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トスカーナの栗料理から紐解くクッチーナ・ポーヴェラとクッチーナ・リッカ

トスカーナの栗の料理を紐解いていくと、イタリア料理の真髄が見えてくる。

それは、クッチーナ・ポーヴェラ(Cucina Povera:庶民の料理)とクッチーナ・リッカ(Cucina Ricca:貴族の料理)が織りなす重層性だ。

クッチーナ・ポーヴェラは、食べ物が潤沢に手に入らない人々が、手元にある限られた食材を使い、いかにおいしく作れるかを考え抜かれた知恵の結集である。この知恵は、現在のイタリアのマンマの家庭料理の根幹をなしている。

一方で、クッチーナ・リッカは、貴族や王家で食される希少な食材を贅沢に使った料理を指す。例えば、メディチ家が君臨したフィレンツェの、希少牛のキアナ牛のTボーンを分厚く切って炭火焼きにするビステッカ・アッラ・フィオレンティーナはその象徴だ。希少な食材の一番美味しい部分を特別な調理法で食べるのだ。

さて、栗には、カスターニェ(小さな栗)とマッロー二(大きな栗)がある。ご想像の通り、前者はクッチーナ・ポーヴェラ、後者はクッチーナ・リッカに登場する。

もともと栗は、貧しかった時代に、小麦が手に入らない庶民によって、小麦の代わりの栄養価の高い穀物としてカスターニェが食べられていた。栗が命を繋いでいたのだ。晩秋に栗を収穫すると、茹でて主食として食べたり、乾燥させて栗粉にすることで一年間の食を支えた。栗粉はパンやパスタのかさ増しに使われ、小麦に栗粉を練り混んで生地を作った。さらには、栗の茹で汁を飲んだりもした。

それが、時代が下り、人間の手が加えられ、大きな栗が作られ、マッローニが誕生した。こちらは高級食材として羨望の的となった。

面白いことに、現在もグーグルで検索すると、カスターニェ(小栗)のレシピは、パスタをはじめ、煮込みやスープなど、栄養価の高い素朴なもの沢山出てくるのに対し、マッローニ(大栗)のレシピは、ケーキやお菓子など手をかけ見た目も凝ったものが沢山出てくる。

イタリア料理の二大潮流のクッチーナ・ポーヴェラとクッチーナ・リッカ。両方ともれっきとしたイタリア料理なのだが、トスカーナの栗料理を作って食べていると、その重層性がひしひしと感じられて、イタリア料理の奥深さにまた魅せられるのである。

↑栗粉を使ったニョッキのきのこと栗のクリームソース

カスタニョッチョ:栗粉を使った素朴な農民菓子


ネッチ:栗粉のクレープにリコッタクリームを巻いたもの

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