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新規事業を紡ぐ「エフェクチュエーション」という考え方

大変ご無沙汰してしまいました。中部産業連盟の岡部です。
約2ヶ月も記事を書かないと、記事をどうやって書けば良いのか、わからなくなってしまいますね。
何事も継続は力なり…立ち止まるのは良くないと反省しています。

さて、本日は「エフェクチュエーション」を題材にして、新規事業を起こすときに大切になる行動について、お伝えしていきたいと思います。

私も中部産業連盟に入職したのが6年前(2017年)になりますが、その当時は企画営業職として働いていました。そのときに、自然と活用していた理論が、このエフェクチュエーションである、と気付いたのが、ビジネススクールに通っていた2年前(2021年)のことです。

“新規”という魔法の言葉、私も散々耳にしてきました。企画営業職で働いていたときには、とにかく新規企画を作って、新規顧客を獲得し、事業化していかなければいけませんでした。いわゆる、新規事業ですね。
しかし、いつも最後に立ちはだかる障害は「どうやって?」という言葉です。皆さんも経験のあることだと思いますが、上司に聞いても同僚に聞いても、答えらしい応えは返ってきません。

それは、成功するために必要な情報が圧倒的に足りず、暗中模索の中で企画を練らないといけなかったから、と私は思っています。情報がなければ正しい判断ができず、かつ、情報があったとしても実際に行動できる手段があるのかは、企画担当者によるところも大きいため、他人からすると成功するための鍵(KSF「キー・サクセス・ファクター」)がわからないのです。

コンサルティング業務に関わるようになってからも、幸せなことにクライアント企業の新規事業開発を支援する機会に恵まれ、同じように、最後には「どうやって?」が出てきます。
検討当初は、どうやって良いのか情報が足りないからわからない、成功する確率すらわからないものに投資できない、とならないために、一生懸命に情報を集め、わからないなりにも推定で情報を数値化しようと試みていきますよね。

それでも、わからないものはわからないのです。
そんなことを言っては元も子もないのですが、わからない中でどう行動するのかの方が、はるかに重要だと私は思っています。

その1つの一般的な解になるのが「エフェクチュエーション」という考え方です。今回は皆さまが新規事業を起こす1つのきっかけになればと思い、この経営理論を説明していきます。


1.エフェクチュエーションとは

エフェクチュエーションとは、サラス・サラスバシー教授(ヴァージニア大学ダーデンスクール)が熟達した起業家の意思決定実験を行った末に発見した意思決定理論の1つです。
大きな特徴は、従来の経営学が重視してきた予測に基づいた意思決定ではなく、コントロール可能かどうかに基づいて意思決定を行うことにあります。

ビジネススクールや中小企業診断士の勉強でも嫌というほど学習した、SWOT分析やマーケティング戦略の立案などは、すべて予測に基づいた意思決定です。これを、サラスバシー教授はコージェーションと呼んでいます。
市場の大きさ、成長率、将来的に魅力的な市場かどうか、何とか予測できないかと賢明に調査分析を行うものですね。それは、市場は発見することができる、という前提に立った行動であると言うことができると思います。

一方で、エフェクチュエーションは「不確実性の高い未来を予測しない」「未来は自分で作ることができる」ことを前提として物事を意思決定していきます。つまり、市場は自ら創ることができるということです。

詳しくは以下の書籍が参考になりますので、ご興味のある方は、手にとって見てください。

2.エフェクチュエーションとコージェーション

エフェクチュエーションとコージェーションの違いは、市場などを予測できるかできないかに違いがあることだと説明しました。

コージェーションは、目的と目標が明確になっている、という特徴があります。その上で、市場機会を的確に捉えることができる場合には、非常に有効な再現性のある論理的な考え方です。
市場機会の有無から市場の大きさが計算できるのならば、その市場で相対的な市場シェアをいくらにしたいのか、戦略的に考えることが可能だからです。
例えば、コーヒーショップを出店するときには、コーヒーの一般家庭の消費額や人口動態から、おおよその市場規模は把握できますし、そのうち30%の相対的な市場シェアを取るために何をすべきなのか、と最適な手段を考えることができますよね。

