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検察改革の課題──“証拠改ざん”10年

〇大阪地検特捜部による証拠改ざん事件が発覚して、2020年9月21日で10年となりました。村木厚子厚生労働省局長(当時、のち事務次官)が、郵便不正事件で部下に不正を指示したとする、事実無根の調書が検察によって次々に作成され、ついには証拠品のデータの改ざんまで発覚したとんでもない事件です。
各新聞とも21日から24日の紙面で一斉に、検察の捜査がどのように改善・改革されたか、その現状と課題を取り上げています。

〇各紙の記事では村木元次官と、この7月にその任についた林真琴新検事総長へのインタビューが目立ちました。ここでは、いやおうなく検察改革の責任を負うことになった林総長のインタビューを、少し詳しく紹介してみましょう。

〇林検事総長は、朝日新聞(9月22日)と日経新聞(9月23日)の長いインタビューに応じていますが、その中で重要な指摘をしています。日本の検察官は「刑事裁判で争う当事者」と「公益の代表者」の役割を同時に持つという指摘です。アメリカの検察官は前者、ドイツの検察官は後者ですが、日本の検察官は両方の性格を持っているというのです。そして林検事総長はズバリ指摘します。「検察官の不祥事が起こりやすくなるのは、『裁判に勝ちたい』という当事者意識が過剰に強くなりすぎた時だと感じる」。

〇検察官の役割について、抽象的な理屈を述べているように感じられるかもしれませんが、そうではありません。私はこのインタビューを読んで、ピンときた事件があります。そうです、元法相夫妻(河井克之衆院議員と河井案里参院議員)が去年の参議院広島地方区の選挙の買収で、同時逮捕・起訴された事件です。

〇この事件の裁判は、8月から東京地裁で始まっています。世人を不思議がらせたのは、地方議員ら100人に2900万円余りを配った大型買収事件であるのに、買収された側が1人も起訴されていないことです。選挙の買収は、買収した方もされた方も罪に問われるはずです。にもかかわらず、また実態として、金を受け取った側の多数の地方議員、首長らが「罪を認めて」辞職したりしているのに、1人も起訴しないとはどういうことなのでしょうか。

〇しかしこれも林検事総長の先の「解説」を踏まえながら考えると、よくわかります。まず、我々が「被買収の側を全く起訴しないのは『正義を疑わせる』(8月26日私のnote)」と感じるのは、我々が無意識のうちに検察を「公益の代表者」と思い、それを期待しているからです。無理もありません、そのため起訴の権限を検察に、事実上独占させているのですから!

〇一方、検察側が被買収側を全く起訴しない方針を取ったのは「刑事裁判で争う当事者」として、被買収側に裁判で、検察にとって有利な証言をさせようと考えている──と見るのが自然でしょう。この事件は検察が全国組織を挙げて全力で取り組むことで、結果として安倍政権の検察への不当な人事介入を阻止し、ひいては安倍退陣をもたらしたのです。裁判で負けるわけにはいきません。確実に勝つ方法を考えたのでしょう。しかし、全く正しいやり方だとは思えません。

〇この元法相夫妻の選挙違反事件は、稲田伸夫前検事総長が事実上陣頭指揮をした事件で、起訴されたのは2020年7月8日。林氏が稲田氏からバトンタッチして検事総長になったのは7月14日で、「この事件の処理について林検事総長は事実上責任はない」と言っても良いでしょう。しかし検事総長になった以上、林氏は「名解説」をするだけではすみません。正義にのっとった行動がとれるか、林検事総長は今後の事件の処理のひとつひとつについて、責任が問われます。

〇また、林検事総長が指摘しているのは「不祥事が起きないようにするだけでは、国民の信頼を得るには不十分」ということです。「力を蓄え、熱意を持って、事件の当事者として、十分な成果を上げる検察官にならなければ、成果は得られない」──これ以上具体的なことは言っていませんが、私はこれは、古くて新しい問題、すなわち政治と検察の問題を含むと受け取りました。

〇政治が絡んでも、重大事件ありと考えれば遠慮せず切り込む。また、事件捜査への政治からの介入は断固はねつける……いや、ここで検察の誓いの言葉が欲しいわけではありません。「林検察」が、実際にどういう事件の捜査に取り組み、どう成果を上げるか。まさにお手並み拝見ですね。

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