前法相夫妻買収事件で起訴 残る問題

○2020年7月8日、前法相の河井克之衆議院議員と妻の河井案里参議院議員が公職選挙法違反の罪で起訴されました。案里議員が広島選挙区で初当選した昨夏の参院選をめぐり、地元の県議ら100人に約2900万円の現金を配った買収の罪です。この事件で、半年もの間続いた安倍政権と検察の暗闘は、検察に軍配が上がりました。

○しかし問題は残っています。まず今回は、買収資金を受け取った側について、刑事責任を問うていませんが、これをどう評価すべきでしょうか。金を受け取った側の責任を全く問わないのは、法の趣旨にもとるという意見が、検察内部でも出ていると伝えられています──ここまで書いて、ハッと気が付きました。刑事責任を問わないのなら、不起訴処分(嫌疑なし、または起訴猶予)にすべきだが、そうした手続きを取っていない。今後場合によっては、金を受け取った側の起訴もありうる、という含みではないでしょうか。

○もちろん今後の裁判での、買収資金を受け取った側の対応(素直に金を受け取ったことを認めるか、取り調べ段階の供述を翻して、金を受け取っていないと主張するかなど)によって、簡単に起訴する人としない人を変えたりはできません。しかし理屈上はそうした対応が可能なわけで、供述を変えようとする場合、相当なプレッシャーになることは間違いありません。

○ここまで考えると、検察も相当人が悪いということになります。戦後ずっと守られてきた検察庁法の検察官の定年規定を自分の都合で破って、無法にも定年延長をやってみせた安倍政権に鍛えられた(?)のかもしれません。

○さて問題は案里氏の選挙に際し、河井陣営に自民党本部から送られたとされる1億5000万円の巨額な政治資金です。1億5000万円のうち、1億2000万円は、税金が原資の政党交付金だったとされます。この1億5000万円と買収資金とはどういう関係になっているのでしょうか。

○6月30日の自民党総務会でも、この巨額な政治資金が党本部から支出されていたことについて、党執行部側の説明を求める意見が噴出したといいますが(7月1日、朝日新聞)、自民党から今もって詳細な説明はありません。また残念ながら、1億5000万円の行く先を暴露した特ダネ報道もまだありません。従って今のところ我々は、この件について確かな情報がないのです。
しかし想像するに、河井陣営は1億5000万円もの巨額な金が手に入ったので、景気よく買収資金としてばらまいたのではないか、というのが我々素人の国民の素直な考えでしょう。

○前法務相夫妻の前例のない同時逮捕・同時起訴で、事件の大筋は勝負がついたと思えます。しかしお金の動きから見ると、分らないことだらけです。自民党からの政治資金・1億5000万円は確かに河井陣営に流れた。しかし河井陣営がバラまいた買収資金約2900万円がこの1億5000万円から出たとはまだ確定はされていない(そう考えるのが妥当としても決定的な証拠はまだない)。更には仮に約2900万円が1億5000万円から出ていたとしても、残りの約1億3000万円はどこにいったのか?

〇刑事裁判では最初に、検察側が冒頭陳述を行い、犯行の動機、犯行に至る経緯、犯行後の状況を述べることができます。ロッキード事件田中角栄ルートの初公判(1977年1月)では、「丸紅の桧山廣社長が、全日空がロッキード社の飛行機を導入するよう、総理の方から閣僚に働きかけるなどしてほしい旨請託し、田中は、即座に『よっしゃ、よっしゃ』と答え、5億円の賄賂の申し込みを承諾した」と検察側が述べましたが、あれが冒頭陳述の一部です。

○今度の裁判で、どこまでそうした金の動きが明らかになるか、この事件からまだまだ目が離せません。

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