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世間知らずの起業物語 その13

新会社を作ることはまだ社内では決定していない。がしかし、SolarTech社の冨岡さんからの電話では、それが決定事項のように伝わっていた。いつものことだが、コンプライアンスもなにもない。。。

販売ができない

僕:『冨岡さん、なんで知ってるんですか?』

笑いそうになるところを押し殺しながら、いつものように川上会長が、社内の秘密事項を外部の人に先に話してしまっているのはよく分かっていた。

冨岡:「いやー、会長言ってましたよ。佐藤さんが会社作るって」

僕:『やっぱ、そうですよね。会長しか言わないですもん』

冨岡:「あ、まだ決まってないんですか?もしかして」

『そうなんです』と答えながら、管理職会議の状況など、まだ決定していないことを冨岡さんに伝えた。

冨岡:「そうなんですか。まぁ、いつものことですけど、大変ですね(笑)」

僕:『いえいえ。まぁ高圧の販売がうまく進めば、話もなくなるかもしれないですけど・・・』

冨岡:「あー、それですか?」

僕:『あれ?冨岡さん何か知ってるんですか?』

冨岡さんの含みのある返事に、僕はすぐに反応した。

冨岡:「いやぁ、僕が紹介したお客さんなんですけど、契約の直前でダメになっちゃったんですよね。」

僕:『え?でも、それは普通にありません?』

額が大きいので、最後の最後で契約がまとまらない、ということも少なくない。
だから、そんな理由で新会社を作る、ということにはならないし、むしろ、額が大きすぎて新会社で販売することはそれなりにハードルが高いはずだった。

冨岡:「いや、それが、契約できない理由が、お客様のコンプライアンスの問題だったんですよ。グループだと契約が難しいらしいということで、実は僕の紹介したお客さんで何社か同じ理由でお断りになってるみたいです。」

不都合な理由

僕:『あ、そうなんですね。』

これは初耳であった。
少し前に、社内の業務効率化のためのERPパッケージを導入しようとしたが、与信が通らず、契約ができなかった。という話を聞いていたのだが、発電所の販売も難しかったことは初めて聞いた。

冨岡:「あれ?佐藤さんご存じなかったですか?」

僕:『あぁ、そうですね。今、初めて聞きましたよ。ありがとうございます。』

冨岡:「あ!言っちゃいけなかったのかな?スミマセン!!」

少し戸惑いながら電話を切り、新会社を作ることに至った一番のきっかけはこれだということが、やっと理解できた。

『なるほど』

と、僕は心の中で納得した。

『しかし、これは事前に聞いておきたかったことだな。』

販売チームの動向は、なかなかチームを超えて伝わってこない。

大きな会社であれば、縦割りで情報共有ができない、ということもあるだろう。

しかし、うちみたいな20名ちょっとしかいない、販売の担当も2名しかいない小さな会社である。そして、工事の進捗と販売のタイミングが合っていないと会社もうまく回らないはずなのである。

しかし、山田の販売の情報統制は厳しかった。個人情報だから、という理由で販売の情報は誰にも共有せず、川上会長と山田だけが情報を独占していた。しかし、一方で工事の情報は我々に事細かく「報告」を求めるのだ。

それが、これまでの7年間の現実であった。

もちろん、工事の進捗に関わることである。
工事側の責任者である僕から、情報共有は求めてきていた。
しかし出てくるのは、決定したことだけ。

そもそも決定したことに対して工事を進めているので、知っている範囲の情報だけしか共有はされない。こちらの情報は全て共有してきていたのにだ。

そして、まさに今、このタイミングで、販売に関わる大きな問題を、社外の人間から聞いて把握したのだった。

あれ?これって。

『僕は、販売のために、新会社を作るのか?』

想定外の出来事に、大きな不安が一気に押し寄せてきた。

つづく

※この物語はフィクションです。

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