出所:エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」の図を引用 (Readら2009をもとに書籍著者が作成している)

一方で、エフェクチュエーションは、手段先行で物事を考える、という特徴があります。明確に目的や目標が見えなくても、取ることのできる手段から着想を得て、ビジネスのアイデアを発想していくものです。
例えば、私は美味しくコーヒーを淹れることができる、厳選されたコーヒー豆を仕入れられるルートと人脈をもっているから、まずはコーヒーショップを開いてみよう、という論理展開になります。(やや乱暴ですが)
コーヒーショップを開いてみた結果、新しい人脈が増えて新たに美味しいパンを仕入れるルートが増えたり、お客さんになってくれた人々の根本的なニーズがわかって、お店をお客さんに沿った店舗レイアウトに変えたり、次々に取れる手段を駆使してお店を経営することで、唯一無二な店舗ができていくということになります。

出所:エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」の図を引用 (Readら2009をもとに書籍著者が作成している)

3.エフェクチュエーションの5つの原則

エフェクチュエーションには、行動原則として5つが記されています。

(1)手中の鳥の原則
自身がすでに有している知識やネットワークに活路を見いだせ。
(2)許容可能な損失の原則
どの程度の損失までなら耐えられるか見据え、投資は不用意に拡大するな。
(3)クレイジーキルトの原則
あらかじめ定めた方針に拘泥せず、柔軟に見直せ。
(4)レモネードの原則
レモン(失敗)をつかんだら、レモネードにせよ(転用せよ)。
(5)飛行中のパイロットの原則
自動運転には頼らず、窓の外とメータからは目を離さず、自らの力で生き残れ。

神戸大学MBA「エフェクチュエーション(栗木契教授)」

(1)手中の鳥の原則(Bard In Hand)

新規事業を始めるに当たって、自分自身がすでに保有している資源を使うということです。ないものをねだっても、局面は打開できませんよね。また、できもしない理想も同じです。まずはできることから始めよう、ということです。

私の場合には、何か新しいことを始めようとするときには、ビジネススクールで得た知識、旧友や中小企業診断士の仲間へ相談など、自分の身近なリソースを活用しています。事実として、困っていることや思っていることを素直に口にすることで、助けてくれる人は大勢いるものです。

中小企業の場合は、各県に設置されている産業支援センターは、この手中の鳥として活用すべきだと思います。産業支援センターのコーディネーターが販路開拓を支援してくれたり、研究開発の道筋を作ってくれたり、いろいろな支援を実施しています。

(2)許容可能な損失の原則(Affordable Loss)

どの程度の損失まで耐えられるか?頭の痛い話ですが、許される損失の範囲を決めることをします。いわゆる、投資額を決めることですね。
ここでのポイントは、このラインまでは投資として許容するけど、それより多く投資額がかかる場合は、撤退すると決めることです。一般的には、撤退ラインと言います。

コンサルティングを実施していると、新規事業の期待利益にばかり注目しているケースをよく目にします。新規事業を始めるときに、いくら儲かるのだろう?改善効果はいくらになるだろう?と考えるのは普通のことですよね。

しかし、エフェクチュエーションでは期待利益よりも損失の範囲を予め決めておいて、撤退ラインを越えるようであれば、撤退の意思決定を行います。そうでなければ、ズルズルと失敗を引きずったまま、経営資源を投下し続けることになります。一般的には、サンクコスト(埋没費用)というのですが、今まで掛けてきた投資や時間が大きくなればなるほど、人間は撤退を選択できなくなると言われています。

