて良かった。自我の育ってきた年頃の子供達がハニガンを好いてない中でいちばん小さなモリーがハニガンのことを「なんか面白い人」だと思ってるように見えたのがまたいい。モリーの石川さんがきちんとキャラクターを演じているからだというのは当然なのだが、他の子役さんたちがきちんと自分のキャラクターを演じてくれたからこそさらにモリーが映えたのだと思う。アニーの良さもそれぞれの場面の流れも、チームでちゃんと見せ場が分かりやすいお芝居をしてくれたからだと思うので本当に素晴らしかった。
 そもそももう40代になると子供の持つパワーがそれだけで眩しいので、ダンスキッズたちの華やかさと柔軟性と表現力も刺さる。そんなもの持ち合わせてないし今後習得できる機会もないのでただ応援させてくださいという気持ちになる。パンフレットを買ったので見ているがもう将来の夢を語れるのが眩しい。みんな幸せであってほしい。

 今回アニーをヒーローだとすればウォーバックスがヒロインの立場になると思うのだが、まさしくヒロインという感じでよかった。アニーの存在によって物の見え方が変わっていく、自分の中で大切なものが変わっていく、幸せの軸がずれて笑顔が増える。アニーが来たばかりの適当にあしらっているところと、大事な存在になってからの接し方の演じ分けがいい。そのあたりから周囲との関係も変化していき、パーティーで着飾ったグレースに思わず「なんで美しいんだ!」というところがとてもチャーミングに見えてヒロイン感が増していた。
 グレースは美人で有能でパリッとした秘書、という体で出てくるがコミカルな芝居が当てられていてそこを思いっきりやってくれるので面白おかしく見られた。そこ以外は設定を守りつつ周りの芝居に添えるような演技だったのもいい。アニーとウォーバックとグレースは登場している分量でいえば三人同等の関係性だが一歩ひいた芝居をしてくれたのでアニーとウォーバックスの関係にフォーカスできてラストまできれいに見られた。そこにフワッとウォーバックスとグレースの今後の関係が見えるのもきれいだった。

ハニガンが嫌われ役なのだがお綺麗でコミカルなので憎みきれないけど性格が悪そうなのはちゃんと分かってよかった。悪役の3人はそれぞれ悪いけど可愛らしくて、ちゃんと逮捕はされてほしいけど釈放されたら逞しく生きてほしい気持ちになった。明るい未来のミュージカルなので彼らにも明るい未来が訪れてほしい。

 あとすごいのが犬のサンディである。本物の犬が出てくる。しかもすごく訓練されていて芝居をする。すごい。「これが…タレント犬…!」と度肝を抜かれた。私より賢い。

 とにかく幸せと希望がたくさん詰まったミュージカルだった。これは長年愛される理由がわかる。作り手が大切に上演している作品だということもよく分かる。今後もずっと上演され続けてほしい。

 終演後トイレで鏡を見たら泣きまくったせいで化粧が全部落ちていたので見にいく時にはぜひハンカチではなくタオルを、そしてメイクポーチを忘れずにお持ちいただきたい。私も来年見る時はその辺ちゃんとしようと思う。

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