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なぜ廃業が急増?後継者がいない経営者に残された4つの選択肢

事業承継の相手の探し方

どういった流れで相手を決めるのか

 事業承継の類型は大きく4種類あるとわかりましたが、どういった流れで相手を絞り込めばよいでしょうか。

 それを示したのが、下の図です。

 まずは、親族内に後継者候補がいるかいないかです。

 経営者のお子さんだけではなく、親族のなかにやる気と資質のある人がいれば、親族内承継を進められます。

 シニアの経営者の場合、後継者=息子と考えがちですが、娘や娘の配偶者など幅広い対象から探すことです。

 親族内に後継者候補がいない場合は、次に考えたいのは社内承継です。

 次代の経営を任すことができる役員・従業員はいるでしょうか。

 ここでもその有無と本人のやる気・資質が問われますが、年齢も考慮してください。

 たすきをつないだ相手が高齢だと、また数年後に同じことの繰り返しになってしまいます。

 社内にも後継者がいないと、社外から有能な経営者を招くか、M&Aを検討することになります。

 社外承継の場合は、現在の経営者や親族が株式を持ったまま経営だけ任せることができます。

 一方、M&Aの場合は会社そのものを第三者に売却するので、一般的には経営権だけではなく、株式などの資産、経営理念も含めた知的資産なども承継することになります。

 このように、現経営者が置かれた状況と承継相手の有無から辿っていくと、自身にとって最適なパターンが見つかるはずです。

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事業承継でつなぐのは「人(経営)」「資産」「知的資産」の3要素

 事業承継は単にビジネスを後継者に渡して「はい、終わり」というものではありません。

 その後、安定して経営を続けていくには、現経営者が行ってきた「経営資源」を承継する必要があります。

 株式の譲渡や代表者の交代に終始してはいけません。

 これらのみに注視すると、一時的に利益や資産を減らすなど株価対策をしたうえで親族に譲渡すればよい、反対にM&Aでは株式の評価を高めて高額で売却すればよいといったことになりがちです。

 その結果、投資用不動産や高級自動車など、事業継続に必要のない資産を抱えて右往左往することがあり、これでは後継者は納得がいかないでしょう。

 重要なのは、事業継続のために必要な経営資源を承継することであり、中小企業庁が公表する「事業承継ガイドライン」では、それを「人(経営)」「資産」「知的資産」の3要素に大別しています。

事業承継は「3つの経営資源」を引き継ぐ

事業承継の要素①:人(経営)の承継
 法人であれば代表取締役の交代というように、人(経営)の承継とは、後継者へ経営権を引き継ぐことを指します。

 現経営者が育ててきた事業を誰にたすきをつなぐかで事業承継の成否は決まりますから、時間をかけ慎重に決める必要があります。

 今迄、次期経営者としての資質に関係なく、経営者の長男に継がせるというケースが多かったのですが、その結果、事業が破綻してしまうと従業員は路頭に迷い本末転倒です。

 経営ビジョンや本人の覚悟・意欲、実務能力といった観点など、変わりゆく経営環境に対して柔軟に対応することができ、事業を継続・成長させていくことができる人物を選定しないといけません。

 親族内承継や社内承継の場合は、経営ノウハウや取引先など必要な能力を身に付けるのに、ある程度の時間がかかるので、後継者候補をなるべく早く選び、育成に取り組む必要があります。

 一方、これまで述べてきたように、近年は社外人材やM&Aが事業承継の選択肢の一つとして認識されるようになりました。

 親族内・社内承継だけではなく、外部の第三者への承継を視野に入れて、「誰に」事業を引き継ぐのか検討を進めたいところです。

事業承継の要素②:資産の承継
 資産の承継とは、株式や事業用資産(設備・不動産など)、資金(運転資金・借入など)といった、事業継続のために必要な資産の承継を指します。

 法人の場合は会社が保有する資産の価値は株式に包括されるので、株式の承継=資産の承継と考えて構わないでしょう。

 一方、個人事業主は自社株を持たずに、不動産や機械設備を経営者本人が個人所有していることがほとんどですから、それぞれを計上して承継しないといけません。

 詳しくは後述しますが、資産の承継で押さえるべきことは、自社株・事業用資産を贈与・相続の形で引き継ぐ場合は、資産の規模や状況により多額の贈与税・相続税が発生する可能性があるということです。

 後継者に税負担ができるほどの資金力がないと、承継自体を考え直さないといけなかったり、何らかの対策を練ったりする必要があります。

 税負担を回避するために、複数の人物に株式・事業用資産を分散して承継すると、その後の人間関係で揉めて経営に悪影響を与える可能性があり、お勧めはできません。

 資産の承継は後継者一人に集中させるのが賢明であり、そのためには税負担を考慮した手段を検討する必要があります。

 一方、承継するのはプラスの資産とは限りません。

 法人や現経営者個人の負債や保証も整理して承継することになり、個人財産に関しては他の相続人との関係も考えないといけません。

 これについては専門的な知識が求められるので、税理士をはじめとする専門家のサポートも必須になります。

 時間を要することもありますから、やはり早めに取り組んだ方がよさそうです。

事業承継の要素③:知的資産の承継
 知的資産とは経営理念や従業員の技術・技能、ノウハウ、経理者の信用、取引先との人脈など、貸借対照表に記載されている資産以外の無形資産を指します。

 財務諸表には表れませんが、どれもが事業を支える重要な要素であり、事業継続のために必要なものばかりだからこそ、これら知的資産も承継しないといけません。

 とりわけ、中小企業の場合は現経営者が持つノウハウや信用、人脈が経営の屋台骨になっていて、社長が変わった途端に評判を落とし業績が悪化することがあります。

 時間をかけて後継者を育て、信用や人脈を受け継ぐなど、戦略的な視点は求められるでしょう。

 もしくは、経営者と従業員の信頼関係が、円滑な経営の秘訣になっていた場合、代替わりして信頼関係を失うと、離職の引き金になることもあります。

 後継者はこういった点も理解して、信頼関係構築に早くから取り掛かる必要があるでしょう。

 中小企業にとって知的資産が競争力の源泉であることは非常に多く、次代にうまく承継することができないと、事業の継続性は危うくなります。

 知的資産の承継もしっかりと押さえておきたい点です。

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「つなぎたいこと」を明確に進めると事業承継を間違えない

 事業承継を円滑に進めるためには、これら3つの経営資産を順序立てて後継者に受け渡していく必要があります。

 時間的に余裕をもって臨むことで、取りこぼしたり譲歩したりすることを避けられます。

 反対に切羽詰まった状態で進めると、経営理念やノウハウを伝えきれなかったり、従業員や取引先との信頼関係を構築できないまま社長が交代したりせざるを得なくなります。

 そうなると、その後の経営に苦労する恐れがあります。

 M&Aを選んだとしても、想定より安い金額で売却せざるを得ない可能性もあります。

 いずれにしても十分な準備期間をもって進めていくことが、スムーズな事業承継には不可欠であると覚えておくことです。



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