逆に言えば、損失が許容される範囲であれば、取れる手段は何でもやることもできる、とも言えます。

コンサルティングの現場では、既存事業で生み出される限界利益から、例えば10%分の金額を上限として、予め新規事業に投下する予算として決めることが多いです。あるいは、すでに内部留保がある場合には、内部留保の金額のうちのいくらか、と決めています。いずれにしても、投資金額が大きくなりすぎないように設定し、極端の話では失敗しても次に活かせれば良いと思える小さな投資から始めるようにします。

(3)クレイジーキルトの原則(Crazy Quilt)

方針を柔軟に見直しなさい、ということなのですが、取れる手段を取ったときに、新たな出会いや新たな知識が入ってくるものです。
それは、第一歩を踏み出した成果でもあり、その糸口を活かしてパートナーシップを構築し、新たな手段や新たな目的を獲得していきます。

クレイジーキルトとは、さまざまな色や柄の布切れ(パッチ)を縫い合わせて作品を創るパッチワークキルトに例えられ、その中でもランダムにパッチワークキルトを縫い合わせて作品を創ることからクレイジーキルトと言われています。

私は仲間に相談して、新たに知人を紹介してもらい、その方をフックにして新たな出会いや知識を求めること、その方に直接お仕事をお願いすることなどをして、クレイジーキルトを紡いでいっています。

コンサルティングの現場でも同じようことが言えます。新規事業を立ち上げ、成功に至るまで、人脈をたどり、利用し、時には失敗しながら、何とか新規事業を紡いでいくことを実践される企業を見てきています。

(4)レモネードの原則(Lemonade)

失敗を次への成功へつなげる、ということですね。失敗を失敗のままで終わらせないで、次への成功へのステップとしていきます。

取れる手段を取ったとき、現実には失敗することの方が、はるかに多いと思います。それを失敗とするか、成功へのステップとするかは、企業や担当者次第ですよね。

私も中小企業診断士の資格試験では失敗を経験しています。しかし、失敗があったからこそ、ビジネススクールに通うという新たな選択肢が生まれ、選択したことによって、今のコンサルタントとしてのお仕事に活きていると思っています。

皆さんも、少なからず経験してきていると思いますが、新規事業も同じで絶対に成功するなんてことはあり得ないです。絶対とわかるのであれば、誰かが先にやっていますよね。だから、失敗を成功へのステップにすることが大切だと思います。

(5)飛行中のパイロットの原則(Pillot In the Plane)

「自動運転には頼らず、窓の外とメータからは目を離さず、自らの力で生き残れ」ということですが、これは環境変化を自ら感じ取り、自ら変化に対応することを怠らないことを指しています。

新規事業を行った際に、最終的に上手くいきました、で終わりではなくて、そこに市場があるとわかると、競合他社が攻め込んでくるということは日常茶飯事ですよね。
さらには、政府規制の変化、経済状況の変化、世論の変化、技術の変化など、世の中はかなりのスピードで日々変化しています。

実際、せっかく成功の芽を掴んだにもかかわらず、環境変化に上手く対応できずに他社に遅れを取った、そして、もう市場からは排除されてしまった、ということも起こり得ますよね。
そうならないためにも、環境変化を敏感に感じ取り、事業に変化を加えていくことは非常に重要です。

ここで使えるのが、コージェーションのプロセスだと思います。エフェクチュエーションで新規事業が軌道に乗ったら、コージェーションでマーケティング戦略を加速させることは非常に有効です。

4.まとめ

本日はエフェクチュエーションについて、説明しました。
“新規”という魔法の言葉を、実際にやっていこうとすると、まずはやれることからやってみる、ということです。

こうやって記事にまとめてみると、人と会う・お話するって大切だなと思います。新しいことを始めるときには、人との関係でいろいろなことが成立していくと思うからです。自分だけの知識では、何かと限界がありますよね。

皆さんも、やれることからやってみる、を実践していただけたら嬉しく思います。

(執筆者:中産連コンサルタント 岡部)
中小企業診断士・経営学修士(MBA) 伴走型支援が得意で、クライアント企業様と一緒に課題を見つけ・悩み・解決することをお仕事にしています。


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