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短編小説集 『新しい風景』

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ショート・ショートを作品を収録しています。
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#掌握小説

深大寺の休日

深大寺が主催する短編恋愛小説「深大寺恋物語」という文学賞に去年 『深大寺の休日』という作品を応募しました。 結果、惜しくも最終選考で落選だったのですが、なんと選外作品として ホームページに記載していただきました。 小説は4000字で綴った、大学生の恋の物語です。 名作映画、『ローマの休日』をモチーフにしています。 奥手の大学生の僕が、ある日、意中の女の子からデートに誘われる。そんなところから物語は始まります。 上記リンクからも読めますが作者特権、記載可能なので以下にも記

せっかち君

 あの頃、我が家の時計は全てくるっていた。  リビングの時計が10分、私の部屋の時計が8分。弟の部屋が7分で、父の書斎が15分。それから洗面所が11分で両親の寝室が20分、それぞれ正確な時刻よりも遅れていた。  家族がその事態に対して、初めて全員で話し合いをもったのは、私が中学1年の時であった。 「なんで家中なのよ?」 「つまりアレだな」 「アレって?」 「ついにおれ、魔法で時間を操作できるようになったのかも」 「……ふざけてるの?」 「ふざけちゃいませんよ。毎日の『瞑

地球の回答

 一緒にジムで筋トレをした後、頑張ったからと飲みに行き、タバコをプカプカ、酒をガブガブ「やっぱ『青汁』って相当体に良いらしいぜ」なんて話していた安藤が突然、「やっぱエコだよな、おれたちは地球を守らなきゃいけない」と言い出したのは7月の初めだったか。  例のごとく何かに影響を受けたか、まあもって1ヶ月、8月には落ち着くだろうと思っていたのだが、めずらしいことに9月になってもそれは終わらなかった。  コンビニで酒とつまみを買って、安藤の部屋をたずねると 「あっ、レジ袋買って

鼻毛の王様(2) (2/2)

 気がつくと私は自室にいた。鼻に違和感を感じ、そこでハタと思い出す。そうだ、鼻毛が5mになったのだ。相変わらず鼻毛は私の鼻から垂れ下がっていた。つまり、これは先ほどの夢の続きなのだろうか。  ドン、ドン  不意にノック音が聞こえてドキリとする。ガチャリとドアが開き、息子が入ってくる。白衣を来た息子はおもちゃの聴診器を首から下げて非常に不機嫌な顔をしている。 「15番目だから、結構かかるよ」 それだけ言い残すと息子はさっさと部屋を出て行った。 15番目? どうゆうことな

鼻毛の王様(1) (1/2)

 日曜日の昼下がりのことである。私は鼻に違和感を感じ、スっと鼻に手を伸ばした。指に当たる鼻から伸びる一本の長い毛。そこで私は私の鼻毛の内の一本が、異様な長さになっていることに気が付いた。たぐり寄せてもたぐり寄せても続くそれの長さはおよそ5m。概算ではあるが、部屋の長さから考えても、明らかにそれは5m〜6mはあるのだ。  人間の鼻毛はそんなに伸びない。それは多分遺伝子レベルで決まっている。ではなぜ? 当然、考えてもそんなことはわからない。  私は深く考えるのをやめ、ハサミをも

飲み会解散

 店にはおよそ87人ほどの客がいて、素晴らしいことに9割の人間は酔っ払っていた。そしてみんなその口を実に巧みに使っているのである。つまるところ、口を使って酒を飲み、つまみも食って、さらに、なんとその口を使って喋っていた。  みんな、だいたい2〜10人くらいで飲みに来ているようで、仲間と大声で談笑していた。けれど実際のところ、グループの中では愉快になる人間がいる一方、不快になる人間もいるようだった。  8時だったか、9時だったか、突然、その男は現れた。つかつかと店に入って来