自民大勝、“政権選択選挙”の逆説

 〇2021年10月31日投開票された総選挙は、コロナ対策の失敗で、現役首相が自ら政権を
退く状況の中で、野党側の候補者絞り込みが進み、政権選択選挙と言われました。しかし、選挙の結果は、意外?にも、自民党の大勝となりました。

〇岸田自民党総裁(首相)は、公明党と合わせ、過半数獲得が勝敗ラインと慎重な言い回しでしたが、自民単独で過半数(233議席)を確保するどころか、国会運営上有利な安定多数(244)を超え、さらに衆院のすべての常任委員会で委員長ポストを独占し、委員の数でも過半数を確保する絶対安定多数(261)に達しました。公明党と合わせると、絶対安定多数を大きく上回るわけです。解散時の276議席を下回りましたが、自民党大勝と言えるでしょう。

〇逆風と言われた中で、何故だ、と言いたくなりますが、私の解釈は、こうです。“政権選択選挙の逆説”とでも言うしかない。政権選択選挙という言い方は、野党の力量を認めた表現で、野党にとって有利な言い方に聞こえます。しかし、そうではない、逆なのです。

〇私は10月21日の中庸時評で、「選挙どうなる 争点からの分析」として、今度の選挙の争点はおおきく分けて四つーコロナ対策、経済問題、民主主義(安倍・菅政権をどう評価するか)、防衛問題の4つあると述べました。。そして与野党にとって、これらの争点の選挙への影響は、いわば1勝1敗2引き分けだ、としました。野党が勝つのは民主主義の問題、与党に有利なのは防衛問題だ、と。

〇この争点からの分析は、与党と野党をイーブンにとらえて比較しているように見えます。しかし、前提にあるのは政権側がやったこと、やろうとしていることの評価です。例えば、コロナ対策で政府は今年前半打つ手が遅く、オリンピックを強行開催したことも加わり、夏場に感染が爆発、菅首相(当時)の退陣につながりました。ですから、コロナ問題は与党側が1人でこけ、野党は何もせずとも選挙で有利になる要素になるわけです。
(実際には、菅首相の退陣決定のころから感染は嘘のように少なくなり、全国的に出されていた緊急事態宣言も投票日前に解除されました。このため、コロナ対策は、一時的に国民の関心が薄れ、私は今度の選挙には響かないと見ました)。

〇しかし、今回は政権選択選挙です。政権が代わって、野党側が政権を運営することになったら、日本はどうなるか、国民は真剣に考えたと思います。すると見えてくる政治的景色が変わってくる。まず、コロナ対策、野党は国民にプラスになることを提言できたでしょうか。ワクチン接種について早くから推進していましたか。せいぜいオリンピック反対を言うだけだったのではないか。経済問題でも、一時金のバラマキや税の減免で、野党側も無責任な提案が多かった。

〇決定的だったのは、防衛問題。北朝鮮がミサイルを発射して軍事力を見せつける一方、中国、ロシアの艦隊が日本列島を1周して見せるなどの事態の中で、立憲民主党の枝野党首に軍事的判断を含めた対応をしてもらうイメージがわいてきません。岸田首相は5年近くの外相経験があり、国際的対応は常識的にやれるのでは・・・。そんなことを考えると、中々、野党側に投票する手が鈍る…。

〇ただし、今回の[大勝]で、真に自民が支持された、と思ったら間違いです。野党の力のなさ、いわば「敵失」で勝利しただけなのですから。

〇私が一番問題だと思っているのが、今度の選挙結果で、何一つ日本の進む道が決まらなかったことです。本来選挙は政策を掲げて戦い、勝ったらその政策の実現に向けて邁進する。しかし今回の選挙はそうなっていない。

〇日本の現在の最大の問題は、30年間経済が停滞し、賃金が全く上がっていないことです。これをどう解決し、日本を成長軌道に乗せていくか。当選した国会議員はそのことに向かって、真剣に取り組み、国会をきちんと開いてしっかり議論をしてほしい。そのことを、今、望んでおきます。
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