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#17【雑感】 映画館の賑わいの効用

映画『PERFECT DAYS』を観に行った

先日、前の会社の先輩と代々木に飲みに行った帰り道、公園のトイレの前で先輩が「このトイレ『PERFECT DAYS』で出てきた!観た?面白かったからオススメ!」と激推ししてくれました。気になっていたので、数日後さっそく観に行きました。
観た後に劇評を少しずつ書いていたのですが、何せ、言語化できないものを言語をできるだけつかわずに表現するような作品だったので、なかなかまとまらずに日にちがたってしまいました。そこで書いていたもののうち、映画の内容に関係のないものをとりあえず先に出します。

ひとり映画について

みなさんはひとり映画はされますか?
くらたは学生時代はダメだったのですが、いまは全く平気です。観たいものが多すぎて連れを探していられないことや、ひとりで観たほうが作品に意識を全振りでき、そのほうが快適だと気が付いたからです。

学生時代までひとり映画が苦手だった理由は、観終わったあとすぐに誰かと感想を言い合いたいから、でした。
でもあるとき、部活の数人で『グリーンマイル』を観に行ったら、刑務官のひとりがスポンジを濡らさずに刑を執行して受刑囚が苦しんだシーン(うろおぼえ)で気分が悪くなって途中退出する羽目になりました。目をつぶってもあの死刑の音が爆音で聞こえてくるのがもうだめでした。評価の高い『グリーンマイル』ですが、わたしは未だにその先を知りません。
ともあれ、私の行動のために、終演後、友達は微妙な空気になるわ、「お前の席があったらほかに座れたお客さんがいた」とか怒られるわで散々でした。当時はまだ座席指定制ではなく映画代=座席指定代という概念もなかったので、くらたがいなくなった席について立ち見のお客さんから「ここ空いてたら座っていいですか?」と聞かれて彼女が断ってくれたのだそうです。申し訳なくはあるものの、当時の私にしてみれば、あんなもん爆音高画質で見た後平気な顔して飯食える人のほうが信じられん、という思いを禁じ得ませんでした。

大人になってからは予定が合いにくくなったことや、ほかにもいろいろと経験を重ねて(感想を話していたら俺をバカにしてると言われたりとか)、ひとりで行くほうが楽だと気が付きました。相手が観たいものを自分が観たいとも限らないし、逆も然りです。
また死刑シーンで退出する羽目になったら嫌ですしね。

久しぶりに混んでいる映画館を見た

さて、『PERFECT DAYS』を観に行った話に戻ります。
すでに公開から日が経っていて1日1本しかやっていなかったので、平日なのにとても混んでいました。久しぶりにこんなに混んだ映画館を見た。

くらたが幼少のころは今のような大手のシネコンはまだなくて、当時一家で住んでいた場所からほど近い下高井戸の小さな映画館で、ぎゅうぎゅうで見るのが映画だと思っていました。また、上記のように座席指定という概念がないので座席は早い者勝ちです。立ち見の人もたくさんいました。
でも、大手のシネコンが主流となってからはぎゅうぎゅうという風景はあまり見なくなりましたね。メジャーなエンタメ映画や子ども向けアニメなどはまだああいう感じなのかしら。でもそれにしても、座席に座れずにレジャーシートを敷いて『ドラえもん』を観るという事態はさすがにもうないのではないでしょうか(昔はあったんですよ…渋谷の映画館とかで。それで消防法は大丈夫だったんだろうか)。
わたしがピークを外して会期の終わりごろに行くようにしていることもあるのかもしれませんが、近年はスカスカの映画館しか経験がありませんでした。

「作品を共有してる感」はなんとなくうれしいもの

久々に混んだ映画館で観るのは、「作品を共有してる感」があってとっても良かったです。
ひとり映画推奨派のくせに、とも思いますが、「同じ映画館に居合わせた他人」は、「その映画に興味をもって、お金と時間を割いていまこの部屋の中にいる」というただ一点における仲間。そしてこの時間のこの部屋においてはそれだけあれば十分で、それがいちばん大事なことと言えます。
仮にわたしが友達の誰かを誘ってともに来ていたとして、その人は、「わたしのつきあいで来た私の友達」であって、その時点で映画が主体ではなくなってしまう。その人もその映画を観たかった場合や、わたしにとっても映画そのものよりも連れの優先度が高かった場合はそれでもよいですが、それは例外的な事態。そしてもちろん居合わせた他人の中にも誰かのつきあいで来た人はいるでしょうけれど、それはわたしには認知できないことですし、そこまでの詳細な情報は必要がない。

くらたはバスケ観戦もひとりで行きます。以前、職場近くの会場の試合に職場の友達を誘ったら、試合開始時間前に来ず、試合開始後、第一クオーターのいいところで迎えに来いと電話がかかってきて散々でした。
たいていはひとりで行ってひとりで観てひとりで帰ってくるのですが、まれに、たまたま隣り合わせた方とお話しすることがあります。そういうときはとてもうれしいです。大体トヨタ自動車アンテロープス側の少しお高めの席に、推しの選手の名前入りタオルを持って座っているので、隣に座る方も同じ境遇。互いのタオルを見て、お相手の推しの選手が活躍したらたたえ合う。たたえ合わなくても、心の中でよかったね、と話しかける。名前も知らない人だけど、それだけでじゅうぶん。この試合時間中のこの体育館の中においてはそれだけが大事なことです。

映画の場合も、その映画を主体として、その映画を見るために集った人たちで、その映画を共有する。
『PERFECT DAYS』ではまずそのことが感じられたことが、とても心地よかったのでした。

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