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もう一つのあったかもしれない世界を想像してみる201123

今年の夏前頃から書いている日記のタイトルを「たいしたことない日々のこと」としていたものの、ここ最近の出来事はたいしたことがあるじゃないか、と思い直して、あらためて違うタイトルがいいな、何にしようかなと思ったら単純に記事ごとに別個のタイトルをつければ良いだけの話だった、と一周回って普通の日記を書くことにした。

前回は1ヶ月前。目まぐるしく過ぎ行く時間に心の方が追いついていなかったようだ。

忘れたくても忘れられないことばかり。最近の日常には「いまが最高の瞬間だな」とか「強烈な印象を残す光景になったな」と思うことがいくつもある。それは新型コロナウィルスがあったからこそ感覚が鋭敏になり、普段の受け取る以上の情報までも感じ取って、さらに貴重に、あざやかに、紡がれているからなのかな。だとすればコロナのおかげなんて何一つ言いたくないけれど、自分のこころに大きな影響を与える必要な通過儀礼だったということは、絶対的な事実だとも思うのだよね。

コロナがなかったら2020年はどんな年になっていただろう。

3月、4月、5月。オンラインでのイベントは今ほど多く開催しなかった(されなかった)から、ゆるりと過ぎゆく日常のなかで仕事をひたすら続けていた。行きつけのカフェに行って仕事の手伝いをしたり、あるいは友達と夜飲みに出歩いたりして、昨年と変わらず東京生活を満喫した日々を過ごしていたか。

6月にはフランスに訪れていた。その際に実施された(されるはずだった)パリ・ソルボンヌDUEFの試験には合格したか失敗したか、結果はさておきうまくいかなかった場合でも9月以降に再度挑戦し、あるいは違う学校に登録をしなおして執念深く来年5月までフランスに滞在していただろう。目的地は変わらず、Parisだったと思う。

8月にはオリンピックが開催されていた(されるはずだった)。運良く知り合いが当選したチケットの恩恵にさずかって大好きな競技の空手の最終決戦を武道館で見ていたかもしれないし、大きな歓声をあげながら盛り上がり、夏の暑さに辟易としながらも日本に世界中から多くの人が訪れることを、喜んだだろう。

9月、10月。この時期は予定どおりフランスにいた。その上でわたしは会いたい人に会いに行っただろうか。巡礼中に出会った母親と同じくらいの年齢の友人、ドミニクに会いにToulouseに向かったのは、試験の不合格という結果とコロナの感染拡大が背景にあり気持ちが塞がっていた時だったから、実際コロナがなければ、彼女に会う決心をしたのか否か。その後に尊敬する友人に会いにCholetに向かったのも、コロナがなかったら会いに行っていたかどうだったかな。

11月。今月に至っては、現在のように日本には戻っていない。昨日あった京都でのお出かけも、大好きな友人たちとの再会も美味しい湯豆腐の夜ご飯もたくさん笑いあったあの会話もわたしは知るよしもなかったし、フランスにいてその集まりのことを考えれば不参加への寂しさにいたたまれなくなるから、深入りすることなく、淡々と学業に励む日々だっただろう。

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一方、コロナの影響で出会えたフランスにいる大切な人たち。運命論的に考えればウィルス感染拡大の状況でなかったとしても、いつかは、来年とか再来年とかに別の方法で知り合いになって、一緒に笑い合いながら楽しく日々を過ごせていたかもしれない。

選ばなかったはずのこの現実で、今この2020年わたしは彼らに出会った。共にラクレットを食べたり日曜日のマルシェに行ったりして、ウィルスが蔓延し人々がストレスや緊張感を抱くこの時代を共に同じ視点で、同じ土地で、同じように眺めている。来週の状況はどうなるだろうね、と語りながら、今現在、わたしたちは不確かな未来を見据えて生きている。

ある日、聡明な友は言った。

「En 2020, qu'est-ce qui est normal ? 」
(この2020年において、なにが普通だといえるの?)

昨日の京都の集まりで、ひとりの男性が言った。

「世の中って、どこにあるんだろう?」

「普通って、なんだろう?」

当たり前が時代とともに変容して、普通が普通でなくなる。何が起きてもおかしくない世の中。もう一つあったかもしれない世界、新型コロナウィルスの存在しない世界だとしても、変わらずに投げかけられた問い。

「あなたはどう生きていきたいのか、この目の前の現実でいったいなにをしたいのか。あなたにとっての普通とは、なんなのか」。

もう一つのあったかもしれない仮説の現実を想像してみたところで、世界は変わらない。目の前にある現状を引き受けてどのように対峙するのか、「普通」の定義、価値観をいかに更新していくのか、それだけが今の自分には、求められている、そんな気がする。

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